負けの定義
・・・今でも一番記憶に残っているのは、ある少女の質問だった。
「君は、敗北というのは何かわかる?」
そう言ったのは自分よりも遥かに年上だが完全に見た目は少女な茶色の髪をセミロングにしている魔王だ。
いきなりのその質問は難しく、すぐには答えれなかった。
敗北
そのことについて、僕がしばらく考えて出た答えは
「相手に打ち負かされることではないのでしょうか?」
彼女は首を横に振って、答えた。
「違うよ、たぶん勝つことを諦めた時だと思う。
歴代の魔王たちが勇者にやられたのはそのせい。勇者たちが勝ったのはあきらめなかったから。」
その言葉を聞いて、僕は何かと釈然としなかった。
諦めないだけで勝てたら苦労しないって。根性論では何も変わらないだろうと。
「歴然とした力の差ですら覆せるとでも思うのですか?」
僕の指摘に彼女は驚いて少しすると、苦笑いした。でもすぐに真面目な顔に戻って
「たとえそれでも私は、自分たちの大切なものが踏みにじられるのはゴメンね。
だからミーティア、君もそうであって。もし引けない状況があれば、その時は諦めないで。」
彼女は少し悲しそうにそう笑って締めくくった。
彼女はその後、最後の戦闘で勇者の空間転移魔法で相打ちになったらしい。
異空間へ勇者と一緒に転移したらしく、いまだに戻ってきていない。
らしい、というのは僕は別のところで他の任務を受けていたからそこには行けなかったのだ。
いまでも、あの言葉は正しいのかどうか分からない。
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だけどな、
「・・・断る」
「『なんだと?』」
レグナントはまるでありえない・・・といいたげな驚いた声で言って、もう一度こっちに聞き直してきた。
「『お前分かってるのか?俺の配下になり、その上で魔族を半分譲渡すれば、お前を俺の幹部にもしてやってもいいんだぞ?ここまで好待遇にしてやってるのに断るというのか!?』」
僕は、自分の心の奥にある言葉を口にした。
「僕の仲間は、種族は、みんなはお前らと平等に扱われるのか?お前はそんなことをしないだろう。
それにお前の虐殺は嫌いだ!!だから・・・」
僕はッッ・・・
「お前を否定する!!」
邪神は頭痛でも起こったかのように、頭に手を当てて声のトーンを落として僕にこういった。
「『お前は、今の状況を分かってないようだな。お前の仲間はほぼ瀕死だぞ?勝てるわけないだろ・・・!?』」
「勝てはしないが、負けもしないよ?」
僕が、ニヤァと不敵に笑った。
「『強がりはやめておけ。雑魚が!!』」
レグナントは手を挙げて、配下の邪神族に強大な魔法を使わせようとした瞬間、余裕だった奴の顔が途中から驚愕に変わった。
なぜなら詠唱途中で僕と水妖精達の姿が消え始めたからだ。
「『待て!!この男の娘野郎!!!』」
「誰が待つか!あと僕はそれじゃねぇ!!」
そして、完全に消える直前にレグナントの怒り顔が間近まで迫って来たが、転移が発動してが助かった。
さっき僕がしたことは、レグナントが喋っているときに水妖精の魔法使い達に任せて邪神領域の妨害魔法を解いてもらった。
もともと領域というのは、超常現象的な魔法だといわれている。
領域には、常時3つの結界魔法が展開されている。
まず、転移などを防ぐ[妨害魔法]、仲間を強化する[強化魔法]、敵を弱体させる[弱体魔法]である。
魔王領域の支配者である僕がその効果もしくみも知り尽くしていて、尚且つ『物質創造』で転移アイテムを作れたから逃げ切れただけである。
転移杖(集団用) 両手杖 UC
専用効果・・・集団転移(0/1)、攻撃力減少(大)、耐久力減少(大)、
これがさっき使った超絶劣化した転移武器なのだが、効果1回分しかない上にこれを創造しただけでMPを残りをすべて持っていかれた。
本当のギリギリだっただと思う。
そして、魔王城に全員ボロボロのまま転移をした。
戦闘によるダメージとかなりのMP切れのせいで僕は途中で気を失った。
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目が覚めたら、カグヤとソラスがぐーぐー言いながら僕のおなかを枕にして寝ていた。
普段、厨二を炸裂させているカグヤと、「・・・」が大好きなソラスは、二人ともいつもは年齢に見合わない(カグヤは幼い)が、こういう風に寝てるとお互いが年相応の姿でいるのが珍しくじっと見てしまった。
二人ともをそのままにしてても良かったけど、じっと見てるのも駄目な気がしたので、とりあえず重い方のソラスをお腹からどけ、カグヤをおんぶして立ち上がった。
体中の傷が痛かったが水妖精のみんなが無事か早く知りたかったから歩き始めた。
そして、ルカやその仲間たちは怪我は多いものの、転移してきた子たちは全員生きているらしいだった。
そのあと部屋に戻ると、落とされたソラスが頬をムクれてポカポカ殴ってきた。
「カグヤをおぶって、なんで私だけ落とすのですか・・・超激オコです。」
だってカグヤが幸せそうに涎垂らしながら寝てるんだから起こすの可哀想じゃん。
ソラスがむむむと唸りながら、僕の後ろにきてボソっといった。
「いまだけは、カグヤの子どもっぽいところがうらやましいです・・・羨望です。」
「なにかいった?」
「何でもないです・・・ヨット!!」
改めて聞き直そうとすると、ソラスの貫手が脇腹に突き刺さりましたよ。ちょうど怪我が治ってないところに。
手があたった瞬間にカグヤをそこらへんに放り投げ、僕は痛みに転げまわった。
「いったぁあああ!?」
「痛ッ!ちょッ!!頭打ったし、何この最悪の目覚め!?」
一緒になってカグヤと僕が悶絶しているのをソラスがクスクスと笑った。
その後、カグヤが僕に向かって抗議してきた。
「何するし!マジで聡明な頭打ったじゃん!!気持ちよく寝てたのに!!!」
「僕にいうな!ソラスが怪我してるところに殴ってくるから仕方ないじゃん!」
そういって僕はソラスを睨むと、ソラスは下手な口笛を吹いていた。
そして、カグヤは怒ってソラスを追いかけ始めた。
「こらー、待てぇ!」
「『三十六計逃げるに如かず』・・・脱兎です。」
二人はおいかけっこをしながらいづこかに帰っていった。
彼女らが見えなくなったのを見て、もう一度ベットに寝転がるとこれからのことを考え始めた。
(久しぶりにゆっくりした時間だけど、あんまり遊んでる暇はないな。
新武器もとい秘密兵器を完成させるしかないか・・・)
一度軽く伸びをしてから、治療部屋からでた。
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その後、緊急の族長会議が開かれた。
ここまでよんでいただきありがとうございます。