18話
アリシアは一通りミリーと牧場を回りながら話をすると、早々に応接間に戻った。そして、作業着からドレスへとさっさと着替えることにした。いろいろな人の目にさらされ、開き直ることもできず、恥ずかしさは募るばかりだったのだ。
「ミリー様、いかがだったかしら」
ドレスに着替えたアリシアとミリーは応接間に座ると、作業用の帽子について話を始めた。
「えぇ、とても可愛らしくて。かぶっていて幸せですわ」
「作業はしづらくなかったかしら?」
「特に気づいたことはありませんでしたわ」
「そう、良かったわ」
「アリシア様、ありがとうございます。よろしければこれからもあの帽子を使わせていただいても?」
「えぇ、ただ今日の作業着には合わないと思うの。素敵な作業着が出来上がってから合わせて使うことをお勧めするわ」
「えっ?そうですか……。わかりました」
ミリーはとても残念そうな顔をしていた。
――ミリー様、まだ美的センスは磨かれていないみたいね。
それからアリシアとミリーの話題はドレスに移った。アリシアブランドの開店パーティーでとても好評だったドレスだが、その後、ミリーは自分ではどのようなドレスを選んでよいかわからず、相談にのってほしいということだった。
「でしたら、ミリー様、宜しければどんなドレスをお持ちか見せていただけません?」
「そうですね。では、是非衣裳部屋を一度ご覧になってください」
アリシアはミリーの今後のドレスのアドバイスのために、ミリーが持っている衣装のラインナップをチェックすることにしたのだ。
ミリーの衣裳部屋は伯爵家にふさわしくとても広いものだった。アリシアの衣裳部屋と引けを取らないほど色とりどりのドレス、そして宝石などが置かれていた。
アリシアは一つ一つ確かめるように確認をしていく。その時ふと視線がこげ茶色の重厚な宝石箱に引き寄せられた。
――あら?……これは!
アリシアは何度も瞬きをした。自分が見たものが信じられなかった。しかし、どこをどう見ても、ミリーの部屋にある、その宝石箱に刻まれているのはバーグ公爵家の家紋だった。
――どういうこと?ウィルキス様はミリー様に宝石を贈られたの?しかも家紋付きだなんて……
通常、家紋付きの箱に入れられた宝石は、妻や子供、そして婚約者などごく身近な親しい人にしか贈らない。
――ウィルキス様はやはりミリー様を婚約者にするつもりなんだわ
「あ、あの……アリシア様?」
「え?いえ……」
アリシアはミリーに話しかけられるとパッと箱から視線を反らした。しかしあまりのショックに何の言葉も出てこない。「君を見込んで」と言ってミリーの事を頼んだウィルキス、そしてアリシアに対して姉を慕うように無邪気に好意を示すミリー。二人がわかっていてやっているのであれば、たちが悪い。アリシアは最悪な想像しかできなかった。
「アリシア様、お顔色が優れないようですが」
ミリーが心配そうにアリシアの顔を覗き込む。
アリシアはいてもたってもいられなかった。ミリーに対してどういうことなのか問い詰めたい気持ちを必死で押さえつけた。
「ミリー様、少し……私……気分が」
「ミリー様、アリシアお嬢様は気分が優れないようですので、大変申し訳ありませんが、本日はここで失礼させていただいてもよろしいでしょうか?」
後ろからエナがアリシアを見かねたように、ミリーへ声をかける。
「え、えぇ。体調がすぐれない中、ご無理を言ってしまって申し訳ありません」
ミリーは心配そうな、申し訳なさそうな表情をしていた。その表情は、アリシアの目には決して演技しているようには見えなかった。