猫の手も借りたい(上)
「頼むから中に入れてくれにゃ。食料も水も尽きた、ケガ人も居るにゃ。次の町や村までは保たない。やっとここまで来たにゃん。 頼むにゃ」
獣人族の旅団が城門前に待機している。
人数は五、六十位だろうか、馬車が十台程ある。中には、女性や子どもが乗っている。
リーダーらしき獣人族が頭を下げ交渉しているが難航して上手くまとまらないようだ。
「駄目だ、駄目だ。 獣人族など入れられるか! ウチは異民族はおろか他国との貿易も制限しているんだ。いくら粘られても無理なものは無理だ」
「女、 子どもも居るにゃん。金なら幾らでも支払う。頼むから入れてくれにゃ。 このままでは餓死してしまうし、ケガ人も助からないにゃん」
獣人族のリーダーは、城門前に土下座している。
「メルル様・・・」
他のメンバーも皆、メルルと呼ばれたリーダーの後に続き土下座する。
「ーーーー」
そのあまりの光景に言葉を失う城門の兵士。
「何の騒ぎだ」
一人の少年が城門の近くにやって来て兵士に尋ねる。少年にしては貫禄があり高貴な雰囲気が漂っている。
「アクセル様・・・いや、これは」
しどろもどろになり焦る兵士。
それを無視しのぞき窓から城門前を見ると土下座している獣人族の姿が見えた。
アクセルと呼ばれた少年は心打たれた。
「獣人族・・・訳を聞こうか」
「はあ、実はーー」
兵士は、先ほどの経緯を説明するが兵士自身では判断が出来ないのが本音ではある。
現在の国王の命令により鎖国状態なので異民族の入国は出来ないのである。
アクセルが一通り話を聞くと城門の、のぞき窓から叫んだ。
「話は聞いた! 今から城門を解放するので中に入るといい」
「アクセル様何を」
兵士は、口を開いたままで目をまん丸にしている。
「本当か! 感謝するにゃん」
物凄い大音量の石がずれる音が国中に響き渡る。
城門が開放され、獣人族の旅団が入国した。
そしてーー再び城門は封鎖された。
「アクセル様、今は王選の最中でこのような事をすればあなたのお父様には不利になりますよ」
「別に構わないさ。今回の件は俺の独断の判断だと伝えてくれ。それに父は必ず国王になるよ」
城門兵士の肩をポンと叩き入国した獣人族の方へと歩み寄って行った。
この時、まだ皇子になる前のアクセルだったーー。
★ ★ ★
「このたびはありがとうございますにゃ」
メルル含め、他のメンバー全員が頭を下げる。
「例はいらない。この場所では目立つので俺と一緒に王宮の外れに来てくれ」
そう言うとアクセルは獣人族を先導して王宮へと歩き出した。
メルル達獣人族は、何のことかよく分からないが言われるまま少年の後をついて行く。
その理由はすぐわかることになったーー、
メルル達を影から見る沢山の冷ややかな目線の数々、明らかにお呼びでないと言わんばかりの視線。
寂びえた城下町、店など何一つ開いていない。
この事実に言葉を失うメルル達ーー、
「驚いただろ? 食料と水の調達をこの国でするなんて無理だろ」
「ーーーー」
何て返したら良いか言葉が出ないメルル。
「あの城門は、何故出来たと思う?」
「敵から国を守る為では?」
アクセルは、首を横に振る。
「自分たちの殻に閉じこもり他の国の繋がりを絶った。 他国に侵略されるのを恐れた。武器を持つこともせず、 戦う前に国に蓋をしたんだ。 この国の人間は全員が臆病なのさ。
あの城門は臆病の象徴だよ」
アクセルは、悔しさのあまり唇を噛んだ。
「この国の今の状況は・・・」
「他国との貿易を規制してしまっているので品薄状態。 更に王宮へ全て食料などが流れてしまっているので国民にはほとんど食料が流れてこないんだよ」
「にゃんと・・・」
しばらく歩くと王宮の前にやって来た。
しかしーー 護衛の兵士など見当たらない。
そのまま王宮の敷地内を通り抜けると中庭がありその端に、離れの邸宅があった。
