神竜対人間④
「お久しぶりね、ニーズヘッグ」
「その声を聞くのは、何十年ぶりかな?エキドナ」
エドナ山脈の峰に立ち、バルティカの戦場を見下ろすニーズヘッグの背後に現れたエキドナは、白い神秘的な竜の姿をしていた。振り返らずに真っ直ぐ戦場を見つめたままのニーズヘッグはそのまま話を続ける。
「相変わらず貴様は、人間とくだらん関係を続けていると聞いているがーー」
「少なくとも私には、一度もくだらないとは思った事は一度もないわ」
ニーズヘッグは、振り返りエキドナをまじまじと見た。
「お前は、自分の役目を分かっているのか?神竜でただ一人、お前だけが女子である重要な役目を」
「ーーーー」
「人間如きとおままごとをしている暇があれば、私と一緒になり新たなリーダーとなる竜を産んだ方が良いだろう。お前と私の子であれば素晴らしい才能を持った子が産まれるに違いない」
「ーーーー」
エキドナは、口を真一文字に結んでニーズヘッグを真っ直ぐ見つめている。
「エキドナ、もういいだろう。私と一緒になろう・・・」
「ニーズヘッグ、私には子供が居ます」
「・・・子がいるだと?」
目を点にして口をわなわなさせ明らかな動揺を見せるニーズヘッグ。
「ええ・・・」
「誰の子だ!!私が散々貴様を口説いてきたのに・・・それを裏切り他の竜と子を作っただと」
その直後ニーズヘッグは、目を血走らせエキドナを睨む。
「いいえ、違います。人間との子です」
その言葉にニーズヘッグは、安心したのか、
大笑いした。
「何を言うかと思えば、人間如きの子を孕んで産んだのか。そんな弱い子供何の役にも立たんは」
エキドナは、首を横に振りながら、
「あの子は、神のお告げを忠実に守り人間と共存を果たしております。あの子こそ神が求めた本当の姿。人間の為に働き、人間の為に力を使う。決して見返りを求めない。そして、人間と竜が手を取り合う理想郷を現実にするための架け橋になる存在」
「貴様、何を一人でごちゃごちゃ言っている?人間の血が混じった竜など恐ろしくも何ともないわ」
「あの子はまだ自分の力を知りません。潜在能力では既に私を超えてますわ」
「ーーーー!!」
「名は、【バハムート】人間と竜との間に生まれた本物の神竜です」
* * * * * * * * * * * * *
「君、一人なの?」
「うん」
「こんなところで何してるの?」
「何にも・・・」
「僕もこの辺りには、友達がいなくて遠い西の国からお父さんの仕事の都合でしばらくここに住む事になったんだ」
「そーなんだ。僕は、人里離れたこの場所に住んでるせいで友達が一人もいないんだ。だから、今同じくらい子と話したの初めてなんだ」
「僕の名前は、ロビン。君は?」
「僕の名前は、バハムート」
「ばはむ?んー、じゃあムーちゃんね!」
笑顔で手を差し出すロビン。それを見て嬉しそうにバハムートも手を握った。
その時、ロビンにはこの子が人間ではない事を瞬時に悟った。
幼いながらもロビンには、契約の力が既に備わっていた。それは、特異能力である【召喚】に繋がる。人間以外の者に触れると契約を交わすことができる。それは、相手の同意が必要である。
契約に相手が同意した場合、最終的に絆の握手を交わして初めてお互いが結ばれるのだ。
今まで人間以外と握手を交わすことがなかったロビンにとっては初めての感覚だった。
「・・・ムーちゃん君は?」
真っ直ぐ見つめる先に笑顔のバハムートが居た。その眩しい笑顔を壊したくないロビンには、とても聞けないと幼いながらに思った。
それからロビンとバハムートは、朝から日が沈むまで毎日一緒に遊んだ。
そんな二人にも別れは突然来たーー。
「ムーちゃん、またアヴァロンに戻ることになったんだ。お別れしなくちゃならない」
ロビンが悲しそうな顔で俯いていると、
「そっか・・・でも、ロビンは僕にとって一番の友達だから。離れていてもずっと友達だから」
「ムーちゃん・・・」
「ろ、ロビン・・・君は大切な一番の友達だから、僕の誰にも言えなかった秘密を教えるね。それでも僕の友達でいてほしい」
「僕は、どんな君でも受け入れるよ。だって友達じゃないか」
「ありがとう、ロビン」
バハムートの体がまばゆく輝き出すと徐々に体が変化して行き、やがて白い一匹の小さな竜へと変化を遂げた。
「ムーちゃん君は?」
「僕は、人間と竜の間に生まれた。物心ついた頃には竜になれた。ただ、このことを母親に話すと誰にも言うなと言われ、ずっと口を閉ざしてきたんだ」
「・・・ムーちゃん、僕と契約してくれないか?いつでも一緒に繋がっていられる」
「契約・・・」
「僕には、特異能力があるんだ。それが【召喚】。人間以外の契約した者をどんな場所にいても呼び出すことができる。条件はお互いの心と心が通じ合い互いに信頼し合っていること」
バハムートはその言葉を聞き、優しく微笑んだ。
「なら、僕達は大丈夫だよ」
バハムートは竜の姿のままそっと手を差し出した。ロビンはその手をぎゅっと握った。
『僕たちはもう既に親友じゃないか」
☆ ☆ ☆
ーーバルティカ共和国総司令部ーー
「現状の報告をしろ!どーなっている?」
総本部長ダグラス・クルーニーの檄が飛ぶ。
「はっ! 現在、バルティカ戦線には史上稀に見る数の竜が押し寄せいます。特に巨大な竜が三体確認されています」
「現場にはどの部隊が対応しているのだ」
「・・・・・・」
「どーした?なぜ答えない」
「げ、現場にはアルカナ・ナイツの六名のみとの報告があがっています」
「なっーーーー、どーなっている?」
「史上稀に見る数の竜を目の前に、戦意喪失かと」
「・・・援軍は?援軍は呼んでいるんだろうな」
「はっ!アルカナ・ナイツの一名より通達がありセントラルコントロールが許可したそうです」
「ーーで、援軍先は?」
「アヴァロン王国の円卓の魔道士です」
「誠か・・・」
「はい。これで永きに渡る争いに終止符が討たれるかもしれないです」
「・・・だと良いが」
薄暗い司令室を重苦しい空気が張り詰めていた。結局、いつも自分たちの国の力では何も解決出来ない悔しさと、もどかしさでダグラスは下唇を噛んだ。
バルティカ戦線は、今日も眠ることなく闘いの火は灯るーーーー。




