精霊ミリア物語⑧
ミリアはゆっくりと目を開けたーー。
そこには見知らぬ天井が広がっていた。
ミリアの最後の記憶はあの忌々しいサタンとの口付けだった。
思い出すだけで吐き気がする。ーーその瞬間自分がもう精霊では無くなったとはっきりと分かってしまった。
そっと自分の左腕を見てみる。
そこにはくっきりと悪魔の血の烙印が刻まれていた。
「私は、私はやっぱりあの時・・・夢じゃ無かったんだ」
ミリアは両手で顔を覆って、溢れ出てくる涙を拭っていると、
「気付いたのか?」
ヴィルがミリアに問いかける。
「・・・・・・」
キツネの男の姿を見ても無反応のミリア。
その姿に一瞬戸惑ったが、ヴィルはそれ以上その日はミリアに構うことは無かった。
☆
それからは二人の妙な関係が始まる。
お互い会話はほぼ無い。
それでもミリアはヴィルの部屋からは一歩も出なかった。
ヴィルは一言もミリアと会話はしなかったが、食事は毎回用意していった。
ミリアもその食事を当たり前のように食べていた。おかげでミリアの体調や心は徐々に回復して行った。
そんなある日ーー、
ミリアの出来心だった。
初めてミリアから行動を起こした。
ヴィルの事が気になり始めた頃だった。
自分は精霊では無い。
悪魔にもなりきれていない。
何者でも無い存在なのに、何も聞かず何も語らないのに側に置いてくれる。
そんなヴィルが気になって仕方なかった。
普段彼は何をしているのか興味が湧いてきていたのだ。
「こっそり付いて行ってみよう」
ミリアは、そっとヴィルの後を付いて行ってみる事にしたのだった。
☆
「今回のミッションだがかなり慎重に行う必要がある。謂わゆる極秘ミッションだ」
そこにいる二十名程の騎士全員がコクリと頷いた。
「連中は、帝国の資産を横領し他国へ流出させている。何としても捕まえ、ルートと流している国を吐き出させろ!良いな!」
「はっ!!」
「ヴィル、今回もお前が隊長として指揮を執ってくれ。期待しているぞ」
トーマスに肩を叩かれるヴィル、その期待の大きさが伝わってくる。
「はい、任せてください。必ず成功させてみます」
柱の影から様子を伺うミリア。
騎士達が普段着で街中へと消えて行く。
ミリアもヴィルを見失わない様に必死で付いて行く。
誰にも見つからない様に、誰にも見つからない様に、慎重に、慎重にっと、呪文のように心の中で唱えながら胸をドキドキさせながらヴィルの後を追う。
☆
騎士達はある程度の目星が付いたのか、何名かを残し去って行った。勿論、ヴィルはその場にとどまった。
「ここからは更に慎重を要する。決して気付かれてはならない。心してかかれ!」
「はっ!」
ヴィルを含め四人での行動となる。
前後左右、それぞれが見張りながら帝国の城下町の外れにある倉庫のような場所にやって来た。どうやらここに目標の人物達がいるようだ。
残り数十メートルまで来るとヴィルが皆を停止させる。
「魔法トラップが仕掛けられている可能性がある」
そう言うと、ヴィルは右手を筒のような形をして覗き込むーー、
「探知魔法」
ヴィルがスコープで確認するとやはりあちらこちらと魔法トラップが大量に仕掛けられていた。
「これだけのトラップだ。ここで間違い無さそうだな!」
「どーします?」
「中への突入は無理だろう。ここへ出入りする人物を獲られるのが最適と俺は考える」
「・・・確かに」
「ここへ近づく人物がいれば即確保だ。いいな!」
「はっ!」
ーー城下町の倉庫をアジトその実態はーー




