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三人の精霊と俺の契約事情  作者: 望月 まーゆ
三人の精霊とバルティカ戦線の書
138/217

バジリスク①


昼夜問わず鳴り止まぬ爆発音と魔物の咆哮(ほうこう)はバルティカの国内に響き渡る。


国民は常に緊張と恐怖に晒されながら過ごしていた。


魔物は夜になると闇のチカラを得て動きが活発になる。従って夜こそバルティカ前線の本当の過酷な戦場なのだ。


第一次悪魔大戦以降、一時的には収束したバルティカ戦線だがここ最近再び魔物は凶暴化し活発に活動し始めた。


バルティカ共和国は遂に警戒アラートレベルを最大の五として世界各国に通達し援護を求めた。


しかし、現状は何も変わらなかった。


兵士の人数は増えたが即戦力にならずほとんどが離脱するか戦死するかだ。


バルティカ共和国は魔法省に直接講義文章を送り配慮を求めた。


魔法省はこの事態を真摯に受け止め、今回アヴァロン王国に魔法使いをバルティカ戦線に配置するよう求めた。


これによりロビンのバルティカ戦線行きの配置が決定されたのだ。



☆ ☆ ☆


鈍い音が鼓膜に響いて思わず耳から通信水晶を離してしまうーーそれほど雑音とノイズ音が酷い。


「ーーセントラルコントロールよりーーが、、が、、そちらにーー」


ノイズ音が酷すぎて聴き取れない。


「こちら第四部隊ノイズ音で聴き取れない。再度応答願う」


砂嵐のような鈍い耳障りの音が響いていて思わず耳を塞ぎたくなる。

( こんなに通信が上手くいかないことは珍しいな・・・通信を妨害する魔法などが発生しているのか?)


「部隊長、どうしたのです?」


「セントラルコントロールからの連絡があったのだが通信が途絶えた」


「珍しいですね。今までそんなことほとんどないのに」


「ああ、何事も無ければ良いのだがーー」



ーーその心配はすぐに現実となる。


「セントラルコントロール応答願います。セントラルコントロール」


観測手は、何度も何度も通信水晶に問いかける。迫り来る恐怖に背筋を凍らせながら必死に連絡を取ろうとするが応答はない。


「ヤバい、ヤバい。もう限界だーー」


観測手はその場から箒に跨り離脱する。

バルティカの壁と竜魔族の本拠地エドナ山脈の中間点に潜み竜魔族の動きをいち早く通達する役目だ。そのため敵に見つかれば最も標的になり易い。


「はあ、はあ、あんな化け物が潜んでいたとはーー」


一目散にバルティカの壁へと目指し箒を飛ばす。ーーしかし、


「な、何だ? この霧は・・・うっ」


視界を奪う程の濃い紫の霧に包まれた観測手は意識を失いそのまま地面へと墜落した。


「・・・ううう」


痛みで意識を取り戻したが息が上手く吸えない。観測手は薄れゆく意識の中、目を凝らした。そこはまさに戦場のど真ん中で第五、六部隊のほぼ全員が倒れていた。総勢五十人が魔物を目の前にして自分と同じように息苦しそうに地面に這い蹲り藻搔いていた。


