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三人の精霊と俺の契約事情  作者: 望月 まーゆ
三人の精霊とクリスタルパレスの魔女の書
130/217

魔女狩り③


シーサーがクリスタルパレスを訪れる数時間前。



「ーーどうなってるんだ?」


今まさにそこは地獄へと変わろうとしている最中だった。


逃げ惑う女、子供、精霊、エルフお構いなしに無差別に魔法の閃光が降り注いでいた。


無抵抗の様々な人種の人達が無残にも倒れていった。彼女たちはどこへ逃げて良いのか分からずただ建物影や木の下などにうずくまり震えている。そこへ更に魔法の閃光が無数の雨のように降り注ぎ建物を破壊し木々をなぎ倒し、彼女たちはその下敷きになり動かなくなっていた。


「あっ、ーーーー」


言葉が出ずに立ち尽くしているケイト。彼女たちはケイトの姿を見ると怯えて走り出す。


ケイトが立っている場所から見えるだけでも数え切れない数の人間が倒れている。


部隊長(ケイトさん)これは一体?何でこんなに」


ケイトと一緒に駆けつけた数名の騎士団員と若き日のロッシ・ロレッサは困惑していた。何故ならクリスタルパレスを護衛していた筈なのに国は襲撃されていたのだ。


東西南北に別れて護衛していたのだからどこかが例え突破されたのなら報せが必ず入る筈なのにそれがなかった。


ならどこから?ーーいや、考えている暇は無い。


ケイトは剣を構えクリスタルの塔を取り囲む敵に斬りかかる。


「ロッシ俺に続け!残りはこの事を他部隊に伝えろ!」


「はっ!」


ケイトの命令により一斉に散る騎士団員。


ケイトの常人離れした動きの速さと剣を鋭さにバタバタと敵は倒れて行く。


「ケイトさん、敵って?」


「ああ、新聖教団だな」


クリスタルパレスを襲撃したのは新聖教クルセーダーズ。その中でも薔薇十字軍と呼ばれる集団が魔法を使い襲いかかる。


「ロッシ気を付けろよ。相手は魔法を使ってくる。相手の魔法を使ってくるタイミングで一気に距離を詰めるんだ」


「了解っス!」


ケイトとロッシは鬼神の如く倒してまわりクリスタルの塔の敵をほぼ壊滅させた。



「ヴィル様、ご報告があります。邪魔が入りました」


「邪魔、どういうことだ?」


「ケイト・ローレントがこの事に気づいたのかクルセーダーズを一網打尽にしています」


「ケイトかーー相変わらず目障りな奴だ。あまり気は進まないが仕方ないプランを変更しよう」


「ーーでは、良いのですか?」


「ああ、塔を破壊しろ」


「仰せのままに」



「静かになりましたね?」


「ああ、今のうちに救出にあたろう。塔の中にまだ取り残された人がいるかもしれない」


ケイトとロッシが塔の扉に手をかけた時、


凄まじい閃光と爆音が塔を襲った。










記憶が途絶えたーー痛む腕と頭。




何があった?



爆音がして?



