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三人の精霊と俺の契約事情  作者: 望月 まーゆ
三人の精霊とクリスタルパレスの魔女の書
129/217

魔女狩り②


「国王様、大変です。国王様ああああ」


「騒がしいぞ、何事だ」


シーサーの前にアヴァロン騎士団の兵士が息を切らしながらノックも無しに入って来た。


「クリスタル、はあ、はあ、パレスが何者かに襲撃を受けていると連絡が入りました」


兵士は息を切らしながら必死の形相で喋る。


「それは誠か?誰が通信を受け取った?」


「メイザース様が、親交のあるクリスタルパレスの友人から水晶での通信で分かったそうです」


「ーー直ぐにクリスタルパレスに向かうぞ!」


シーサーは玉座から立つと、


「待ちなさい、行ってどうするつもり?」


マーリンがシーサーを制止する。


「メリュジーナを助けに行く!」


「もう間に合わないわよ。私には分かるわ」


マーリンには未来が見える千里眼の特殊能力がある。彼女はこの先起こることがすでに見えているような口ぶりだった。


「お前に分かるとか分からないとか関係ない。今行かなきゃ俺は一生後悔する。そして、今まであいつに会わなかった自分を一生許せない気がするんだ」


「シーサー・・・あなたまだあの子のことを」


「当たり前だろ。俺の愛した最後の女はメリュジーナだ」


シーサーはマーリンに背を向けアヴァロン騎士団のマントを羽織った。


「マーリン、留守を頼む」


「ええ、任せて」


( 少し嫉妬しちゃうわよ。私のことは眼中にないのか・・・)





「ーーシーサー様、準備は出来ております!」


「よし!行くぞ。クリスタルパレスまではそう時間はかからない。飛ばすぞ」


シーサーは、白銀の剣を天に翳した(かざした)。それに合わせてアヴァロン魔法騎士団は一斉にアヴァロンからクリスタルパレスに向かい出発した。


アヴァロンとクリスタルパレスはそう離れてはおらず通常、馬車で二時間程で着く距離である。


シーサーとアヴァロン魔法騎士団は猛スピードでクリスタルパレスへと駆けて行く。


「ん?何だあの軍勢は。敵襲か?」


クリスタルパレスの国境付近でシーサーと魔法騎士団は馬のスピードを緩めた。


「これより先は誰であろうと通す訳には行かん。これはアストリア帝国ハロルドの命令である」


クリスタルパレスの式典の護衛にあたっている部隊長のトーマス・ガルフォードが叫ぶ。


「なっ、帝国だと?クリスタルパレスの護衛になぜ帝国が、マーリンが許可したのか?」


困惑するシーサー。それもそのはずクリスタルパレスもアヴァロン管轄下で護衛の依頼などは全てシーサーを通すのが義理である。無許可でクリスタルパレスの護衛などあり得ないのである。


「私は、シーサー・ペンドラゴン。アヴァロン王国の国王である。我が姉妹国、クリスタルパレスが緊急事態だと連絡が入った。『悪魔祓い』での義理もある、そこを通してもらう」


