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10話

 翌日、アリシアは目いっぱいのおしゃれをした。今までで一番周りに評判が良かった装いを選んだ。自分がおしゃれだ、ということを商人の前でアピールするためだった。


「これはこれはアリシア様。今日はウィッグをもう一つ御所望だとか」

仕立て屋は人の好さそうな笑顔でアリシアを出迎えた。

「そうね、そうなのよ。こちらのウィッグはとても使いやすいわ」

「ありがとうございます。アリシア様のおかげで当店のウィッグはとても評判で」

「そう、良かったわ」

「はい、ここはおひとつ他のウィッグも一緒にいかがでしょうか」

「それはまた考えておくわ、ところでベールさん、今日は少しお話をさせていただきたいのだけれど」

「お話でございますか、はて。ではこちらへどうぞ」


 ベールは奥の部屋へアリシアを案内した。その部屋はいつもアリシアが通される部屋と少し趣が違い、重厚な雰囲気の部屋だった。

「ベールさん、お話というのも、そう、単刀直入に言うと私と一緒に商いをしないか、というお誘いなのよ」

「商い……でございますか」

 ベールは少し驚いたような顔を見せた。

「えぇ、私は商いについては素人だし駆け引きもできないから、単刀直入にお伝えした方がよろしいかと思ったの。私は商工会に入りたいの。これから貴族として生きていくためには情報はとても大事よね。商人が一番情報に敏感な職業だわ。私はそのネットワークがほしいの」

 ベールは無言で聞いている。

「ただ、私は商いの経験がないわ。もちろん店を作ろうと思えば、小さな店であれば私の資産で作れるかもしれない。でもそれではしょせん小娘のお遊びよ。商工会で有益なネットワークが得られるとは思えないわ」

「……」

「そこで、ベールさん、あなたと手を組みたいわ。私はこちらのお店の商品の広告塔になるわ。積極的に商品を取り入れて他の方々へアピールするわ。その代り私を商工会へ入れて、そして、少し口添えをしていただけないかしら。私がこの店の広告塔になることは、あなたにとって決して悪い話ではないと思うのだけれど」

 アリシアは焦って、緊張していた。普段笑顔を絶やさないベールが真剣な顔をし、考え込んでいる。アリシアは自分なりにメリットをベールへ提示したつもりだったが、しょせん小娘の浅知恵、百戦錬磨のベールがどのような反応をするか、まったくわからなかったのだ。

「そうですな……決して悪い話ではない」

「えぇ、ベールさんあなたと交渉をする気はないの。あなたは優秀な商人ですもの。小細工は通用しないってわかっているわ。だからこそ、私の本音を伝えたの。私には欲しいものがあるわ。もし、可能であればベールさんのお知恵を貸していただけないかしら」

 アリシアは何とか自分の誠意を伝えようと、真剣に言葉を選んだ。

「ところでアリシア様は、ご自分で小さなお店を持てる程度には資金提供が可能、ということでよろしいですかな?」

「えぇ、もちろんよ」

――断られるのかしら

 アリシアは自分の手を強く握りしめてしまった。

「それではこういう方法はいかがですかな。アリシア様のお名前で、私とコラボレーションする形で新しいファッションブランドを立ち上げる、というのは。実際の運営は任せていただいてもかまいませんが、あくまで当店とは別のブランドです。アリシア様ご自身がその新しいブランドの広告塔となって社交界で営業していただけましたら結果として当店にもメリットがございます。アリシア様は新しいお店のオーナーとして商工会に参加できますし、その際には私も口添えいたしましょう」

「それは素晴らしいアイデアね」

――確かに、私がこの店の広告塔になると、この店にキルス伯爵家の色がつくことになるわ。そうすると他の貴族への商売に差し支えることがあるかもしれない。王族ならまだしもキルス家はしょせん伯爵ですもの。コラボという形で違うブランドを立ち上げれば、店としては別だから今のお店に色を付けずに、ベールさんも儲けることができるわね。


「ベールさんの案で協力をお願いしたいわ。新しい私のブランドの資金提供は私の方でさせていただくわ」

「ありがとうございます」

「商工会への入会の方はベールさん、よろしくね」

「もちろんでございます」

 アリシアが微笑みかけるとベールも満面の笑みを浮かべた。

「よろしければ、アリシア様、アリシア様のお店は、アリシア様のセンスで商品アイデアを出していただけたら嬉しく思います。当店は幅広く生地、素材など扱っております。たいていのものであれば、実現可能でございます。採算に見合うかどうかはこちらで計算させていただきますので。アリシア様のセンスを存分に発揮ください」

 さっそくベールはアリシアブランドで稼ぐ気満々という態度を見せた。

――流石商人だわ。動きが早い、これが稼ぐための秘訣なのね。

 アリシアはそんなことを考えながら、最近興味があるウィッグや髪型について、そしてドレスについてなど、次々とベールに要望を伝えていった。

 ベールはさっそく試作品を作るとほくほくした笑顔を浮かべていた。



「エナ、今日のベールさんとの交渉、一応は成功と言えるわね」

「はい。仕立て屋も喜んでおりました」

「商工会でよりよいネットワークを築くためにも、ベールさんには儲かってもらって、私が広告塔として役に立つ、というところを更にアピールしていく必要があるわね」

「向上心があることは素晴らしいことだと思います」

「そうそう、エナも新しいブランドでかわいいメイド服を作るのはどう?ふりふりの、とかピンクの服、とかどうかしら?」

「私にピンクの服は似合わないかと」

「あら、わからないわよ。……そうね、意外と……侍従用と召使用のかわいい服は需要があるかもしれないわ。それに、牧場の素敵な作業服もラインナップに加えられるかどうか、今度ベールさんに相談してみるわね。青の地味な作業着ではなく、スタイリッシュなものが着たいわ」

「……」

「あらエナ、照れているのね」


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