精霊ミリア物語④
「高魔力の二匹の内の一匹手に入れられただけでも良しとしておきましょうか。光属性の精霊はさすがに下僕たちには武が悪いデス」
「嫌、離してよ!」
ミリアがデビルの腕の中で必死に抵抗している。
「コイツの魔力を吸収すれば私の魔力も約六割程までに回復するのデス。本来の姿にはまだまだ遠いデスが、この世界を手に入れるには十分なはずデス」
ゆっくりとミリアに近づくサタン。
「嫌、何、辞めて来ないで!嫌、来ないでよ!誰かぁぁぁぁ、誰か助けておぉぉぉ!」
デビルに後ろから両腕を掴まれ動けないミリアに、無理矢理顎を持たれる。
「な、何するの?辞めて・・・お願い」
涙をポロポロ流すミリア。
そしてーー、
悪魔と永い永い口付けを交わす。
☆
世界樹の結界の前には沢山の精霊たちが何度も何度も結界を叩く。
精霊界に帰りたくても帰れないのだ。
涙は枯れ、血の涙を流す精霊もいる。
悪魔の血の烙印を押された精霊はもう二度と精霊には戻れないのだ。
それは、精霊ではなくもはや悪魔なのだ。
「るな、るな、帰りたいよ。助けてよ」
ミリアもまた同じように世界樹の結界の前で何度も結界を破ろうと叩くが、破れる事はない。
そんなミリアの元にあの悪魔が再び現れるーー
「グフフ、諦めたまえ。もうそちら側へは戻れはしないよ。君も分かっているはずデス」
言葉の主を睨み付けるミリア
「時期に精霊としての心も失いコイツらと同じように私の指示に従うことになるのデス」
「どーゆー事?」
「悪魔の血の烙印はその名の通り、悪魔族の証デス。その悪魔族のトップが私なのデス。即ち私の声は絶対なのデス!!」
ギリギリと歯ぎしりを立てるミリア。
悪魔に堕ちても尚、コイツに振り回される屈辱。一層の事あのまま殺される方がマシだったと思える程だ。
「グフフ、貴方程の魔力の持ち主はなかなかいません。是非私の為に働いてもらいますデス」
ニヤニヤと不気味な笑いを浮かべるサタン、そんなサタンを直視し睨み付けるミリア。
「ーー連れて来るのデス」
「キィー!!」
その一言でデビルはミリアを羽交い締めする。
「うっ・・・や、ヤメて・・・」
そのまま意識を失うミリアだったーー。
☆ ☆ ☆
どの位の時が経ったのだろうか・・・。
頭がボーッとして何も考えられない。
私は誰?名前は?
何も思い出せない・・・。
「頭がズキズキする・・・ここはどこなの?」
ミリアが頭を抱えて地面に膝立ちでいると、テントの入り口が開きデビルが顔だけ覗かせる。
「サタン様がオヨビダ、ツイテコイ!!」
それだけ言い残すとそのまま顔を引っ込めた。
ミリアは言われるがまま付いていく。自分の思考とは関係なく。もはや考えることなど出来なかった。
「グフフ、お目覚めデスか?ご機嫌いかがデス?」
「・・・・・・」
サタンの質問に無反応。目は虚ろ、何もない場所を一点に見つめるミリア。
「グフフ、これはこれは立派な悪魔デス。私の為に働いてもらいますデス」
「・・・ハイ」
自動的な返事、思考は無い。
「私を完全体にするには精霊よりも魔女の魔力を吸収するのが一番早いのデス。この城からは魔女の香りが臭うのデス」
ホーエンハイムの城の対岸に立つサタン。その横にふわふわと浮いてるミリア。
「グフフ、しっかりと働いてもらうのデス。役に立たない不要な場合は容赦無く切り捨てますので宜しくデス」
「ハイ、サタン様」
何もない場所を一点に見つめ自動的に返事をするミリアだったーー。




