精霊ミリア物語⑤
ホーエンハイム城壁前では、薔薇十字軍とキャットハンズの凄まじい攻防が繰り広げられていたーー。
「何デス? こんな可愛らしいお子ちゃま相手に苦戦しているのデスか。 薔薇十字ともあろう者達が恥ずかしいデスね」
「恥ずかしい、はずかしい、ハズカシイ」
「魔女の香り・・・確かにここに居るのデスね。 少しだけお手伝いしてあげます」
ローブを脱いだその姿は肌が紺色、目は赤く、とがった耳を持ち、とがった歯を有する裂けた口を持ち、頭部にはヤギのような角を生やし、とがった爪の付いたコウモリのような翼に尻尾が生えている。 手には三又に割れた槍を持っている。
そう、 悪魔サタンだ・・・。
「悪魔族・・・」
「メルル様」
「分かるにゃん! いくぞ!」
「にゃん!!」
サタンと悪魔族目掛けて一斉に先頭に立っていた四人は駆け出す。
「軽く相手してやりなサイ」
「御意」
ミント、 たまが飛び出すと悪魔族目掛けて二人が交わるようにクロスに切り込む。
その背後の死角カスケードが回転しながら悪魔族目掛けて切り込む。
そしてーー 天高く舞い上がっていたメルルが悪魔族の脳天目掛けて一撃ーーーー
まさに、 連携。 一連の無駄のない動きと鍛錬に鍛錬を重ねた賜物だ。
「殺られた、 やられた、 ヤラレタ」
悪魔族の一人は砂のようになって崩れ落ち消えた。
「ふーん。 お見事デス。 次は同じ手は食わないデス」
サタンは、 印を結び何やらブツブツと呪文を唱え始めた。
「デビルよ! 我が魔力を分け与える」
「ひぁはははははははは」
デビルと呼ばれた悪魔族の目つきは鋭くなり牙は剥き出し顔つきは明らかに変わった。
「なんだ? 顔つきが変わったよーな」
「変わったのは顔つきだけではないですにゃん。 魔力が桁違いに増大してますにゃ」
ミントは血相を変えてメルルの方を見て叫ぶ。
「ひぁはははははははは」
キャットハンズの兵士達に向けデビルの口から黒い炎が吐き出される。
「ヤバイ! その炎には触れるなあああ」
「ダメにゃーー 範囲が広過ぎる」
ーー 避けれない ーー
「だから俺を呼べって言っただろ」
黒い炎の中に男が一人は立っている。
「ーーーー⁉︎ 何者デス」
その男の差し出す剣に黒い炎は、 吸い込まれる。
「マジックセールソード(魔封剣)」
ーー この声はまさか ーー
「アクセスにゃん!」
「俺の出る幕がないんじゃなかったか? メルル」
城門前は、アクセルの登場に喝采が沸き起こっていたーー。
「サタン、 あの時の恨み忘れたことは一度もないわ! 覚悟しなさい」
ルナの魔力が一気に膨れ上がる、 周りにいるキャットハンズの兵士達も鳩が豆鉄砲を食ったように驚く。
隣に居たアクセルは、 笑みを浮かべた。
「グフフ。 なるほどなるほど、 あの時の光の精霊デスか。 これは面白いデス」
「何だ? 悪魔と知り合いなのか」
「因縁ね。 少し訳ありなのよ」
「とりあえずあのちっさい方から片付けるぞ!」
アクセルは、 黒い炎を纏った剣を構えるとその場で剣の素振りをするようにデビルに向かって振り抜いた。
その太刀筋は、 無形の剣となりデビルを黒い炎が包み込む。 これがアクセルの魔封剣の威力、 敵の魔法を吸い取りその魔法を無形の剣にする。 防御不可能の見えない斬撃。
「ひぁはははははははは・・・」
デビルは、 黒い炎に包まれながらもがき苦しんでいる。
「天に輝く光の化身よ、 我にチカラを与えたまえ・・・我が名はルナ、 月の精霊の名の元にーー」
全身を包んでいたオーラがルナの右手の集まるーーそしてもがき苦しんでいるデビルに向かって一気に魔力を解放する。
「消え去れ! 聖なる彗星」
光の輝く特大な流星がまるで隕石のようにデビルに向かって落下した。
真面に衝撃を受けたデビルは跡形もなく消え去ったーー。
「これが精霊のチカラにゃん・・・」
メルルは、 信じられないと言った表情でポカンと口を開けていてた。
