神竜対人間②
容赦無い攻撃が繰り出されるーー。
これが本物の実力、彼等が幼い頃に見た光景を改めて思い出される事になった。
神竜ウロボロスーー地面の中から突如として現れた竜は、【アルカナ・ナイツ】のメンバーをあざ笑うかのように倒して行った。
「・・・これが竜」
「強くなったと思い込んでいただけだったのか・・・」
「あの頃から私たちは何も変わってない」
「ーーそしてまた、何も出来ずに逃げるのかよ」
バッツが立ち上がり、オーラブレードを創り出す。
「俺は、逃げねえぞおおおおぉぉぉっ!!」
ウロボロスに向かって飛びかかるバッツ。
「無駄だ、人間」
「バッツーー」
リリーの声が虚しく戦場に響いた。
ウロボロスの尻尾がバッツの腹部に直撃し、吹き飛ぶ。
歯を食いしばり立ち上がるアスベル。ーー右手に力を込める。
「ちくしょーおおおお!」
アスベルが魔弾を放つーー。
ウロボロスに直撃するが平然と魔弾が飛んで来た方向に向かって口から炎のブレスを吐いた。
フルールがすぐさま、シールドを展開させるがウロボロスの炎のブレスはシールドを砕く。
「そ、そんなあーー」
熱気と爆風で吹き飛ぶ、アルカナナイツのメンバー。
「人間よ、いつだって俺たち竜は貴様らを滅ぼすことは出来たんだ。それがどういう意味か分かるか?」
「ーーーー」
「泳がせていただけさ、ただの暇潰しだったんだよ」
ウロボロスは、高笑いしアルカナ・ナイツを見下した。
その光景は、いつか見た日の竜の瞳と同じ目に感じた・・・。再び、アルカナ・ナイツのメンバーは絶望を味わうことになった。
悔しくて、悔しくて、悔しくて、情けなくて、情けなくて、情けなくて。
涙を浮かべたーー。
地面に倒れこんで見た空は、涙で歪んでいた。
僕等は、再び竜に敗北した・・・
* * * * * * * * * * * * *
今は、地図にも載っていない。
それが僕等の産まれ育った故郷・・・今は、帰る場所さえ無いーー。
あるのは、瓦礫の山と焼け焦げて、くたびれた更地があり未だに焦げ臭い匂いがする。
時折、この場所を訪れる。その度、あの日の光景を思い出す。ーーそれは、前触れもなく現れ故郷を滅茶苦茶にして行った。
竜が急に攻め込んで来て暴れ出した。
僅か、数分足らずで国一つを壊滅させた。
圧倒的な力の前に、人間は国を棄てて逃げる事しか出来なかったーー。
余りにも突然の出来事に誰一人として反応出来ず一つの小国が丸ごと消え去ることになった。ーー国民の約八割が犠牲となり、帝国は再生不可能と判断し、地図から小国を抹消したのだ。
僕等は、家族を失った・・・。
友達も隣の家のおばさんも仲良くしてくれた人も、大好きだったあの子もみんな、みんな死んだ。
その日、僕等は誓った。
いつかこの手で竜を倒し復讐するとーー。
* * * * * * * * * * * * *
バルティカが一望出来る高台の上に小さな茶色に輝く精霊と隣には、狐目の男がいる。
「やあ、待たせたね」
全然悪びれた様子もなく、二人の前に男が現れた。
「ずいぶん待たせてくれたな」
「こちら多忙でして、申し訳ない」
憎たらしい笑顔を浮かべて、人を小馬鹿にしたような表情をしている。
「バルティカ戦線を見学した感想はどうでしょうか?」
その言葉にヴィルは、ため息を吐いて、
「あの巨大な竜が数体現れてから形勢逆転されたよ。人間の敗北がすぐそこまできている」
「それは、それは大変です」
あからさまな芝居をしながら、ローゼンクロイツは羽織っている黒いローブの中から一冊の書物を取り出した。
「ミリア、私の近くに寄るんだーー」
ミリアは、ヴィルの声にすぐさま反応し、ヴィルに飛び付いた。
「・・・禁断の書物を取り出して何をするつもりだ?」
ミリアを抱き抱えながら、ローゼンクロイツを細い目で見る。
「見せたいものがあると言ったでしょ?」
「まあまあ」と言った表情をしながら、パラパラとグリモワールをめくる。
「ヴィ、ヴィル頭が割れるように痛いよ」
「グリモワールの強い魔力の影響だ。少し我慢してくれ」
ミリアをマントの中に隠すヴィル。
「グリモワールは、ただの魔導書では無いのですよ」
「ーーどういうことだ?」
「神をも操ることが出来る・・・試してみたんですよ。実際に操れるか」
「・・・試した?」
「ええ、ある竜を捕獲しまして実際に操れるか試したのですが、思いのまま完璧に動いてくれました」
「竜を操っただと・・・」
ヴィルは、呆気にとられていた。実際、彼自身もそうとう変人紛いの事をしてきた。人を裏切り、騙しここまできた。
しかし、今目の前にいる男は神の禁忌を犯しているのではないのか?
「ーー見せてあげますよ。私の竜、【アジ・ダ・ハーカ】。お気に召していただけると嬉しいのですがね」
ローゼンクロイツのグリモワールが輝き出すとバルティカの戦場に雷が落ちた様な閃光が輝く。
そこに見た事もない巨大な竜が出現したーー。
「それでは、少し暴れさせてもらいますかね」
クリスチャン・ローゼンクロイツは、まるでおもちゃを与えられた子供のような笑顔を浮かべていた。