観測手は最後の力を振り絞り通信を試みた。


「せ、セントラルコントロール応答せよ!セントラルコントロール」


「どうした?」


「だ、第五、六部隊が・・・全滅しました」


「ーーなっ、何だと」


「竜ですーー今まで見たこともない竜が現れました」


「ワイバーンやワームではないのか?」


「映像を送ります、ご確認を・・・」


観測手から水晶で映像をセントラルコントロールに送る。送られてきた映像を確認する中央本部の各面々。


それ以降、観測手との連絡は途絶えたーー。


「ーーこ、こいつは」

「紫色のブレス・・・」

「毒性ですね?」


ざわつき始める中央本部ーーそこに慌てて駆けつけたバルティカ総本部長ダグラス・クルーニーが映像を確認する。


ダグラスは表情を曇らせ重い口を開いた。


「間違い無い、コイツはバジリスクだ!」


「バジリスク・・・」


「毒のブレスを吐き、人間が吸い込めばたちまちあの世行きだ。奴の側では息を吸うことすら命取りだ」


「ーーーー!!」


「ど、どうやってあんな化け物と戦えと?」


騒然となるセントラルコントロール。


「セントラルコントロール応答せよ」


「どうした?」


「魔物の軍勢が再び活発化しバルティカの壁に接近中! 例のバジリスクも一緒です」


「ぐっーー本部長どうします?」


「ほ、本部長、次の部隊はロビンです。彼ならもしや・・・」


「・・・ロビンに繋いでくれ」


中央本部総本部長のダグラスが直々にロビンに通信を行った。


「ロビン君、中央本部総本部長のダグラス・クルーニーだ。君の活躍は耳にしている。本当にこのバルティカに来ていただき感謝している」


「ーー感謝の言葉などいらない、時間が無い本題だけを話してくれ」


「うむ、それもそうだな。あの竜はバジリスク、毒のブレスを吐き人間が吸い込めばたちまちあの世行きになってしまう。迂闊に近寄れば危険だ。何とか君のチカラでバジリスクを討伐してほしい」


「ーーなるほど。条件があるウチの部隊に不幸娘を入れてくれ。彼女はああ見えて円卓の魔道士だ。そこらの兵士より数段格上だ。一発の威力なら魔道士最強クラスだ。彼女と俺でバジリスクを討伐してやる」


「不幸娘とな?」


「ああ、世界で一番危険な場所に自ら足を踏み入れてしまう、不幸な女神さ」



☆ ☆ ☆


「うううー、何で私が戦場にい。のんびり過ごしていたところだったのに」


「戦場の最前線でのんびりされちゃ迷惑なんだよ。お前も円卓の魔道士なら少しは働け」


「嫌ですよおー、帰らせて下さい」


「ああ、帰らせてやるとも。ーーこの毒の竜を(バジリスク)を討伐したらな!!」


「えーー、無理ですよ無理! 帰らせて下さい」


「こちら第七、八部隊戦闘準備完了!」


「こちらセントラルコントロール、了解!(ゲート)を開く」


錆び付いた重い音が辺りに響き渡るーー。


『だ、第七、八部隊戦闘態勢に入れーー』


その言葉と同時に開きかけた門の下部の隙間より魔物が進入して来た。


「きゃあああ!【自動発動魔法】(オートマチック)


第七、八部隊が戦闘態勢に入る前にライラのオートマチックが発動し魔物に無数の閃光弾が命中し撃退する。


「相変わらずチートな魔法だぜ。本人の意思は無視だからな」


魔物の軍勢はもう目の前にいてバルティカの壁内部の要塞に進入しようとしていた。


「絶対に進入を許すなよ!追い返すぞ」


ロビンの言葉に「おー!」と第七、八部隊の兵士たちは答えた。


先頭をロビンが魔物の軍勢に飛びかかり縦横無尽に二刀流のナイフを回転しながら魔物を切り裂く。


まるで戦場でダンスでも踊るかのように実に軽やかなステップで次々と魔物を倒していく。


それに続けと第七、八部隊の兵士たちも必死に戦う。


その中、ライラはこの戦場から抜け出そうと壁の側面に沿って歩いていた。


「こんな場所でこんな大量の魔物と戦う何て馬鹿げてる。私は平穏に暮らしたいだけなのに!田舎に帰ろ」


ぶつぶつと独り言を言い壁の要塞に入る入り口は他にないかと探していると、


「ん? 何だろあの緑の鳥は?」


ライラは戦場の上空に浮いてる緑の物体に目がいった。明らかに異様な雰囲気を出している。ライラは人よりも数段危機管理能力が高いが故に、一番危険な場所に自らを晒してしまうのだ。


