17話
翌日、カレンはアリシアへの報告のためキルス伯爵家を訪れた。
「カレンさん、どうかしら?うまくいきそうかしら?帽子と、それから作業着よね?」
「帽子は、ユンがいくつか試作品を作ってくれて、それをアリシア様の牧場で試してみることにしたよ。他の従業員にも頼んで試してもらうつもりだよ。」
「そう。多くの意見を取り入れることはとても良いことだと思うわ」
「ありがとう。ユンとも上手くやれそうだし、アリシア様本当にありがとう」
「あら、私がかわいい服が着たくてカレンさんに頼んでいるんですわ」
「ははは、そうだね。試作品の意見がまとまったら、今度はアリシア様の意見も聞きたいから、試着してほしい」
「わかったわ。とても楽しみにしているわ」
アリシア用の帽子の試作品ができたのは、それから2週間後だった。
アリシアは試作品を受け取るとすぐに、エナと共にコーエン領の牧場へと馬車で向かった。
「帽子の試作品、丁度良いから、ミリー様にも試していただくつもりよ」
「それでいくつも作らせていたのですね」
「そうよ。ミリー様にも意見をいただきたいし、完成品も使っていただけたら嬉しいわ」
「そうですね」
アリシアとエナを乗せた馬車は、首都オルカーを東に進み、順調にコーエン伯爵領のミリーの牧場へ着いた。
「ミリー様、ごきげんよう」
「アリシア様、ごきげんよう」
ミリーは事前にアリシアが牧場視察に訪れることを知っていたためか、青の作業着をすでに身に着けていた。相変わらず似合っている。
アリシアとエナも用意された部屋で青い作業着へと着替えを済ますと、ミリーが待つ応接間へと向かった。
「ミリー様、今日はミリー様にお持ちしたものがあるの」
「え?私にですか?」
「そうなのよ。エナ、帽子を出してもらえるかしら?」
アリシアがエナの方を向くと、エナは既に応接間に持ち運んだ箱から複数の帽子を取り出しているところだった。取り出された帽子は貴族が外出の際に使用するボンネットの帽子よりもつばが広い帽子だった。そしてその布は白を基調としており、ところどころ小さな花の刺繍が入っている。そして首元は可愛らしいピンクのリボンが付けられていた。
「作業用の帽子を作ってみたのよ」
「まぁ……素敵っ!とても素敵ですわ!アリシア様!」
「ありがとう。そういって頂けると嬉しいわ。是非今日はこれをかぶってほしいわ。そして気になるところがあれば、意見を聞かせていただけない?」
「ええ!是非!アリシア様、本当にうれしいですわ」
ミリーは嬉しそうに帽子を手に取ると、帽子を動かし様々な角度で眺めている。そしてようやく帽子をかぶったミリーはいつもより少し可愛らしく見えた……ただし、作業服を見なければ、だった。
「ミリー様、この青の作業着には合わないと思いますが、素敵な作業着はまた別にデザインをしてますの。楽しみにしてらしてね、ふふ。」
アリシアはミリーを見て、顔の部分は女性らしいものの作業着は実用的、というあまりにアンバランスな組み合わせに笑いが漏れてしまう。
「……アリシア様」
「どうしたの?エナ」
エナがそっとアリシアに小さな声をかけてくる。
「アリシア様も同じ格好です」
「……」
「……」
――ミリー様、笑ってごめんなさい。
アリシアとミリー、そしてエナの格好は牧場の中で少し浮いて見えた。従業員の中には笑いをこらえたためか、口元が少し歪んでしまっているものもいた。
――帽子だけ先行して持ってきたけど、失敗したわ。恥ずかしい……。
アリシアは従業員に会うたびに俯いてしまったが、ミリーは全く気にしていないようで終始ニコニコしていた。
――ミリー様、素晴らしい忍耐力だわ
もちろんエナは相変わらず涼しげな顔をしていた。