精霊ミリア物語⑨
ーー城下町の倉庫を見張り続けて数時間
「もう、まだ倉庫に行かないのかしら?」
ミリアは待ちくたびれていた。
これが作戦でここに近づく人物を獲られる事は少し離れた場所にいるミリアまで声が届いていないのだ。
「仕方ないなあ、私が代わりに倉庫の中を調べて来てあげよーかな。身体も小さいし捜索には便利だもんね」
ミリアは「よしっ!」と気合いを入れ、ふわふわと倉庫に向かって飛んで行った。
幸い高度を上げて飛んでいた為、魔法トラップには掛からなかったが、倉庫の窓に触れた途端、事件は起こるーー。
☆
城下町の倉庫から物凄いサイレンの音が響きわたるのと同時にミリアの身体全身に電撃が走るーー。
「きゃああああああ!!」
思わず悲鳴を上げてしまうミリア。
そして、そのまま気を失う。
何事だと倉庫からニ名の黒ずくめの男達が武装しながら様子を伺う。
「ーー良く分からないですが目標の姿を確認出来ましたね」
兵士の一人がヴィルに話しかけるが、ヴィルは何やら考え事をしているようだった。
「おい、さっきサイレンに混じって小さいが悲鳴が聴こえなかったか?」
「えっ?悲鳴ですか・・・僕は何も」
「私も聴こえませんでしたが・・・」
兵士二人が首を傾げる中、見張りの兵士が報告を告げる、
「黒ずくめの一名が何か倉庫の側面で発見したようです」
思わずヴィルが身を乗り出し黒ずくめの手元を確認する。黒ずくめの手に握られているのは他でも無いミリアだったーー。
「何だ?この精霊は・・・やけに青白いな」
「コイツあれじゃね、烙印押された精霊で悪魔に成り下がったマヌケだよ」
「マジかあ」
黒ずくめ達が大笑いしながら倉庫に入ろうとするまさにその時ーー、
「ーーその子を返してもらおうか!!」
キツネ目の男が鬼の形相で背後から声をかける。怒りを押し殺してもその異様なまでの怒りは溢れ出していた。
「な、、何だこいつは?」
一人の黒ずくめの男が気付いた。
「帝国の聖騎士ヴィル・クランツェだ!!」
叫んだ瞬間ーー刹那の如くミリアを掴んだ男の腹部にヴィルの正拳突きが入る。
男がもがき苦しんでいると他の黒ずくめ達が魔法をヴィルに放つーーしかし、ヴィルはそれを後方に回転しながら回避する。
「クソっ、この至近距離からの魔法を回避する何てなんて奴だ!」
「ああ、天才とか言われてチヤホヤされてるのは伊達じゃねーな」
黒ずくめの男二人は銃を取り出すと魔法を込めた銃弾をセットする。
「これは避けられないだろーよ!!」
引き金を引いた瞬間に銃声が鳴り響く。
しかし、その場に倒れたのは黒ずくめの男二人だったーー。
引き金に手をかけた瞬間にヴィルは男達を腰に差してある剣で切り裂いていたのだった。
血吹雪を上げた男達は二度と立ち上がることは無かった・・・。
☆
「ヴィル隊長・・・」
銃声を聞きつけ、兵士たちが倉庫へと入って来た。
そこで見たものは血塗れで倒れている黒ずくめの男二人と、悪魔らしきモノを両手に抱えたヴィルの姿だったーー。
その異様な光景に兵士の一人が口を開いた。
「ヴィル隊長は任務よりもその悪魔を優先したのですか?」
「最初で最後のチャンスだったかもしれないのになぜ?」
「何の為に僕らは何ヶ月も情報集めに駆け回り、準備してやっと尻尾を捕まえたのに。どーして?」
「・・・・・・」
ヴィルはミリアを見つめたまま無言だった。
「その悪魔でしょ?そいつが魔法トラップに掛かったから黒ずくめ達が気付いたんでしょ?ならそいつを殺して下さいよ」
「お、おい」
一人の兵士が言い過ぎだぞと静止するが、
「そいつが居なければもしかしたら任務は成功してたかもしれないじゃないですか」
「まあ、確かに・・・」
制止していた兵士も一理あると納得していた。
「精霊なら兎も角悪魔なんですから殺しても大丈夫ですよ」
その言葉にヴィルは怒りを感じたが、ぐっと堪えた。それは自分の野心の為だった。
そして、ヴィルの出した答えはーー、
「俺の知り合いの子なんだ。今回はこの子を連れてきてしまった俺の責任だ。みんなすまない。この子には何の罪も無い。許してくれ」
ヴィルがみんなに必死で頭を下げた。初めて見る、ヴィルが人に頭を下げている姿に誰もが驚いた。
「何で?何で私なんかを庇うの付いてきたのは私の勝手でしょ?何であなたがみんなに謝るの?私なんて死んだって構わないんだからこのまま一掃の事殺してくれても構わないんだから」
「ーーーー」
「私なんてもうどうせどこにも居場所がないだからあの時そのまま私を放って置いてほしかった。助けてくれなくて良かった」
「放っておける訳ないだろ!生きたくても生きれない人間は沢山いる。君は今こうして生きてる。居場所がないんじゃない。居場所は誰が与えてくれるんじゃないんだ。自分で見つけるものだ。生きていれば必ず君の居場所は見つかる。たった一度の人生なんだ。もっと自分のことを大切にしろ」
「・・・・・・」
ミリアの心にヴィルの言葉が響く。
「説教みたいで悪かったな。帰ろう」
「・・・どこへ?」
キョトンとするミリアに、
「俺の今住んでるのは帝国城のいつもの部屋だよ。あそこじゃ不満か?」
「うんん、不満じゃないよ。私もついて行っていいの?」
「行くとこ無いんだろ?なら来いよ」
「うん・・・ありがとうヴィル」
ここからヴィルとミリアの物語が始まったのだったーー。




