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39話

 それからウィルキスは頻繁にキルス伯爵家を訪れるようになった。どうやらキルス伯爵と今後について話し合いをしているらしい。

「アリシア、僕としては1日でも早く結婚したいのだけれど、キルス伯爵がなかなか許してくれなくてね」

 ウィルキスは少し残念そうな表情を浮かべた。

「そうなのですか……?」

「あぁ、婚約者としては認めてくれるようだけれど、結婚はまだ早いってね」

――お父様は親バカだから。

「あの、ウィルキス様、その……抱きしめられるのは恥ずかしくて」

「そうだった?アリシアはかわいいな」

 ウィルキスはアリシアに対しては頻繁に笑顔を向け、会えば必ず抱きしめるようになっていた。初めてアリシアに笑顔を向けるウィルキスを見たエナは、無表情のまま固まってしまったくらいだった。


「あの、ウィルキス様、実は今牧場で軍馬の生産をしたいと考えておりまして、専門家の方を雇ったのです。宜しければ牧場をご覧になりませんか?」

 アリシアは以前ウィルキスが軍馬の生産に力を入れる、と言っていたことを思い出し、ウィルキスを誘ってみることにした。

「アリシアは軍馬にも興味があるの?」

「あの……ウィルキス様が軍馬に力を入れられると聞いて、それで興味が……」

アリシアはまた顔が赤くなってしまった。自分がウィルキスのことが好きだと伝えているようなものだった。

「ありがとう。嬉しいよ」

 ウィルキスはまたアリシアに笑顔を向けてくれた。


 アリシアとウィルキスが馬の厩舎へ行くと、ゲンカクとムクが話し合っているところだった。

「ゲンカクさん、ムクさん、馬の育成はいかがですか?」

「アリシア様、それですが、馬用の放牧できるスペースをもう少し広く取りたいのですが」

ゲンカクはアリシアに対して、丁度良い、という表情を浮かべ、要望を伝えてくる。

「そう……」

 アリシアは考え込んでしまった。

「ゲンカクさんはもしや黒馬のゲンカクと呼ばれている方でしょうか?」

 横にいたウィルキスが突然ゲンカクに話しかける。アリシアはウィルキスの話にきょとんとしてしまった。初めて聞いた話だった。

「あぁ、懐かしい呼び名じゃ」

 ゲンカクは目を細めてウィルキスに対して答える。

「それは、素晴らしい。是非バーグ公爵家にお迎えしたくてお探ししたのですが、消息が分からず」

――ゲンカクさんって有名人なのかしら?

「あぁ、元の牧場をやめた後グース男爵領に行っておったのだ。そこでアリシア様に拾われてな」

 ゲンカクさんはアリシアの顔を見て面白そうに笑顔を向ける。

「アリシアがゲンカクさんを拾った?」

 ウィルキスが不思議そうな表情を浮かべると、アリシアに問いかけてきた。

「えぇ、カリスの町の食堂でお会いして、それで軍馬の育成が得意とおっしゃるので、キルス領で働かないか、とお話ししたのです。ゲンカクさんは、もしかして有名な方だったのですか?」

――はじめは仮採用にしてしまったけれどまずかったかしら?有名な方だなんて知らなかったわ。

「えぇ、黒馬のゲンカクと言えば、軍馬の育成ではかなり有名です。気に入った雇用主としか契約しない、ということですし。確かルワン帝国からも来てほしいと誘われているとか」

「ワシはオルカンド生まれだから、オルカンドから離れる気はない」

 アリシアは驚いていた。まさかゲンカクがそこまで有名だとは思わなかったのだ。しかも、雇用主を選ぶとかなんとか。普通に食堂で話しかけてしまった自分は何が良かったのだろうか、と思ってしまった。

