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三人の精霊と俺の契約事情  作者: 望月 まーゆ
三人の精霊とカタリナ公国の書
115/217

最後の砦


「そこそこの障壁でなかなか粘ったな。こんな国に魔法が使える奴がいるとは思わなかったな」


「ーーーー」


「どうしたミリア?」


「せいれい?」


「精霊? ほう、精霊使いがいるのか。どれだけの者か楽しみだな」


銀色の髪に笑っているような鋭い狐目。青い聖騎士の鎧と深紅のマントに独特の金色の十字のネックレスを首から下げている青年。ヴィル・クランチェだ。その隣には、茶色のボブカットの小悪魔。


白装束のクルセーダーズを率いて岩山の上からカタリナ全土を見下ろしている。


「うっ、うう・・・この精霊の気配。頭が痛い」


ミリアは顔を真っ青にし頭を押さえうずくる。ヴィルはそんなミリアを心配する素ぶりすら見せず、


「あの教会だけあからさまだなーー」


カタリナ公国のほぼ全域の建物という建物が炎上し崩れ落ちている中、教会のみが不自然にポツンと建っていた。



「教会だ。 教会を狙えーー」



☆ ☆ ☆



不安はピークに達していた。

子供は泣き出し、大人達はその泣く子供に八つ当たりをし始めたーー。


ソフィアもただ神に祈るしか出来なかった。


アーサーは息を整え、ゆっくりとみんなに話した。


「みんな良く聞いてくれ・・・カタリナ城は障壁を突破され落城した」


静まり返る地下室ーーその後悲しみに変わった。


泣き崩れる人、意識朦朧(いしきもうろう)とする人辺りが騒めき経つが、


「騒ぐな、敵軍に見つかるぞ!間違いなく次は此処に来る。騒げばすぐ見つかる。もうすぐバンディッツが来てくれる筈だ。後、少しだ。みんな最後まで気力を振り絞れ!」


アーサーはみんなを鼓舞するように必死に訴えた。それは、自分に対してもだった。アーサーの気力、体力、精神力はすでに限界だった。それでも、バンディッツが来てくれるという希望とこの人たちを守りたいという気持ちだけで何とか繋ぎ止めていた。


ソフィアも子供たちや国民達を必死で励ましていた。



しかしーーすぐにその時は来た!!



『緊急障壁発動します!』


リサが仕掛けた魔法が発動した。


「ぎゃああああああ!!!」


帝国軍の兵士が地下室の扉に触れた瞬間に障壁が発動したのだ。


帝国軍の兵士は炎に包まれた。


「・・・最後の砦ってヤツだな・・・はあ、はあ、コレを突破されたら打つ手は残ってないな・・・はあ」


『アーサー様の体力、気力、精神力を考えますと後、もう長くは保たないかもしれません』


「ーーだろうな。ここまで耐えてきただけでも奇跡だよ。お前らには本当に感謝してるよ」


『アーサー様にはいつも愛してもらってますから』


「・・・言ってろ」


アーサーは息を整え難しい顔をして黙り込んだ。


『アーサー様? どうしました?』



『ーー仮にだ。大群で一気に魔法攻撃を絶えず撃ち込んでこられたらどれくらい耐えられる・・・』


『威力にもよりますがリサの炎障壁はエルザの防御壁とは違いその場しのぎにしかならいです。三十分は保たないかもしれないです』


「そっか頼むリサ、何とか少しでも永く持ち堪えてくれ」


『ええ。アーサーの頼みだからがんばるね』


リサは力強く答えた。しかし、アーサーの限界が近いことはリンクしている精霊たちは分かっていた。




そしてアーサーの悪い予想は的中するのだったーー。



敵軍は教会を包囲し教会地下室の扉の障壁に魔法攻撃を絶えず集中砲火してきたのだった。





教会の地下室に地響きが鳴り響く。

女、子供たちは頭を抱えてしゃがみ込み我が子を抱き抱えていた。


アーサーはついに倒れ込みソフィアに膝枕してもらっていたーー。


「ハア、はあーーこんな可愛い子に膝枕なんてしてもらって悪いな・・・ウチのちっさいヤツらが焼きもち焼かなきゃ良いけどな」


『あとでアーサー様はお仕置き!』

『ふふふ、覚えておいて下さいね』


「ーーハハ怒ってるな。はあ、ハア、安心しろよ、お前らより大切なモンはいねえよ。だからもう少し頑張ってくれよ。俺の全てを捧げるから」


アーサーは叫んだ。全力を振り絞るかのように。


「アーサー・・・様・・・リサ嬉しい」

「シルフィもです。アーサー様」


か細く小さな声でエルザも、


『アーサー・・様・・嬉しいの』


幾度も切り抜けてきた修羅場。

そこには必ず三人の精霊たちがいてくれた。一人じゃないからここまで頑張ってこれた。

だから今も、一人だったら諦めている場面はいくつあったが、三人の精霊たちが必死で頑張ってくれている。「アイツらが頑張っているんだ俺もやらきゃ」思う。



更に、凄みを増す帝国軍の攻撃。


遂に天井にひび割れが発生し瓦礫が落ちてくるーー女、子供の悲鳴が響き渡る。



『アーサー様・・・ごめんなさい。リサは・・・リサは・・・もう・・・』


「リサありがとう。ここまで良く頑張ってくれた。僕の中でゆっくりおやすみ」


『・・・はい』



リサの具現化が消え小さな光がアーサーの体の中に消えていった瞬間ーー。




大きな地響きと共に教会の地下室の扉の障壁が破られた・・・。



「クソ!バンディッツはまだかーー」


届くはずのないアーサーの虚しい叫び声が地下室に響くの



「ーー敵軍来るぞ!!戦える奴は前に出ろ!!」


アーサーが叫んだと同時に帝国軍が雪崩のように地下室に押し寄せる。


女、子供たちはばかりの中に男は数名しか居らずその男達は扉の前で必死に戦った。


アーサーはソフィアを最後尾まで下げ、白髪の老人執事を側に置いた。


そして、女、子供の前にアーサーが立った。

扉の向こうの男たちが殺られたらもう最後は自分しかいない。最後の気力を振り絞った。


カタリナの男達は最後の最後まで必死に戦ったが人数が多過ぎた。


遂に、帝国軍が教会の地下室に押し寄せて来たのだったーー。


「ーーあの子の為に使う筈だったんだけどなあ」


『ふふふ。アーサー様は一人の為には使わないと最初から思ってましたわよ』


「ーー言ってろ!シルフィ、頼むぞ!!敵軍全員ぶっ潰すぞ!!」


『ふふふ、任せて下さい。愛するアーサー様のお言葉なら』


押し寄せる敵軍の波に人々の悲鳴が響き渡るーー。




ああ神様、バンディッツが到着するまででいいです。


みんなを守れる力を下さい・・・。


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