「上出来、 上出来。 魔女の前に掘り出し物を発見デス。 私もまだ完全体ではないデスがお相手して差し上げましょう」
「魔封剣のインターバル中だ、 ルナ援護頼む」
「任せてアクセル! 」
「行くぞ!!ルナ」
あのキャットハンズのメルル達以上のスピードでサタンに向かって一直線ーー、
端から見たら一瞬消えたように見えるスピードだ。
アクセルの剣がサタンを襲う。
しかしーー、
「人間にしては、 なかなかのスピードデス、 私に剣を突きつけようなどと考えないことデス」
アクセルの剣は空を切る。
「くっ、当ててやる」
アクセルは、 更にサタンに向かって踏み込むと一瞬で背後の死角をつき斬りつける。
「無駄、無駄、グフフ」
またも空を切る。
「こちらからいかせてもらうゾ」
サタンから異様な魔力が増大する。
その場にいる全員が身震いする程の魔力だ。
「ルナ!! みんなを頼むぞ」
「任せて! あなたもよアクセル、その場から離れなさい」
「光の精霊のお子様如きが我が魔力を防げると思うなよ」
サタンの両手に闇の魔力が集まるーー。
「朽ちろ! ダークマター」
闇の波動が波のように押し寄せる。
「天に輝く光の化身よ、 我にチカラを与えたまえーー 天の障壁 ライトニングウォール」
サタンの魔法とルナの障壁がぶつかり合う。
「うっ・・・駄目だわ。 やはり契約してない精霊の魔法なんて悪魔族からみたら赤ん坊みたいなものだわ」
「グフフ。 無駄デス、 死ね人間ども」
「ダメ。 障壁が剥がれるはみんな衝撃に備えてーーーー」
キャットハンズ達は、 地面に伏せていると。
「顔を上げろ、 馬鹿ども! 敵に無様姿を見せな」
アクセルが皆の前に仁王立ちする。
「アクセル・・・」
ルナの隣に立ち頭をクシャクシャに撫でる
「インターバル終了だ。 ナイス時間稼ぎ」
剣を前に構えると見る見るうちにサタンの魔法が剣に吸い込まれる。
「ーーーーーーッ」
「|マジックセールソード! 《魔封剣》チャージ完了」
アクセルは、サタンを見ながら口元を緩めた。
「ーーーー人間風情が調子に乗りすぎデス」
サタンの怒りは全身を駆け巡り頭から湯気が出るように目を血走らせている。
「普通の剣の太刀筋なら効かないが、 無形の剣は止めらせるのか」
サタンに向かって剣を構え、 思いっきり素振りをするように振り抜くーー。
闇の魔法を帯びた無形の斬撃はサタンを斬りつけた。
「ーーーーッ!!!」
サタンからおびただしい血が噴き出す。
そして、 苦痛に満ちた表情を浮かべてた。
「己れ、 人間よ。 悪魔族に楯突いたことを後悔させてやるゾ。 ペダラン来い」
そう言うと千鳥足でふらふらと人間の男がサタンの元にやって来た。
「悪魔族も人間の生命力、 精神力を借りることにより魔力を増大させることが出来る。 精霊は契約など面倒な手順を踏まなければならないが悪魔族は違う。 奪えばいいのだ」
そう言うとペダランの頭に手を乗せ生命力、精神力を奪う。
「これは、 ヤバイな。 インターバル中で魔封剣が使えない・・・」
「撤退しようにも後ろは城門、 横は断崖絶壁、 前はクルセダーズの大軍にゃ」
「人間に本物の恐怖を教えてヤル! 悪魔族に逆らった罪は重い」
サタンの魔力は、 膨れ上がる。
この世のものと思えない悍ましい魔力がサタンを包み込む。
全員が終わったと思ったーー。
それほどまでサタンは恐ろしく強大な魔力を帯びている。 まさに悪魔だ。
キャットハンズの兵士たちやカスケード、たま、ミント、メルルさえもう立ち上がる気力を失う程の圧倒な力の差を目の当たりしている。
ーー ああ、 此処までか ーー
誰かが口にしたような気がした。
「終わってたまるか、簡単に諦めるか」
アクセルの目は死んでない。
「アクセル・・・」
ルナと目が合うアクセル・・・
アクセルは、しばらくルナを見つめる。
「エッ? 嫌だ。こんな時に何よ」
顔を真っ赤にして顔を隠して照れるルナ。
ーー 運命の選択 ーー




