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16話

「エナ、カレンさんを紹介してくれてありがとう」

「いきなり採用なさるとは思いませんでした」

「正直、私もはじめは採用までは考えていなかったのよ。でも、カレンさんは素敵な作業服に関心があるようだし。それに作業服のデザインを実用的なものにするには、牧場で働いたことがある人が必要だわ。きちんと作業に支障がない服で、それでいて素敵でないと意味がないんですもの」

「そうですね」

「それに、エナとも仲良しでしょう?」

「え……」

「エナって無表情で、本当性格わかりづらいじゃない?でも、エナの良さを知って付き合っているように見えたわ」

「そうですか……」

「だから大丈夫よ」

「ありがたいお言葉です」

「ふふふ、エナって本当にかわいいわ」

 アリシアはエナの無表情の中に、瞳が戸惑うように少し揺れているのを見つけた。

――エナって本当にかわいいんだから




 次の日、アリシアとエナはカレンを伴ってベール商店へ向かい、新しい作業服、帽子について話し合いをすることにした。

 アリシアブランドを陰で支えてくれるお針子はユンという名の黒髪を後ろでお団子にした小柄な少女である。ユンは若いながらセンスが独特で将来を嘱望されているお針子だった。衣装に対する探究心も強く、アリシアが提案したことを面白そうだ、と良く受け入れてくれる。

「ユンさん、今日は新しくカレンさんを連れてきましたの」

「はじめまして、ユンと申します」

「あぁ、私はカレンと言い、申します。よろしくお願いします」

 大柄なカレンと小柄なユンが並ぶと、まるで親子のように見える。

「実は、今進めているドレスやウィッグとは別に、農場で使う作業着と帽子について、新しい型を作りたいのよ。今あるものよりも素敵な作業着よ、そして帽子もね」

「まぁ!楽しみです!具体的にどのような形をお考えですか?」

 ユンは新しいデザインの話だと知るや、目を輝かせ始めた。本当にデザインが好きなようだ。

「まず、作業着については――」

 アリシアはカレンと共にユンに対し、ボンネットのような、顔を帽子のつばで覆う麦わら帽子、そしてオーバーオールの作業着について、上下がつながっているつなぎと呼ばれるタイプの作業着について伝えた。

ユンはそれを聞きながら、紙に画やメモを書き留めていた。


「そうですね……ボンネットのような形の麦わら帽子ですか…」

 ユンが考え込むようなしぐさをする。

「どう?難しいかしら?」

「正直言うとそうですね。麦わら帽子はどうしても麦を編み込むことになるので、固いです。ボンネットのように顔を覆うように折り曲げることになると、つばの端が作業中に肩や顔にあたりやすくなり、帽子がずれやすくなります。」

「そう……それだと作業の邪魔になってしまうわね」

 アリシアとカレンはがっかりしてしまった。リボンを巻いた麦わら帽子はとてもかわいい。それをボンネット型にすることで日焼け防止にもなり、可愛さも兼ね備えることができる、と酒場で盛り上がっていたのだ。

「どうしたらよいかしら?」

 アリシアは残念な気持ちを隠し切れず、ついついユンにすがるような声を出してしまう。

「それと麦わら帽子ですが、欠点もあります。 麦わら帽子は清潔さを保つのが難しいです。水で頻繁に洗う訳にもいきませんし。汗が染みこんだまま放置しますと、臭いが発生することもあります」

「確かに…」

 ユンの言葉に、カレンは思い出したかのように頷いている。

「そうだね。頻繁に手入れをしない人には向いてないかもね。庶民に売るなら手入れが簡単な方が良い」

「アリシア様、庶民の方に売られることも考えていらっしゃるのですか?」

「そうね。正直貴族は農場には視察に行く程度で、作業着や帽子はほとんど必要ないわ。牧場で働いている人に役に立つ、可愛い帽子ができればいいと思ったんだけど」

「そうですか……つまり、可愛くて日焼けしにくい、そして手入れが楽な帽子、ということですね?」

「えぇ、そうよ。……欲張りすぎかしら?」

 アリシアはユンに対して無理難題を押し付けているのではないか、と思い始めた。ユンが先ほどから難しそうな顔をしているのがアリシアを不安にさせる。それにカレンはお手上げ、と言わんばかりに両手を上げていた。

「でしたら、ボンネットのつばの部分を広くして、洗える布で帽子を作りましょう」

「!」

「!」

 ユンの言葉にアリシアとカレンは同時に顔を見合わせてしまった。

「それは素晴らしいわ!」

「それはいい!」

「ありがとうございます」

 カレンのあまりの声の大きさに、ユンは目を丸く見開いてしまった。身体を後ろに少し引いているように見える。

「で、でしたら、詳細な形についてはカレンさんと詰めさせていただきますわ。作業に支障がないような形にしなければなりませんし」

 ユンは手を胸にあて、自分を落ち着かせるような仕草をすると、カレンと目を合わせ話し始めた。

「わかったよ。よろしく頼むね」

 カレンはいつの間にかいつもの口調に戻っていたが、ユンは気にするそぶりもなかった。性格の違う二人ではあるが、どうにかなるだろうと、アリシアはカレンを店に残し、屋敷に帰ることにした。


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