13話
その日の夜、アリシアは自室で悶々としていた。
――良くわからなくなってきたわ。ウィルキス様はミリー様のことを私に頼むなんて、お二人の関係は、私が知らない何かがあるのかしら……どうやらウィルキス様は私との婚約解消は考えていないみたいだけど……それは嬉しいけれど、やっぱり納得できない部分が多すぎるわ
「アリシア様、そろそろお休みになられた方が」
「エナ、今日ね」
「はい」
「……ウィルキス様はやはり私と婚約解消は考えていないみたい」
「良かったですね」
「えぇ、もちろん嬉しいわ。でも……ウィルキス様とミリー様の間には、何か私が知らない関係があるのかしら」
「……」
「よくわからないわ」
「……」
「……」
「……」
「はぁ、これ以上考えても仕方がないわ。もう寝るわね」
「はい、お休みなさいませ」
エナが部屋を退室した後も、アリシアはすぐに眠ることはできなかった。理解できないことが多かったけれど、それでもウィルキスの自分に対する「君を見込んでのこと」という言葉に悪い気はしていなかった。
――少しずつでもいいからウィルキス様に私が婚約者としてふさわしいと思ってもらいたいわ。明日からも頑張らないと
それからもアリシアは日々忙しかった。キルス領と首都を何度も行き来する必要もあった。
牧場についてはすべてが初めて。ハイドと共に牧場に柵付けの手配をし、競売に羊の仕入れに行く。アリシアはついついメリー種の羊のかわいさに心を奪われてしまった。しかし、ハイドにゆるい口調で制されてしまう。
結局競売では羊は買わず、後日商人のつてを使い、わざわざモリー種という羊を取り寄せた。このモリー種はオルカンド王国ではあまり生産していない種類の羊で、アリシアも初めて見る羊だった。
モリー種の特徴はその毛の質。ハイドが今まで育てた羊の中では最高品質の毛を刈りとれる、という。夏前に毛の刈り取りを行い、刈り取った毛は高品質のウールとして洋服に使える、ということだった。
更にこのモリー種は繁殖能力も高い。唯一の欠点が食欲旺盛ということだった。ただし、良い餌を与えれば与えるほど、毛の質が良くなるため、まさにアリシアにはうってつけの羊だった。
「ハイドさん、良い羊を手に入れられたわね」
「そうですね~。アリシア様~、羊の世話は~おまかせください~」
「ありがとう。次の夏前に羊の毛を刈ったら、ベールさんに見せに行くわ。優先的に見せてくれ、と頼まれているの」
「はい~」
「その時の評価が高ければ、ハイド羊毛、ハイドウールとして売り出すわ」
「はい~」
「あなたにはとても期待しているわ」
実際にハイドはこの数か月の間に本採用になり、そしてアリシアが期待していた以上の働きをしていた。牧草地の選定から小屋の設計、そして羊の品種と餌の研究など、まさに天職と言わんばかりに寝る間も惜しんで楽しそうに働いていた。
――ハイドさんがこんなに優秀だなんて。……ミリー様も牧場経営に関しては素晴らしいし、人は見かけによらないわね