12話
「アリシア様、あの、ありがとうございます」
「ミリー様、カロリーナ様とレティ様は相変わらずね」
「お恥ずかしいです。……私もうまくふるまうことができなくて」
アリシアとミリーが控室のソファに座ると、ミリーは悲しそうな表情でアリシアに謝る。
「そうね……」
「あの、アリシア様、今日のドレス、本当に素敵です。最新のものなのでしょうか。アリシア様はいつも素敵なドレスをお召しで憧れてしまいます」
ミリーがほわっとした笑顔を浮かべ、アリシアに話しかけてくる。
「ありがとう、うれしいわ。ミリー様、はっきり言ってしまうけど、ミリー様のドレスは似合っていないわ」
「う……」
「ドレスは素敵なのだけど……」
「私は、あまり顔も良くないですし、せっかくのドレスが、私なんかに着られたらかわいそうですよね……女の子らしい衣装を、と用意してくれた父と母に申し訳ないです」
「ミリー様、そのドレスはミリー様に似合っていないだけで、私が言いたいのは、もっとミリー様に似合うドレスをお召しになれば素敵に見える、ってことが言いたかったのよ」
「え……」
「顔のことは置いておいて、自分を美しく見せることを諦めてはいけないわ」
「あの……」
「私だって、自分の赤い髪が好きだったけど、ウィルキス様に、その、まぁあまり好ましく思われていないみたいだったから、チョコレート色の髪に挑戦してみたのよ。カロリーナ様もレティ様も、性格は褒められたものではないけれども、自分を美しく見せるために努力をしているわ。だから、あなたが諦めたような態度をとると、イラッとすることもあると思うのよ」
「はい……」
「まぁ、いいわ。ミリー様には、自分もきれいになれる、可愛くなれる、と思える体験が必要ね。……ミリー様、私、新しく洋服のブランドを立ち上げることにしましたの。そこでミリー様のドレスを作って差し上げるわ」
「え?」
「ミリー様、牧場と同じように美しさも日々試行錯誤が必要よ。私が協力するから、少し頑張ってみたらどうかしら」
「……アリシア様……私、うれしいです。今までは諦めていたけれど、今よりきれいになれるなら私も頑張りたいです」
「えぇ、牧場の先生はミリー様で、ファッションの先生は私。私たちって良い関係になれると思うわ」
「アリシア様……ありがとうございます」
ミリーは悩みが晴れたような明るい笑顔を浮かべた。
それからは、アリシアは新しい洋服ブランドの開店パーティーの準備に追われた。
そんな中、ウィルキスがキルス伯爵家へと訪れた。
――ウィルキス様がいらっしゃるなんて、珍しいわね。何かあったのかしら
アリシアは頭をかしげながらウィルキスの待つ応接間へと向かった
「ウィルキス様ごきげんよう、お会いできてうれしいですわ」
アリシアは笑顔を浮かべ、ウィルキスに話しかける
「久しぶりだね、アリシア様。お邪魔するよ」
ウィルキスは相変わらず表情に乏しく何を考えているのか、アリシアにはわからなかった。
「ウィルキス様が尋ねてくださるのであれば、いつでも歓迎いたしますわ」
アリシアの言葉にウィルキスが苦い表情を浮かべる。自分があまり婚約者としてアリシアを構っていないことがわかっているようだった。
「それよりも、ウィルキス様、今日は何か御用があっていらっしゃったのではなくて?」
「あぁ。先日の舞踏会にはエスコートできなくて申し訳なかったと思ってね」
「ウィルキス様はお仕事だったのですもの、気にしておりませんわ」
「そう言ってもらえると助かるよ」
「それから……」
ウィルキスにしては珍しく言いづらそうな様子を見せた。
――何かあったのかしら?
「ウィルキス様、何かございました?」
「あぁ、これはアリシア様に聞くのが適切かわからないが、ミリー様を舞踏会でかばったそうだね」
――誰から聞いたのかしら
「えぇ……」
「できれば……これからもミリー様と仲良くしてほしい」
「……」
「僕がこんなことを言うのは、もしかしたら不誠実に思うかもしれないが、アリシア様、君を見込んでのことなんだ」
――確かに婚約者の私に他の女と仲良くしろ、というのはおかしいわ。
「ウィルキス様、ひとつお伺いしてもよろしいでしょうか」
「あぁ」
「その言葉は、ウィルキス様の婚約者である私に対してのお言葉だと、受け取ってよろしいのですよね?」
「あぁ」
「……わかりましたわ」
「ありがとう」