14話
牧場改革は少しずつ、でも着実に進んでいた。もちろん傍から見れば、目に見える成果は毛の刈り取り時期まで出ない。
一方で、王都に店を構えたアリシアブランドの方は、まさに目に見える成果がすでに表れていた。開店当初から売り上げが順調だったのだ。
そのきっかけになったのは、ミリーだった。
アリシアブランドの開店パーティーで、アリシアはミリーを着飾った。ミリーの小麦色の肌に生えるドレスをということでターコイズブルーのドレスをあつらえた。これはミリーの青い瞳にも良く合っていた。更にドレスの型は、肩を少し出したボートネック、ウエストの少し上の部分に絞りを入れリボンを付け、ミリーの少しぽっちゃりした体型を目立たせなくさせていた。
ミリーのプロデュースは大成功だった。東の国のメイクを参考にエキゾチックなメイクを施し、ターコイズブルーのドレスを着たミリーは、初めてミリーを見た人であれば美人だと答えるくらいには綺麗に見えた。ミリーも自分の姿を鏡で見た瞬間、口をあんぐりと開けていた。いままでの「豚姫」とは全く違う姿がそこにはあった。
「あら、そちらの方は……もしかして……」
「カロリーナ様、今回はお越しいただきありがとう。こちらはミリー様よ、ふふふ」
アリシアがミリーを紹介すると、カロリーナやレティだけでなく、他の貴族の令嬢や招待客もびっくりしていた。
「新しいブランドでは、最先端のドレスやウィッグ、装飾品だけでなく、その方、一人ひとりに合った魅力的な商品を提案させていただきますわ」
アリシアがファッションアドバイスの提案をすると、まさにその日のうちに応募が殺到した。
「アリシア様、ファッションアドバイスの予約はまさに1か月待ちです」
ベールは心底嬉しそうな顔を浮かべている。にこにこしながら頭の中でそろばんをたたいているのだろう。
「ベールさん、ありがとう。あなたのおかげよ。長期的にお客様になっていただけるように、アドバイスや提案には全力を尽くすわ」
「さすがアリシア様です」
「どんどん良い商品を作るわ。これからもよろしくお願いね」
「はい。私共も精一杯やらせていただきます」
ベールは現金なもので、アリシアのブランドがうまくいきそうだ、と見るや否や積極的に商工会でアリシアを他の商人に紹介してくれるようになった。アリシアはできる限り相手側の利益配分が多い形でいろいろな商品を提案して回り、商人ネットワークを広げていった。
「アリシア様、最近お店がうまくいっているようだね」
「えぇ、ウィルキス様、お陰様でいろいろと忙しくさせていただいているわ」
「皇太后さまも是非アリシア様とお話ししたいとおっしゃっていたよ」
「それは光栄ですわ、私も是非」
「……アリシア様に商才があるとは、今まで全く気付いていなかったよ」
「あら、ウィルキス様に商才なんて言われると、恥ずかしいですわ」
「とても立派なものだと思うよ」
「ありがとうございます」
牧場経営、お店の経営を始めてから、アリシアはウィルキスと仲良くなり始めていた。
以前よりも、話が合うという理由が大きかった。その中で時にはウィルキスの真顔が崩れる時もあったし二人の意見や呼吸が合うときもあった。アリシアはその瞬間、とても特別な気持ちになれた。
「ところで、ウィルキス様、ミリー様のドレスはご覧になりました?」
「あぁ、新しい型のドレスだとか。ミリー様もとても喜んでいたよ。」
「ふふふ。あれは自信作ですわ」
「僕もあの色はとてもミリー様に似合っていると思うよ」
「そう言っていただけると、とても嬉しいですわ」
二人は時にミリーの話題で盛り上がることもあった。
――結局今だにウィルキス様とミリー様の関係はわからないけれど、最近ミリー様が妹のように思えてきたわ……よく考えたらウィルキス様をめぐるライバル(?)なのに、大丈夫なのかしら、私