ケイトは我に返り目を覚ますとそこにはただ瓦礫と死体があちらこちらに転がっているだけで目を開けるのも痛くなるほどの無惨な光景がそこにはあった。


ケイトは何があったのか必死で思い出そうとした。


「塔の扉に手をかけた時・・・影?」


ケイトとロッシが塔の扉を開けようとしていた時、確かに空には一つの影があった。


その影は、一瞬天使のようにも鳥のようにも見えるが片羽根しかない。


そのシルエットは美しく一目見れば見惚れてしまう程だ。


人々は彼の事をこう呼ぶーー、


『片羽根の堕天使 ルシファー』


天使でありながら悪魔に手を染めた代償に片羽根をもぎ取られたと伝えられている。


未だその魔力は健在で悪魔族最強と言われている。そんな高貴な悪魔が人間に無償で手を貸す訳がない。彼等は必ずその活躍に見合った代償を求めてくる。


「確かに頂いたぞ!我が名はルシファー、下等な醜い生き物人間よ。自分の愚かさをしれ」


「嫌、嫌、お母さまああああぁぁぁぁ」


泣き叫ぶエレナの声。


「え、エレナ?」


その声で気づくリリス。しかし、崩れた塔の瓦礫に挟まれ身動きが取れない。


空中に浮かぶルシファーの腕の中には女王がいた。


「純血魔女の女王の血はさぞ美味いのだろうな」


ルシファーは舌を出し唇を舐め回した。


「お母さま、お母さまああああ」


エレナは必死に瓦礫から這い出てルシファーのいる場所まで駆け寄る。


「ほお、魔女の娘か。こちらも美味そうだな」


ルシファーはニヤリと笑みを浮かべてエレナを見つめる。


「ダメだ。こっちへ」


ケイトはエレナの手を引きその場を離れる。


「ヤダ、ヤダ離してよお。お母さま、お母さまああああぁぁぁぁ」


「はははは、懸命だな。人間とは実に面白い。逃げられると思うのか?」


ルシファーは右手に魔力を集めケイトに向けて魔法を放つーー。


ケイトはエレナの前に立ち魔法を切り裂く。


「なっーー!?」


ケイトの特異能力、『アンチ魔法』。


ありとあらゆる魔法を無効化する能力。

回復魔法も無効化されてしまうという欠点もある。


「今のうちに早く!」


「嫌、離してーーあっ」


ケイトの手を振り払ったエレナはバランスを崩し地面に倒れ込むとそのままエレナは気絶してしまった。


『どうか娘を宜しくお願いします』


脳裏に直接誰かが喋りかけてくる。


「この子は必ず僕が守ります。この命に代えても」


ケイトはエレナを抱き抱えクリスタルパレスを脱出した。



その後、駆けつけた帝国騎士団によりクリスタルパレスの騒動は収まった。


帝国騎士団が来る頃にはルシファーの姿は無く、クルセーダーズも退散した後だった。


そして、エレナの姉リリスの姿も消えていた。



☆ ☆ ☆


「これが俺が体験した全てだ」


「片羽根の堕天使ルシファーだと・・・」


「間違いないと思います。もうこの時すでにヴィルはゾロアスター教と手を組んでいたのだと考えられます」


「ーーでは、ルシファーを召喚したのは」


「はい。クリスチャン・ローゼンクロイツしかいないと思います」


レーベンハートはケイトの話をひと通り聞き終えたのか席から立ち上がるとケイトの肩をポンと叩き部屋から出て行った。


ケイトは、頭を掻きながらエレナの顔を見た。エレナはわなわなと肩を震わせている。


「エレナ何か思い出したのか?」


「分からない、分からないけど何かその話の場面を知っている気がする」


エレナは魔女狩りの時に倒れ気絶した際に記憶喪失になった。


「エレナ様思い出したのですか?」


ナタリアはエレナの顔を覗き込んむ。


「分からない、分からないよ。頭が痛い」


エレナはテーブルに両肘を付いて頭を抱えた。


「エレナ、無理に思い出さなくてもいいんだよ」


「嫌よ。みんな知ってるのに私だけ知らない。お姉ちゃんの顔もお母さんの顔も友達も何もかも私だけ覚えてない何てやだよ」


「エレナ・・・」


いつも僕の事を考えてくれてた。

彼女はずっと記憶のない事に苦しんでたんだ。


自分の名前以外何も覚えてない状態で三年も過ごしてきたんだ。なぜ僕は彼女の事を気遣ってあげなかったんだろう。


ずっとそばに居たのに誰よりも彼女は近くにいたのに・・・。


「エレナ、ごめん」


「えっ?何でケイトが謝るの」


「いや、その・・・」


ケイトが頭を掻きながらあさってを向くと、


「それよりも私のお姉ちゃんのことやお母さんのこともっと教えてよ」


エレナは身を乗り出しケイトに顔を近づける。


「ああ、それなら僕よりもナタリアに聞きな。僕はエレナのことを知っているようで何も知らないんだ」


ケイトは下を向き唇を噛んだ。


「私もケイトのことを全て知らないよ。それは同じことでしょ。これからいっぱい知っていけばいいんだよ」


「エレナーー」


ナタリアはニコッと微笑み。


「ーーでは、まず私とエレナ様の出会いからお話しましょうか」


三人はいつまでも話をしていたエレナの失った記憶を辿るように。


レーベンハートは部屋のドアの前に立ち、煙草に火をつけて一口吸った。



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