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三人の精霊と俺の契約事情  作者: 望月 まーゆ
三人の精霊とバルティカ戦線の書
143/217

アルカナ・ナイツ②


「魔物増えてない?」


「増えてるんじゃなくて攻め込まれてんだろ」


バルティカの壁から戦場の様子を伺うバッツとミモザ。ロビンが作ったアドバンテージはもう既になくまたバルティカの壁近くまで魔物に攻め込まれていた。その間、竜は一体も現れてはいなかった。


「敵の数に対して、兵士の数が全然足りてないし、魔道士が少くな過ぎないか?」


「確かに、いくら魔女狩りがあったとはいえ、遠距離で敵を粉砕出来る魔道士がたくさんいた方が良いに決まってる」


「確かにバルティカ戦線は、他国の協力が必要なアラートレベル五だが、その協力国も今や帝国という独裁国家に悩まされている。いつ手のひらを返し切り捨てられるかも分からない状況で更に、悪魔宗教が世界のあちらこちらで信仰している状況だ。自分の国を守るのに必死で他の国の協力をしている状況じゃないのさ」


ウィリアムスがソファーに寝転びながら話に割り込んできた。


「帝国・・・か」


アスベルがポツリと誰にも聞こえない小さな声で囁いた。それを地獄耳のバッツが聞き取る。


「どーした?アスベル、帝国に何か文句でもあるのか?」


「違うわよバッツ、ほら、アスベルの父親は・・・」


ミモザは、バッツの背中を叩き気を使うように仕向ける。


「良いんですよミモザ、俺気にしてないし」


「アスベル・・・」


「確かに俺の元父親は帝国騎士団の一員です。それに対して恨みや妬みはないですよ」


アスベルは、幼少の頃にたった一人の肉親であった父親に捨てられた。アスベルにとって何よりも自慢だったのが父親が帝国騎士団の一員だったことだ。帝国から遠く離れた名もない村にアスベルは置き去りにされ捨てられたのだ。


「父親が帝国騎士団って分かってるんだろ?会いに行かなかったのかよ?」


バッツが頬を掻きながらアスベルに尋ねた。


「・・・後で分かったんだけど、貴族の女性と夜逃げしたらしい。帝国騎士団の名誉より自分の子供よりも女をとったんだよ」


「ーーーー」


「馬鹿みたいだろ?そんな男をずっと信頼して憧れてたんだよ俺は」


アスベルは冷たい天井を見上げた。


「ーーだけど、本当に帝国騎士団の父親は誰よりもカッコよかったんだよ」


アスベルの頬を一筋の涙が流れた。


「俺らも誰かにそんな風に思ってもらえんのかな」


バッツは休憩室の窓から見える戦場を見ながら力無く呟いた。


「どーかな、私たちは陽の当たらない雑草だから」


リリーの声がはっきりと休憩室に響いた。



「百年続いた人間どもとの付き合いも終わりが見えた。アポカリプスの復活が近づいてきたのだ」


漆黒の翼と身体をした竜が吠える。


「確かに着実に魔力が膨れ上がっているのが分かるな」


「ーーだろ?人間如きに本気になるのもどーかと思うが、アポカリプスの復活の手土産に派手に暴れてみないか?」


「偉大なる竜の格の違いを見せ付けてやるか!」


眼鏡をかけた竜をゆっくりと近づいて来て、眼鏡を押し上げながら、


「ニーズヘッグ様、全員集合されました」


「ご苦労、さあ行こうかサーペント」


ニーズヘッグとサーペントは洞窟の入り口から一歩外に出ると、無数の竜が集まっていた。


「皆の者、百年続いた戦争に終止符をつける時が来た!今こそ本当の竜のチカラを人間共に見せ付けよ!」


無数の竜の咆哮が山脈に木霊しバルティカの壁まで響いたーー。


「バッツ・・・今の」


「ああ、アルカナ・ナイツ出陣だ!行くぞ」


アルカナ・ナイツのメンバーが全員立ち上がった。


「セントラルコントロール、アルカナ・ナイツ出陣の許可願う」


「セントラルコントロール了解した。そのまま第三、四部隊に合流しろ。今、壁を開ける」


「セントラルコントロール、壁の開放はいらない。そのまま合流する」


バルティカの壁に一列に並んだアルカナ・ナイツのメンバー。


「バッツ、無数の竜の反応を確認出来たわ」


「ーーだろうな!今日の日のために今まで訓練やミッションをこなして来たんだ。行くぞみんな」


全員頷き、天に人差し指を翳し円陣を組んだ。



「俺たち【アルカナ・ナイツ】は無敵だ!」



全員一斉に四十メートルの壁から飛び降りた。



ーー アルカナ・ナイツ出陣 ーー

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