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15話

「エナ、最近は少しずつウィルキス様とのお話が楽しくなってきたわ」

「さようでございますか」

「えぇ、今までは私が貴族の噂話をしても全く興味がないみたいだったけど、牧場の話やお店の話をするととても興味を持っていただけるのよ」

「よかったですね」

「そういえば、牧場だけど……そろそろ日差しが強くなってきてるわよね」

「そうですね」

「日差しが本格的に強くなる前に、帽子のデザインを決めたいわ」

「帽子でございますか?」

「あと、作業着ね。今あるのは、ちょっと女性なら着たくないようなデザインでしょう?作業着は上下青で男女兼用だし、頭にタオルを巻くのも、素敵とはいいがたいわ」

「そうですね。はっきり言って素敵とは思えません」

――いつもはっきり言うエナ、好きだわ

「私もミリー様の牧場とキルス領の牧場を見ただけですけど、どちらも同じようなものだわ」

「そうですね。そういえば、昔ケルス国の農場で働いていた知り合いがおります。ケルス国はオルカンド以上に日差しが強いので、どのような工夫をされていたのか、聞いてみましょうか?」

「エナ!それは素晴らしいアイデアよ。是非お願い」

――帽子、帽子。顔を覆えないと日焼け防止にはならないけど、まさか目と口だけを出したマスクをかぶるわけにもいかないし。……それではまるで強盗だわ。

 アリシアは自分の想像に少し笑ってしまった。

「エナ、それと一緒にその方に作業着についても教えていただいて。どのようなデザインがあるのか知りたいわ」

「かしこまりました。ではさっそく明日手紙を送ってみます」

「ありがとう」




 一週間後、アリシアはエナと共に首都オルカ―の酒場に来ていた。牧場経験のあるエナの友人がオルカ―に来ることになっており、アリシアは同席したいと頼み込んだのだ。

 エナはアリシアを酒場に連れていくことに難色を示したが、護衛を連れていくことで納得した。オルカンド王国の首都オルカーはとても治安が良く、貴族街に近い酒場であれば、護衛を連れていればそうそう問題は起きない、ということも知っていたからだった。


 アリシアとエナが入った酒場はあまり広くはないものの、かなりの数の人で込み合っていた。中にいる人たちの身なりを見る限り市民の中でも比較的お金に余裕がある方なのか、小奇麗な格好の者が多かった。

「エナ、とても活気があるのね」

「はい」

「一度酒場に来てみたかったのよ、ここには市民が集まるのでしょう?」

「そうですね、仕事の後に来る者も多いと思います」

「酒場を経営したら情報収集ができるかしら」

「そうですね……酒場の店主が情報屋をやっていることもありますから。店主の人選が難しいとは思いますが」

「そう……考えておくわ」

「はい……来たようです」

 エナの言葉にアリシアは立ち上がった。見ると入り口の方からアリシアとエナが座るテーブルに近寄ってきたのは、赤が混じった茶色の髪を後ろで結んだ大柄な女性だった。

「久しぶりだね、エナ」

「お久しぶりです。カレンさん」

「そちらの方は?……まさか」

「はい、私がお世話になっているキルス伯爵家のアリシア様でございます」

 アリシアはまず自分から挨拶をした。

「はじめまして、カレンさんとおっしゃるのね。私はアリシア・キルス。今日はエナに無理を言って同席させてもらいましたわ。是非お話をお聞かせくださいね」

 アリシアが先に挨拶をしたことにカレンは目を丸くして、その後顔を赤くすると、手をばたばたと振りはじめた。

「いえ、そんな。こちらこそ、お役に立てるかはわかりませんが、よろしくお願いします」


 3人で席に着き、少し話し始めると、カレンはとても気さくで人の良い女性だということがすぐにわかった。アリシアは自分が勝手に邪魔をしたので、普段の口調で話してくれるよう、カレンに頼んだ。