シーサーはそう言うと魔法騎士団にまた馬を走らせるよう命じる。ーーしかし、


シーサーの言葉に帝国騎士団たちは笑みを浮かべている。


「ストップだ!!ここは通す訳には行かない」


帝国騎士団たちは再びアヴァロン魔法騎士団を足止めする。


「貴様らどう言うつもりだ?」


明らかに苛立ちを見せるシーサー。


「四方八方に私たち帝国騎士団がこのように護衛している。万が一でもクリスタルパレスに敵の襲撃などあり得ない」


トーマスは笑顔でシーサーを説得する。

ーーが、


「何を寝ぼけてやがる!実際こっちは連絡が入った確かな情報だ!急がねば取り返しのつかない事になる」


シーサーがトーマスを振り払おうとするが、


「まあ、待て。ーーおい、水晶でヴィルに連絡を入れてみてくれ」


「はっ!」


シーサーの気持ちは焦るばかりで苛立ちはピークに達していた。


「ーーまだか!!」


トーマスに帝国騎士団員が何事かを耳打ちする。そしてシーサーの前に再びトーマスが現れ笑顔で、


「特に異変はないそうだ。お引き取り願おう」


「ーーふざけるな!!貴様ら帝国軍が何を言おうと俺はこの目で実際に自分で確かめるまで認めないぞ」


「ほお、余り聞き分けが分からん奴は例え一国の王であろうがなんであろうと躾が必要らしいな」


トーマスの顔つきが変わり腰に挿してある剣に手を置いた。


「ランスロットぉぉぉっ!」


シーサーが大声で叫ぶと同時に馬を走らせる。


トーマスがシーサーに斬りかかる。

その間にランスロットがトーマスの剣を回避する。


「ーーしまった。追え追えぇぇぇぇ」


トーマスが帝国騎士団員に命令するが他の帝国騎士団員もすでにアヴァロン魔法騎士団と交戦中だった。


「シーサー様、ご武運をーー」


シーサーはただ一人馬を走らせクリスタルパレスに向かった。





クリスタルパレスに薔薇十字軍を送り込み魔法攻撃を仕掛けているヴィルにトーマス部隊より水晶による交信が入る。


「ヴィル様、トーマス部隊より通信です」


ヴィルは表情を変えずに言われるがまま水晶を受け取る。


「私だ。要件は?」


ヴィルにアヴァロン騎士団がクリスタルパレスに異変があると言いがかりをつけ攻め込んで来たと伝えられる。


「ーーなるほど、そんなことあるはずが無いと伝えろ。こちらは至って平穏だ」


ヴィルは通信を遮断した。そして不敵な笑みを浮かべ、


「こちらは至って平穏だよ。ハハハハ」


ヴィルの視線に映るのは瓦礫と化すクリスタルパレスの街と死にゆく人々の姿だった。


ー 全て予定通りだよ ー




「・・・退屈っスね」


「これも仕事だからな」


「誰も来ないっスね」


ケイトとロッシは退屈そうにボーッと立っている。それは他の騎士団員も同じようにあくびをしたりしている。


「アヴァロン王国には行く人は多いがクリスタルパレスに用がある人ってのは少ないからな」


「そうですよね」


何気無くロッシは後方を振り返ってみた。


「ん?」と、目を凝らすロッシ。

クリスタルパレスから無数の白煙が上がっているのが見えた。


「ケイトさん、あれって何すかね?」


ロッシの指指す方向にケイトも視線を移す。


「式典の催し(もようし)とかだろ?盛大に今頃やってんだよ」


ケイトは髪の毛を掻きながら空を見上げる。


鳥に紛れエレメンタラーが大量に飛び立って行くのが見える。


「・・・どこから?白煙?」


ケイトの背筋に冷たいものが走った。


「ロッシ、クリスタルパレスに偵察に行くぞ」


その言葉に目を丸くし驚いたロッシ。


「持ち場を絶対離れるなとハロルド王やトーマス隊長が言ってましたよ。大丈夫なんですか?」


「何事も無ければそれが一番良いんだ。俺の目で確かめたい事がある。もしそれでお前らが責任を取らされることがあるなら全て俺のせいにしろ!」


ケイトは、ロッシの他に二名部下を引き連れクリスタルパレスに向かって馬を走らせた。


ケイトは嫌な胸さわぎがしてならなかった。




燃えさかる木々と建物、瓦礫の山と死体の山、真っ赤に染まる血の道。


シーサーが永い年月をかけて創り上げた王国は無惨にも消えていた。


「ーーなんて事だ。ああ、夢なら覚めてくれ」


シーサーはその場に崩れ落ちた。涙を流しても足りず、辺りを見回すがそこにはただ死体だけが転がっていた。


それはクリスタルパレスの住民だけでなく帝国騎士団の死体も多くあった。


ヴィルは、最初に帝国騎士団のヴィル部隊をクリスタルパレスに送り込みクリスタルパレスの住民などを無差別に惨殺した後に薔薇十字軍により味方ごと一緒に魔法の閃光の雨を降らせたのだった。


シーサーは、この事実を知り帝国への復習を誓った。


「メリュジーナは?メリュジーナはどこだ?」


クリスタルの塔があったであろう付近には折り重なるように大量の死体があった。


それを見たシーサーからはもう涙ではなく血を流していた。


「皆、女王と姫を守るために・・・」


シーサーは一つ一つ時間をかけて死体を移動させていくーー。






















メリュジーナは、人間の姿で小さな子供のピクシーや妖精たちと一緒に殺されていた。





「めりゅじぃぃなあぁぁぁぁァァァァァァ」



冷たくなった愛した妻を抱いてシーサーはいつまでも自分を責め続けた。



国を大きくすること、国民を守ることが自分の使命だと決めつけて自分のことは後まわしにしていた。


愛する妻は、精霊を棄て人間になって自分をことを待っていた。


もしも彼女が精霊だったらこのピクシーの子供や精霊の子供を救えていたかもしれない。全て、自分が彼女を不安にさせたのが原因だ。


「メリュジーナ、俺のために・・・君が人間じゃなくても俺は愛していたんだよ。いつでも会えると甘えていたんだ。本当にごめんな」


冷たくなった彼女を抱えシーサーはクリスタルパレスを去って行った。



シーサーが再び国境付近に着いた時には帝国騎士団の姿はなく、国王の帰りを待つ傷ついたアヴァロン魔法騎士団が待っていた。


ーー 国王様、王妃様お帰りなさい ーー

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