「そうですか。アリシアがバーグ家に嫁いで来たら、こちらに来ていただけるのかな?」

 ウィルキスの声は面白そうだった。表情もいつもよりも穏やかだ。

「アリシア様がそれを望むなら、かまわんが」

 ゲンカクの言葉にアリシアは困ってしまった。

――もともとはウィルキス様のために軍馬の専門家を探していたのだけれど、まさかウィルキス様が探していた方を雇っているなんて

 アリシアはどうしたら良いのか困ってしまった。

「だが、そうすると、トムと会えなくなるのも寂しいのう」

 ゲンカクがつぶやくように言う。

アリシアがゲンカクの言葉に口をかしげると横からムクが楽しそうに応えた。

「ゲンカクおじいちゃんはトムさんと飲み友達になったのです。とても嬉しそうです」

 どうやらゲンカクとトムは同世代ということもあり、アリシアの知らぬ間に意気投合していたようだった。

「それはとても嬉しいですわ。お友達は大事ですものね」

「アリシア、トムさんという方もここの牧場の人?」

 ウィルキスはアリシアに尋ねる。

「そうですわ」

「そうか、ゲンカクさんがアリシアと一緒にバーグ家の牧場に来てくれたら嬉しいけれど、トムさんも誘ったらキルス伯爵が困るだろうな」

 ウィルキスは苦笑している。

「そうですわね……。牧場経営については私に任されていますが、実際は父のものですし。宜しければトムさんにもお会いになりますか?」

――お父様が牧場経営にこだわっているとは思えないけれど、実際はどうかしら?

「そうだね。是非アリシア自慢の牧場を、一通り見せてほしいな」

 アリシアの提案に、ウィルキスはアリシアの腰に手を回すとアリシアを促して歩き始めた。


 歩きながら時折ウィルキスがアリシアの髪にキスをしてくるのが、アリシアは恥ずかしくてたまらない。どうやらウィルキスは普段は女性には冷たいが、一度好きになったり懐に入れると、甘やかすのが好きな男性のようだった。

 アリシアが鳥の飼育場の前に着くころには、アリシアは恥ずかしさにふらふらになっていた。

――ウィルキス様、嬉しいけれど恥ずかしいわ。今までのウィルキス様と全然違うのだもの。

「トムさん、エダさん」

 アリシアが飼育場を覗くとトムとエダの後ろ姿が見えた。

「あぁ、アリシ……」

アリシアの方を向いたトムとエダは目を丸く見開いたまま固まってしまった。

――何かあったかしら?

 アリシアは首をかしげてしまう。すると突然隣にいたウィルキスがトムの方に近づいていった。エダはうつむいてしまっている。

「こんなところにいたのですか、おじいさん」

「え?」

 アリシアはまさかトムがウィルキスの知り合いだとは思わず、驚いてしまった。

――まさかトムさんもウィルキス様の探している人だったりするのかしら?今日はゲンカクさんの事といい、驚くことが多いわ。トムさんがウィルキス様の知り合いだなんて。

「まさかエダさんまでいらっしゃるなんて」

「ウィルキス、これはその……」

 トムはばつの悪そうな表情を浮かべている。

「知り合いの家に行くと言われて別荘から出ていかれて、まさかここにいるとは思いませんでした」

 ウィルキスはトムに詰め寄っている。

「あの、ウィルキス様、トムさんとはお知合いですか?」

 アリシアはウィルキスとトムとの関係が分からず、ウィルキスに問いかけてしまった。

「トム?あぁ、トムと呼ばれているのですね。アリシア、彼は、本名はエルク・バーグ。僕の祖父です」

「え!?」

「トムというのは、祖父の愛称ですよ」

「え……」

 アリシアはまさに絶句という感じだった。

――どうしてこんなところにウィルキス様のおじいさまがいらっしゃるの?ウィルキス様のおじいさまって、前国王の弟様よね。どうしよう。

 アリシアは粗相があったらどうしようと慌ててしまった。それを見てトムはお茶目な顔をアリシアに向ける。

「ウィルキスの婚約者の子を一目見ようと思って、訪ねてきたのだよ」

 トムは自慢気に行った。

「アリシア様はとてもいい子だよ。なぁ、エダ」

「えぇ、私たちにも良くしてくれて」

 トムとエダは頷き合っている。トムとエダに面と向かって褒められて、アリシアはくすぐったい気持ちになっていた。

「ウィルキスにはもったいないくらいの子だな。大事にするんだよ」

「おじいさん、アリシアが良い子ということは知っています。逃がす気はないので安心してください」

 ウィルキスがそう言い切ると、今度はトムが心配そうな顔をしてアリシアを見た。

「ウィルキスは一度気に入ると執着心が強いからな」

「そうですね」

 ウィルキスは自覚しているのか、トムの言葉に笑っている。

「ウィルキスにもばれてしまったし、そろそろバーグ公爵家へ戻った方がよさそうだ。ハーブ鳥の研究については、ルカがだいぶできるようになっているし」

 ルカはハーブ栽培で有名なポリス出身の男の子で、ハーブについてはトムをしのぐほどの知識を持っているのだとか。ハーブ鳥育成の人員増強の際に採用し、今は住み込みで働いている。ここでトムから鳥の飼育について習いながら、ハーブの知識を役立てているらしい。トムとエダも息子のように可愛がっていた。


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