「この国は、城門があることで安心しきっているんだよ。 突破された事を考えていないしもしもの備えも出来ていない」
「ここは?」
「俺の家だよ。中庭の隅に馬車を停めるといい」
「こんな立派な豪邸・・・君は、一体何者にゃんだ」
「王選候補 ヨーゼフの息子 アクセル」
「そうでしたか。申し遅れましたにゃん。私は、メルル。私たちの種族は国を持たない漂流民族ですにゃん」
「国を持たない、なぜ?」
「他国と戦う戦闘民族である故、物を造ったり田畑を耕したりが苦手ですにゃん。国を動かす頭も無く、全てその場しのぎの政治しか出来ないので国を守れるが、国を動かせないのが私たち種族なのですにゃん。なら、国を持たずにどこか平穏に暮らしが出来る場所を捜した方が良いと考えたのですにゃ」
アクセルはメルル達の服装をまじまじと見た。
全員が軽鎧を装備し腰に剣を差している。
先ほどメルルの言っていたのは真実のようだ。
アクセルは思った。
この獣人族を使って父を王に押し上げることができるかもしれないと。
「メルルと言ったな?」
「はいにゃ」
「俺の父が王になったら君たち獣人族にこの国に領地と活躍の場を与えることを約束しよう」
「領地は分かりますが、活躍の場とは?」
「この国のためとは言わない。なら、俺のための剣になれ!家族や仲間を守るための騎士団を結成する」
「騎士団・・・ですか」
「この国は猫の手も借りたい状況下だ。戦う兵士なんて一人もいない。岩壁の上に造られた国の地理条件と城門で敵が来ないと信じ切っているからな」
メルルはこのアクセルという男を不思議そうに見ていた。
出会って数時間しか経っていないのに、この男の言葉はどこか人を信じさせてくれる。
この男について行けば明るい未来が開ける。
そんな風に思わせてくれるのだ。
「王選と言ってましたにゃん」
「ああ、何としても父を王にしたい」
「具体的にどうすればいいにゃん」
「国を守れるのは俺たちだけだと、国民全員に認めさせればいい」
アクセルは自信満々に言って退ける。
ーーしかし、
「そう都合良く敵襲があるのかにゃん?」
その言葉にアクセルの顔は厳しくなる。
「今、頻繁に敵に攻撃されているんだ。この国の現状の状況下もそれが影響している」
ふむふむと頷きながら、
「敵とは?」
「新聖教のクルセーダーズだ」
「にゃんと!!」
「この前の魔女狩りで親交のあった友人を助け出したんだ。それから多分、魔女の生き残りを捜してこの国に攻め込んでこようとしているんだと思う」
「友人とは・・・魔女にゃん?」
「ああ、幼馴染みの古からの友人だ」
「そうですかにゃん」
メルルが暫し考えていると、
アクセルの顔付きが変わる。
メルル達、獣人族の何人かも馬車を乗りメルルに駆け寄る。
「邪悪なオーラをびんびん感じますにゃ」
「流石だな、この国では俺以外誰もこの殺気を感じ取れないぜ」
アクセルが腰の剣を高々と天に捧げる。
「早速で悪いが、国民へのアピールするチャンスが出来た。戦える者は俺に続け!」
その言葉は自然と獣人族の心を震わせた。
☆
「ーー言っても人間がどれだけやれるんかニャ?」
「この人魔力は感じにゃいね」
「スピード等の身体能力は絶対僕達のが優れてる筈にゃんよ」
城門開放を待つ間、獣人族たちは思い思いに言葉は口にする。
少なからずアクセルの耳にも届いていた。
メルルも実際心に思っていた事だったのであえてその会話に口を挟まなかった。
地響きにも似た音を立てて城門が開く。
「期待してるぜ猫ちゃんたち!」
「にゃははは!それだけ大口を叩いてるんだコッチも期待してますにゃ」
お互い顔を見合わせ自信満々の笑みを浮かべていた。
ーー お互いの実力は ーー
本編の話がまとまらず投稿出来ずにすいません。ストックの話で申し訳ないですがお楽しみ下さい。