「カレンなんて柄じゃないのに、名前負けしていて恥ずかしいよ」

「あら、カレンさんなんて素敵なお名前ですわ。ぴったりだと思います。素敵な洋服で牧場で働いていらしたなら、十分女性的ですわ」

 カレンはアリシアの言葉に顔を赤くし、豪快にエナの背中をたたいている。どうやら照れているようだった。

「ありがとう、うれしいよ。私はいくつか牧場で働いたことがあるけれど、洋服というか作業着はいろいろなんだ。つなぎと言って、上下がくっついている服もあるよ。あとはオーバーオールとかね。帽子については……うーん、私はタオルを頭に巻くのが嫌で、麦わら帽子をかぶっていたけどね。もう少しつばが広ければもっと日焼けしないで済むんだよね」

「なるほど!素晴らしいですわ!つばが広い麦わら帽子を作りましょう。貴族女性は外出時に顔を覆うような形状のボンネットを身に着けるわ。それを麦わら帽子に応用したら、日焼けを防げるのではないかしら」

「それはいいかもしれないね!おしゃれな帽子なら私も使いたいよ。庶民価格であれば、だけどね」

「麦わら帽子で今のアイデアが実現できるかはわからないですけど、麦わら帽子ですもの。価格が高くなることはないと思うわ」

 カレンは満面の笑みを浮かべていた。どうやら可愛らしい格好をすることが好きなようだ。

――カレンさんはご自分の容姿を気にしてらっしゃるみたいだけれど、中身はとても女性らしい考え方をお持ちだわ


「ところでカレンさん、首都オルカーにはどのような用事でいらっしゃったのかしら?差し支えなければ教えていただけないかしら?」

「え?あぁ……私はケルスの牧場で働いていたのだけれど、最近ケルスの牧場の経営方針が変わってね。要は首になってしまったんだ。それで次の働き先をオルカンドに探しに来たってわけだよ」

「そうですか……牧場でのお仕事をお探しで?」

「まぁ、牧場経験があるから、それももちろんだけど、ウェイトレスでもなんでもするつもりだよ。仕事を選んでいる場合じゃないからね」

「そうですか。カレンさんさえよろしければ私の手伝いをしていただけません?」

「牧場のってことかい?」

「えぇ、牧場のお仕事ともう一つあります。私は今新しく洋服のブランドを立ち上げたところなのよ。この首都に店を構えて、ドレスやウィッグを中心に販売しているわ。それ以外に、牧場の作業着と帽子も、私が気に入るものを作りたいのよ。もちろん、こちらは趣味みたいなものだと思っているのだけれど。素敵な作業着と帽子作り、カレンさんにも手伝っていただけないかしら」

「え!……それは私にとっては夢のような仕事だけれど、洋服を作った経験がないから、役に立つかどうか」

「ベールさんの店のお針子さんとカレンさんが力を合わせれば、きっと大丈夫よ。私も牧場に行くときに、素敵な作業着と帽子を身に着けたいわ。例えば、リボンのついた素敵な麦わら帽子だとか、女性らしい作業着とかね」

「そうだよね!毎日の作業着は少し女性らしさが欲しいんだよ。」

 カレンは興奮したように、自分がいかに可愛い作業着が着たいか熱く語る。

「きっと私の知り合いにも欲しがる人はいると思うよ」

「あら!でしたら、カレンさんが販売もしていただけません?カレンさんが販売した分についてはきちんと販売額に見合った手数料をお支払いさせていただきますわ」

「えーー!そこまでしてくれるのかい?……騙されてるわけじゃ……」

 カレンは少し顔をこわばらせるとエナをちらちらと見始めた。

「カレンさん、アリシア様は少し変わった方ですが、人を騙すことはいたしません」

「そうか……エナのご主人様、ということだし、わかったよ。是非よろしく頼むよ」

「こちらこそよろしくお願いいたしますわ」

 アリシアはカレンと握手をすると、今後のことについて詳細に説明をした。


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