「あの緑危険です。ーーはっ!ダメダメ私は普通の女の子です。こんな場所に用はないの」


首を横に振り目を閉じ壁に沿って歩いているつもりがいつ間にか戦場へと足を向けるライラ。これも自分の意思とは反対に働いてしまうのだ。


「はあ、はあ、ロビンさん。ここは僕等に任せてバジリスクを」


「ああ、頼む。ーーあれ?ライラは」


「そう言えば全然姿を見てないです」


「あの野郎、逃げたな!」


「ーーーー」



緑色をしたトカゲのような身体に手足が六本生えている。蛇のように細長い舌を小刻みに動かしている。背中にはコウモリのような羽根、蛇のような長い尻尾を生やしとぐろを巻いている。カメレオンの様に左右の目がバラバラに動くのが不気味に映る。


猛毒の邪竜 バジリスク、突如としてバルティカ戦線に現れた。


「ひーー何で?いつの間にこんな所に」


ライラを目を閉じ壁に沿って歩いていたつもりがいつの間にかバジリスクの目と鼻の先にまで歩いて来ていた。


ライラの歩いてきた背後には無数の魔物の亡骸が転がっていた。


バジリスクはカメレオンの様な目をキョロキョロさせ、目の前にいるライラを確認し目を止めた。


バジリスクはライラの潜在能力、魔力値が分かる。円卓の魔道士に選ばれる程の魔力量を誇っている。それはバジリスクにとっても脅威。ゆっくりと体をライラに向け大きく口を開けた。


「わ、私を食べても美味しくはないと思いますよ」


両手を前に出て首を必死に横に降る。ライラは自分の不幸さ加減を呪った。


バジリスクの口から毒のブレスが噴射されその周囲に紫色の霧が立ち込める。


ライラは、その刹那後方に退きながら大きく開いた口を目掛けて閃光弾を放つーー。


バジリスクの口の中に数発の閃光弾が命中し口から煙が上がる。ダメージがあるのか目をキョロキョロさせしばらく動かなくなった。


「も、もーウチに帰らせてよ」


全身の力を抜きがっくりと肩を落とした。


バジリスクは再び、目をキョロキョロと動かし焦点をライラに合わせ、


「グギャァァァァァァ」


と咆哮を上げた。その悍ましい叫びは邪竜の名に相応しく背筋が凍る恐怖を聞いた者は感じた。


「ひいーー、もう無理よ。帰らせて」


ライラの危機察知能力が反応し魔力を解放する。ライラの周りに魔力のオーラが現れる。それは円卓の魔道士の名に相応しく空間が歪む程の魔力量だ。


バジリスクがその魔力に反応し襲いかかってくるーー。


ライラからオートマチックが発動する。

無数の閃光弾がバジリスクに命中するがそのまま御構い無しにライラに鋭い爪を振り下ろす。


ライラは間一髪攻撃を避けたがかすり傷を右肩に負った。右肩に血が滲む。


「い、痛いよお。何で?こんな目に」


涙目になりながら地面に座り込む。


再び、バジリスクは大きく口を開けたーーその瞬間、


一つの影がバジリスクに飛びかかり口もとを切り裂いた。


バジリスクは怯み、口を閉じた。


「よお!とっくに帰ったかと思ったらちゃんと働いてるじゃん」


「ロビン。帰りたいけど気付いたら勝手にこんなところに」


「ちょうどバジリスクも目の前にいる事だしちゃっちゃと片付けちまおうぜ!」


「えっ、私も戦うの?ヤダよ」


「お前は自身はそうだろうが、お前のオートマチックな魔力はそうは言ってないぜ」


バジリスクはキョロキョロと目を動かしロビンとライラを標的とみなし、襲いかかる。


「ーーさて、今度は俺たちのターンだ!」




ーー 反撃開始 ーー

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