最前線の終幕
「ここに居る、三十二人は本日をもってアヴァロン魔法学校を卒業とする。今後も期待しておるぞ」
一同一斉に胸に手を当て会釈をする。
それと同時に講堂に鐘の音が響き渡ったーー
「お前どこの配属になった?」
「俺は帝国騎士団だよ。地元の近くで良かったよ。お前は?」
「俺はバルティカ共和国連合騎士団だ。かなりの遠方になってしまったよ」
「昔は激務のブラック所属地だったらしいが今は暇で楽な所属地らしいぜ」
「確かに昔は死に一番近い最前線と言われてたと教官に聞いたな。それが今は楽な所属地か・・・」
「伝説のバルティカ戦線の邪竜討伐戦、それが最前線終幕へ導いたらしいぜ。百年続いた永き戦線を納めたのは他でもないアヴァロン魔法学校を設立したシーサー様の息子のアーサー様らしいぜ」
「ああ、それは有名な話だよな。円卓の魔道士を率いて邪竜討伐したんだよな。どこまでが真実なのか話が凄すぎて分からないよな」
「俺ら凡人には到底測りしきれない話だぜ」
☆ ☆ ☆
あの日、彼が空から颯爽と三人の精霊ともに現れた瞬間に歴史は動いたーー。
何の躊躇もなく邪竜アポカリプスの前に立ちはだかると、光の剣でアポカリプスを切り裂く。
アポカリプスは苦しみの咆哮をあげる。これほど圧倒的にアポカリプスに攻撃を与えられた瞬間はこの百年見られる事がなかった光景だ。
この先は圧倒的だったーー世界を恐怖で支配していた竜。その中でも最凶の存在がまるで大人と子供の戦いのように思える。
一方的な展開が繰り広げられている。アポカリプスが地面に膝をつき崩れ落ちるまであと少しの瞬間が訪れる。
人々の心の中で「勝った」と思った瞬間ーー、
「待って、もーやめてよ」
小さな白い白竜がアポカリプスとアーサー達の間に立ちはだかる。
「・・・・・・・」
無言で剣を構えるアーサーに小さな白い白竜は背を向けふわふわと飛び巨大な邪竜の鼻先で話しかける。
「ねえ、もう終わりにしようよ。こんな事して何になるんだよ。こんな戦いの先に何があるんだよ」
邪竜は白い白竜を虚ろな瞳で睨みつける。
そして次の小さな白い白竜の一言でこのバルティカ戦線の終幕を訪れるーー
「母さん、一緒にウチに帰ろう」
何が崩れ落ちる音とともに邪竜の姿から元の白い白竜に戻るエキドナ。
人々の間を縫って一人の冴えない男が二匹の竜に近づく。
「迎えに来たよ。二人とも帰ろう」
「父さん・・・知ってたの?」
「もちろん知ってたさ。家族だからね」
「何で何も言ってくれなかったんだよ。僕がどれだけ苦しんだか知ってるの?こんな姿だから友達もなかなか出来なかった・・・」
「ああ、知ってたさ」
「父さんはいつも感じな時に何も言ってくれない!そんな所が大嫌いだよ!!」
その瞬間、人間の姿に戻ったエキドナの平手打ちが小さな白い白竜の頬を赤く染めた。
目を真っ赤に染めて涙を流すエキドナ。
「お父さんに・・・お父さんに何て口の聞き方するの」
「母さん・・・」
人間の姿に戻る小さな白い白竜。平手打ちを受けた頬に手を当て目を丸くしている。
「お父さんは全て知ったうえであえて何も言わなかったのよ。母さんの事も全部知ってた。多分、お父さんならこの百年続いた戦いをとっくに止められていたと思うわ」
「お父さんが・・・?」
改めて父親の顔を見つめる。いつもの冴えない顔をしている。これといって特徴がない平凡な顔付きであり、とても百年続いたバルティカ戦線を止められるとは思えなかった。
「お父さんなら私を殺してくれると思ってた。私はいつ彼に殺されても良いと思ってた。だからいつでも殺されても良いように彼の隣にいたのよ」
エキドナはゆっくりとサーガの元に近寄り抱き締めた。
「・・・何でもっと早く殺してくれなかったの?百年、永かったわ」
「あの日初めて君を見た瞬間から君を愛してしまった。それが僕の最大の罪だよ。君を殺すことの出来ない僕は君を止めてくれる者を待ち続けることしか出来なかった」
「これて私の中の私がやっと消えてくれた」
「さあ、ウチに帰ろう」
三人は手を取り合って皆に見つめながら沈む夕陽に向かってゆっくりと歩いて行った。
その後、誰も三人の姿を見た者はいない・・・。
ーー バルティカ戦線終幕 ーー




