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8話

 アリシアが最初に面接をしたのは、褐色の肌に白い歯が印象のさわやかな20代の青年だった。

「アリシアお嬢様、私は以前牧場で働いておりましたが、母の具合が悪いため、キルス領へ移ってまいりました。動物のことは大好きですし、経験もあります」

 青年が最後に白い歯を出してにかっと笑う。白い歯が光ってまぶしい。

――人当たりはいいわね。どれほどの手腕かはわからないわ。……仮採用という手もあるけど。


(コンコン)

「アリシア様、失礼いたします」

「あら、エナどこに行っていたの?」

 席を外していたエナがアリシアに近寄り、耳元でささやいてくる。

 どうやらこの青年は以前いた牧場で複数の女性と関係を持ち、追い出されているらしい。以前いた牧場がキルス領と遠かったため、確認に時間がかかったようだ。腕は悪くないが、手が早いのが欠点だということだった。


「今日はありがとうございます。今回は申し訳ないのだけれど、縁がなかったということで」

 女癖の悪さで今後問題が起こっても困る。それに、先ほどから青年に見つめられると気分が悪くなっていたが、どうやら青年の自分へ向ける視線が熱いからだと気づいてしまった。

――雇用主をたぶらかすような方に碌な方はいないわ


 

 アリシアが次に面接をしたのは、おっとりとした若い女性だった。黒い前髪は横一列にきれいにそろえられており、後ろ髪も肩のあたりで横一列にそろっている。

「私は動物の気持ちがわかるのです。何度も動物を助けたことがあります」

「……あら、素晴らしいことだわ。具体的な話を聞かせてくださる?」

 アリシアが注意深く聞いてみると、どうにも話が矛盾している気がする。そこで屋敷で飼っている猫で試してもらおうと連れてきてもらった。

 猫が部屋に入った瞬間、その女性の目がきらりと光った。

「にゃんにゃんにゃん、にゃにゃにゃ~」

「……」

 女性はいきなり猫に話しかけたのだ。猫は少し頭を引いたようにエナの腕の中で固まっている。

――完全に猫の気持ちになっているわね……

「猫を飼っていらっしゃるのかしら?」

「はい。皆、私と住みたいというので。この猫ちゃんもそう言ってます。連れ帰ってもいいですか?」

――どうやら妄想癖があるようだわ。

「連れ帰るのは困るわ。申し訳ないけど、今回はご縁がなかったということで」

猫はエナの腕から飛び降りると、すたすたと女性とは反対の方向へ歩いて行った。


 

 アリシアが面接した三人目は、ピシッとした白いシャツを着た眼鏡をかけた学者だった。年は40代半ばだと言う。

「私はこの国のすべての動物に関する文献を読んでいるつもりです。オルカンド王国一の知識がお役に立てると思います」

「素晴らしい知識だわ。ところで実際に動物を育てられたことは?」

「動物には触りません。服が汚れますので」

「……」

「しかし、動物の生態についてはお任せください!」

「今回は、実際に牧場で世話をしてくださる方を探しているの。今回はごめんなさいね」



 アリシアは個性豊かな面接者の相手をし、疲労感で頭が痛くなってきていた。アリシアは手でこめかみを抑えながら、エナが入れてくれたミントティーをゆっくりと飲む。

 しばらくすると扉からノックの音が聞こえた。

「アリシア様、次の面接の方がいらっしゃいました」

「はい、入っていただいて」

――今度はまともな人だといいのだけれど


 最後に入ってきたのは、濃い茶髪を後ろでゆるく縛っている男性だった。顔に特徴はない。着ている服はつぎはぎだらけで、不潔ではないものの明らかに応接間の中にいると場違いに見える。

「はじめまして、私がアリシアよ。あなたの名前と経歴など、教えていただけるかしら」

「はじめまして~。ハイドです~。羊が専門です~」

 ハイドは語尾を伸ばしゆるい話し方をする。どうやら話し方の癖らしいが、服装と合わせてもとてもしっかりとした人には見えない。

――この人もダメそうね。とはいえ、見かけによらない人もいるし、一応もう少し確認しましょう

 アリシアがハイドについてよく話を聞くと、服はお金がなくてもらったものを着ているため、つぎはぎだらけらしい。これでも一張羅を着てきたと言われてしまった。

 そしてハイドは、なんと南のケルス国で大規模に羊の生産をしていたらしい。しかし、そこの領主が横暴でだまされる形で牧場を追われ、オルカンド国へ移ってきたということだった。羊のことが大好きだからお金をもらえなくても、羊と一緒にいたい、と思い、今回応募してきたということだった。

 話し方はゆるいハイドだったが、羊について受け答えする話の中身はかなりまともだったし、全ての話が経験に基づいているようだった。

「いいわ。ハイドさん、是非あなたにお願いしたいわ。1か月は仮採用ということになるけど、よろしいかしら。もちろん、必要な衣食住はこちらで保障するわ」

 アリシアはハイドから羊への強い情熱を感じていた。

そして、ハイドに任せてみようと決めてから、ハイドに契約内容について説明をした。もちろん、成功した暁には自分の名前を羊につけることも可能だということも添えて。

 


「エナ、今日は疲れたわね」

「アリシア様、そうですね」

「ハイドさんを採用できてよかったわ」

「仮採用にされていましたが」

「そうね、でもきっと彼は大丈夫だと思うわ」

「そうですか。……アリシア様の人を見る目は信用しています」

「ありがとう、エナ。でも慢心は禁物よ」

「わかりました」

「さっそく、牧場では羊の生産を始めるわ。本当は馬が、特に軍馬が良かったけれど、軍馬を育てたことがあるような人物は、そうそう転がっているはずもないし。それでも、これでウィルキス様との将来への一歩が踏み出せた感じね」

「おめでとうございます」

 エナがいつもよりも口角を上にあげた。笑顔を見せているつもりなのだろうが、作り笑いのようにぎこちない。しかし、アリシアにはエナが心から微笑んでくれていることがわかっていた。

――エナ、ありがとう


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