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26話

 アリシアの誕生パーティーがつつがなく終了した後、アリシアはレノンと母と共にキルス領の西にある別荘に行くことに決めた。以前から決めていた休暇をレノンと母と一緒に取ろうと思ったのだ。

 その話にレノンはとても喜んだし、母も嬉しそうに了承してくれた。

――お母様やレノンと一緒にゆっくり過ごすのは久しぶりだわ

 アリシアは久しぶりの休暇、ということもあり浮かれていた。

 

 パーティーの翌々日にはオルカーの屋敷を後にすることになり、オルカーからはすぐにでも離れたかったアリシアはほっとしていた。一人取り残されるキルス伯爵は悲しそうな顔をし、別れ際には一人一人をぎゅっと長い時間抱きしめた。毎回の光景とはいえ、相変わらず親バカで愛妻家だった。

――そろそろお父様に抱きしめられるのも恥ずかしいわ

 アリシアは寂しさで涙をにじませる父を見ながら、そんなことを考えていた。



 西の別荘はキルス領の中にある、童話のモデルにもなった有名なポリスという町にある。ポリスはのどかな田園風景が周りを取り囲み、緑豊かで、ハーブの栽培でも有名な小さくて可愛らしい町だった。

「エナ、ここは本当に素敵な町ね。」

 アリシアは別荘の庭でエナとお茶を飲んでいた。いつもは侍女としてなかなか同じ席にはつこうとしないエナも、この別荘では家族のように、というアリシアの母の計らいもあり、こうして良く一緒にお茶をしていた。

「そうですね。アリシア様、いつも飲んでいらっしゃるハーブティーはここで作られたものですよ」

「そうなの?だからなのね、このお茶を飲むと落ち着くわ」

 アリシアは別荘にいる間、レノンと共にハーブやイチゴを摘んだり、ピクニックをしたり、普段は味わえない体験をしてゆっくりと過ごしていた。その中で、レノンはずいぶんと外に出られるようになったと感じていた。

「レノンも体調が良いみたいね」

「そうですね」

「あと数年もすれば屋敷に戻れるかしら」

「そう思います。旦那様も若い時に喘息持ちだったようですが、10歳の頃にはほとんど治っていらしたそうです」

「そうよね、レノンは本当にお父様そっくりだわ」

「そうですね」

「本当はレノンと暮らしたいのよ。でも、私も16だわ。20歳くらいまでには結婚を、とお父様も考えていらっしゃるはずよ。その前にレノンと一緒に暮らせる時間が少しでも取れたら嬉しいわ」

「そうですね」

「まぁ、こればかりはどうなるかわからないけれど」

オルカンド王国の貴族の女性は、大体20歳くらいまでに結婚をするのが一般的である。アリシアがキルス伯爵家にいられるのも、順当に考えればあと5年もない、ということだった。


「アリシア」

 アリシアが振り返るとそこにはアリシアの母が侍女を連れて立っていた。

「お母さま」

「一緒にお茶をさせていただこうと思ったのよ」

 アリシアの母が柔らかな笑顔を向ける。アリシアの母はスカーレットの髪にエメラルドグリーンの瞳という、アリシアにそっくりの容姿をしている。しかし、性格はとても穏やかな性格であったため、アリシアとは雰囲気が全く違っていた。アリシアの母といると皆が和む優しい雰囲気を持っていた。

「嬉しいですわ、お母さま」

「ありがとう、アリシアとゆっくりお話しするのはひさしぶりね」

「そうですね」

――お母さまと話をするととても和むわ

 アリシアは母の雰囲気につられてとても穏やかな気持ちになってきた。

「アリシアのドレスのお店、オルカーで伺ったけど素敵だったわね」

「まぁ!お母さまにそう言っていただけると嬉しいですわ」

「アリシアは昔からセンスが良かったから、楽しいのでしょう?」

「はい。正直、はじめは違う理由で始めたのですが、お店を始めてからはお店のお針子さんやお客様とデザインのお話をするのが楽しいですわ」

「そう。楽しいなら私も嬉しいわ」

「はい。とても楽しいです。これからもお店は続けていきたいと思っていますわ」

「ふふふ、アリシア、1週間くらいオスルに行ってみてはどうかしら?」

「オスルですか?」

 アリシアはオスルについて思い出していた。オスルは西のルワン帝国の首都である。ルワン帝国は実力主義という特徴があるせいか、オルカンド王国よりも革新的な国な国であり、国としても大きい。それゆえ近隣国から様々な実力を持つ者が一旗あげようとルワン帝国に集まる、という現象が起きている。それは芸術の分野においてもそうだった。

「えぇ、最近は斬新なデザインのドレスもあるようだし、いろいろな文化を知る良い機会になるのではないかしら?」

「そうですね……ですが、他国ですし」

「それは大丈夫よ。ユミルがオスルにいるから、尋ねたら喜んでくれるわ」

「ユミルおば様は、そうでしたね。オスルの貴族に嫁がれたのですよね。それでしたら是非行ってみたいですわ!」

 アリシアは興奮してきていた。オスルの最新のファッションを見たいとも思ったし、最新の芸術が集まると言われているオスルで観光できたら楽しいだろう、と考えたのだ。

アリシアの母はアリシアの顔を見てにこにことしていた。アリシアの性格から、ポリスに長くいても飽きてしまう、と考えたのかもしれなかった。

「お母様、是非ユミルおば様にお手紙を出していただけますか?1週間ほど滞在させていただきたいです」

「えぇ、ユミルも喜ぶわ。楽しいことが大好きだから」

――お母さまは本当に優しいわ。私の事も分かってくださるし。お母さまのような女性は女性の憧れよね


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