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三人の精霊と俺の契約事情  作者: 望月 まーゆ
三人の精霊とバルティカ戦線の書
152/217

父と母の出会い①


いつもなら、朝起きれば美味しそうな匂いが立ち込めて台所に行けば、母さんの忙しそうな姿がそこにはあって、元気に挨拶をしてくれた。


しかしーー今はその姿はない。


この家にいるのは、父さんと僕の二人だけだ。父さんは、母さんからの置き手紙を読むと、初めからこうなる事が分かっていたかのように母さんが居なくなった事を驚きもしなかった。


僕には、「母さんはしばらくの間帰らない」とだけ言った。


僕には、どこに行ったか大体の検討がついた。毎日、母さんが仕切りに見つめていたあの山ーーエドナ山脈に行ったんだ。


そこに行けば、僕が竜である秘密が分かるかもしれない。


母さんが、隠している秘密も・・・。




「父さん・・・話があるんだ」


僕の声にゆっくりと振り返る父親。


「母さんを連れ戻しに行ってくる」


「・・・そうか」


「驚かないの?」


「そんな気はしていたよ。お前は、母さんの子だからね」


苦笑いを浮かべるとゆっくりとバハムートに近づきポンと、手を頭に置いた。


「いつかこんな日が来ると思っていたよ。母さんと出会い一緒になった日から、いずれ僕の元から離れて行ってしまうんじゃないかと思っていたんだ」


「ーー父さん」


見上げた僕の視線に映る父親は、少し寂しげで小さく見えた。


「君が産まれた時も何となく同じ気持ちになっていたよ。やはり君は、母さんの子なんだってね」


父親は、背を向けると窓に向かって歩いて行きエドナ山脈を見つめた。


「母さんは、いつもあの山を気にしていた。ーーそう、初めて母さんと出会ったのも、あの山だったんだよ」


「えっ・・・国外で・・・危険地帯じゃ」


窓に映る父親は、再び苦笑いを浮かべていた。


「父さんと母さんはどうやって知り合ったの?父さんはなぜエドナ山脈に行く事が出来たの?」



父親は、ため息をついて、ゆっくりと振り返る。バハムートは、父親の初めて見る真剣な表情に背筋に冷たいものが走った。





* * * * * * * * * * * * *



「サーガ、本当にこれでいいのか?」


「いずれ封印は解かれてしまうかも知れないわよ。もしかしたら魔力が何らかの形で戻って、自力で封印を解く可能性も十分あり得るわよ」


サーガは、封印した竜を見つめながら、


「竜と人間は対等の立場になければならない。本来争うべきではない。もし、アポカリプスを討ち取っても解決にならないし更に血の争うは続くだけだ。なら、お互い冷静になり歩み寄れるようにするべきだ」


「今のいままで争っていたのに、急に手を取り合えなんて無理な話だぜ」


「それは、十分承知。僕等は、きっかけを作った。後は、他の者次第だ」


サーガは、封印されたこの場所に背を向けパーティーのみんなと山を下りることにした。



「ーーあれ、サーガは?」


「さっきまでそこに居たのに・・・」


「しゃーねなあ、捜してくるよ」


「お願いしますね!」


洞窟の中を隈なく探すがサーガの姿は見えない。洞窟は一種の迷路のように複雑に入り組んでいる。竜たちが人間が攻めてきてもすぐには辿り着けないようにする為だ。


「サーガどこだあ?返事しろ」


徐々に洞窟の奥へと入り込んで行く。


「ーーあまり奥に入り過ぎると戻れなくなるな。これだけ捜してもいないって事は先に外に出ている可能性があるかもな」


引き返そうとした時、奥で微かな物音と気配を感じた。それは、普通の人間では感じ取りない微妙なものだ。しかし、百戦錬磨の最強パーティーのメンバーの一人はそれを見逃す訳がない。


「誰だ!サーガか?」


ゆっくりと奥に進んで行くと、そこには傷付いた白い竜が横たわっていた。





* * * * * * * * * * * * *



「白い竜って・・・最強パーティーのメンバー・・・父さんは」


目を丸くして驚くバハムート、それも無理もない。おとぎ話、言い伝え、伝説としか聞いたことのないサーガの話を今、父親が経験談として話しているのだ。


「百年続いているバルティカ戦線に終止符を打つ為にあの山脈に僕等のパーティーは向かった。今から五十年程前の事だ。以外にも時間は流れていないんだよ。人伝えに話は、広がって行き、大袈裟になっていったんだ」


「父さんは、サーガのパーティーで邪竜アポカリプスと戦ったの?」


「ーーまあ、大した事は出来なかったけどね」


目をらんらんに輝かせながら真っ直ぐ見つめてくる視線に、頬を掻きながら照れる父親。


「サーガはどんな人だったの?やっぱり強くて凄いの?」


「んんーー、強いのは否定はしないが・・・変わった人物だったよ」


「変わった??」


「ああ、変人とか奇人って言えばいいかな。独特な感性と言い回しをしていたよ」


「そ、そうなんだ。少し想像と違ったよ。クールでカッコ良くてみんなを引き連れて戦うリーダー的存在かと思ったよ。それで、白い竜は母さんだったの」


「ああ、お前の母さんエキドナと初めて出会った瞬間だ」




ーー エキドナとの初めての対面 ーー

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