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三人の精霊と俺の契約事情  作者: 望月 まーゆ
三人の精霊とクリスタルパレスの魔女の書
124/217

知られざる現実


「レーベンハートさん、お久しぶりです」


「ケイトか・・・ずいぶんと見窄らしい(みすぼらしい)格好をしているがどうした?」


「えっ、いや目立たなくーー、痛て」


「だから服装をちゃんとしろって言ってるのよ!」


エレナはケイトの足を踏んだ。


「紫色の髪・・・そうかあの子がこんなに大きくなったのか」


「はい。今回バンディッツに来たのもその件についてです」


レーベンハートは頷き、しゃがみ込むと、紫色の髪をくしゃくしゃに撫でながら、


「本当に大きくなって表情もこんなに豊かに。ケイトは優しくしてくれたかい?」


エレナは顔を赤く染めながら、


「うん。ケイトは優しいよ」


レーベンハートは「そうか、そうか」と頷き笑顔をこぼした。


「レーベンハートさん向こうでーー、ナタリア、エレナを頼むよ」


「はい、分かりました」


ナタリアは、ピクシー族でエレナとクリスタルパレス出身の生き残りだ。ケイトとエレナと一緒に旅をしている。


二人を残しレーベンハートとケイトは奥の部屋へと入って行った。




会議室のような広い部屋の中、長テーブルにいくつもの椅子が並び、レーベンハートとケイトは真ん中辺りにテーブルを間に挟み向かい合って座っている。


「ーーまずは、報告からです。帝国とクルセーダーズに接点がありました。ヴィル・クランチェです。彼が裏で操ってます」


「ああ、これに関しては情報が入ってるよ。勇騎士の称号を与えた事により魔法省や世界議会への出席、全ての国への渡航も許可されてしまいやりたい放題だな」


「はい。更にゾロアスター教と新聖教が共謀しているとの情報があります。この二つが手を組むと厄介です」


「ゾロアスター教か・・・規模は小さいもののあの天才魔道士が創った団体だからな」


「クリスチャン・ローゼンクロイツですね。元円卓の魔道士で稀代の天才」


「秘密結社アルファのメイザースよりも上だと噂されていたが突然の失踪、そしてゾロアスター教を創り上げた謎の行動」


「ーーそれなんですが、ローゼンクロイツの行動とヴィルの行動にはある共通点があります」


「ある共通点?」


腕を組みながら(あご)に手を添えた。


魔道書(グリモワール)ってご存知ですか?」


「禁断の書物と言われている物だろ?迷信じゃないのか?」


「いいえ、実際に僕も見た訳ではないのですが神の鉄槌の件はご存知ですよね?あれは帝国にグリモワール所持者がいて行われたものらしいです」


「国を一撃で破壊する威力の魔法が存在するとーー」


レーベンハートは眉を真ん中に寄せて顔をしかめた。


「はい。グリモワールは数こそ把握されていませんが一冊ではなく他にも数冊あると噂されています。その一冊が実はクリスタルパレスにもあったとなると・・・」


「クリスタルパレスの魔女狩りは魔女を殺すことが目的ではなくグリモワールを奪うのが目的だったと言うことか」


「魔女狩りという名は後からのこじ付けでグリモワールを奪われないようにクリスタルパレスの魔女達が必死にグリモワールを守って亡くなったのでは?」


「ーーーー」


「実際、僕は現場に行きましたがクリスタルの塔のまわりに以上な数の遺体がありました。必死に塔を守っていたんだと思います。彼女たちにとってグリモワールは【神からの贈り物】として祭られていたのだと思います」


「ーーーー」


「クリスタルパレスを襲撃していたのは帝国兵や帝国騎士団ではなく新聖教団クルセーダーズでした。そしてそれを指揮していたのはヴィル・クランチェです。彼は始めからグリモワールを手に入れるのが目的でクリスタルパレスを襲撃したのだと思います」


「全てが奴の計画通り・・・か」


レーベンハートは腕を組んだまま天井を見上げ口を真一文字に結んだ。


「はい。そしてそれと同じ時期にローゼンクロイツの失踪事件がありゾロアスター教が誕生しました。ゾロアスター教は表向きは禁呪や秘術などの研究が目的として活動し秘密結社アルファの敵対勢力として世間を騒がせていますが実際グリモワールを手に入れるのが目的で作られた団体だと思います」


「なるほとな」


「共通の目的が同じ二つの教団が手を組むのは当然だと思います」


「ヴィル・クランチェとクリスチャン・ローゼンクロイツが手を組んだら厄介だぞ」


「もしそうなれば、誰も止めることは出来ないと思いますね」


「彼らの手にグリモワールはあるのか?」


「帝国に一冊ありますが実際に扱えるのは一人だけです。誰でも扱える品物ではないようです。クリスタルパレスのグリモワールが行方不明になっていますがヴィルの手にあるのかは分かりません」


「この件に関しては調査部隊を作り捜査しよう。他に何か話があるのだろ?」


「はい、エレナについてです。彼女は魔女狩り以前の記憶が一切ありません」


「それは本当か?」


「はい。自分の名前だけは何とか思い出せたのですがそれ以外は未だに」


「魔女狩りで心や精神的に強いダメージを受けてしまったのだろうな。何て可哀想なことに」


「彼女には姉はいることがナタリアの情報により分かりました。きっと顔を見たり一緒に過ごすうちに思い出すと思うんです。そして姉と一緒にこれから先は暮らして行ってほしいと思います」


「ーーっていうことは彼女の姉は生きていると?」


「はい。何度も目撃情報があり最新の情報だと 円卓の魔道士に推薦されたと聞きました。ただどこを拠点に活動しているのかまでは掴めていないのです」


「そこまで情報があればすぐに見つかるな」


「はい」


レーベンハートは椅子の背もたれに寄りかかり大きなため息を吐いた。


「ケイト、あの日本当は何があったんだ。君とエレナの間に何があるのだ?」


ケイトは苦笑いを浮かべボサボサの頭を掻きながら、


「これってまだ彼女にも話してないんですよね。呼んで来ていいですか?」


ケイトは席を立つと「参ったなあ」と呟きながら部屋の外に出て行ったーー。


レーベンハートはケイトの出て行った扉を見ながら再びため息を吐いた。

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