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上東の秘宝は恋を知らない  作者: 三原煉
プロローグ
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【06話】彼らの心に感謝したい

 夕食を食べ終えると、朱熹が「じゃ、切ろうか」と満面の笑みで私の腕を掴むと、居間へと連れられた。

その後も朱熹のペースで髪を切られていく。朱熹の事だから、私が似合うヘアスタイルなど分かっているのだろう。

 服装に関しても、朱熹に任す事が多い。

私は自身がファッションにはとても疎い事を自覚している。

だから、男性でも女性でもファッションなら何でもお任せと言う朱熹に任せているのだが、重要な会議でもドレスを着た方がいいと言うのは断固拒否している。

重役全員がスーツだと言うのに、自分だけドレスでは目立ち過ぎる。

 伸ばし続けていた腰まであった髪は肩より少し上の高さに切り揃えられた。

髪を切られている間に和輝と遥で夕食の片付けをしていた。梁は厄介者扱いされ、居間に来て、私の向かいに座り、私の髪が切られていくのを見ていた。

「もったいないなぁ」

 梁が床に落ちた私の髪を拾う。

「さらさらだ~。ちゃんと手入れしていたんでしょ?」

「世の女性達がやるような手入れはしていないぞ」

 私がしていた髪の手入れはシャンプーとリンスだけである。使うシャンプーもほとんどがもらい物で、どんな効果があるなど、気にしていなかった。

「でも、こんなに長いのきっちゃうのはもったいないじゃん」

「時間がなくて、伸ばしただけだからな。未練などない」

 髪なんて、また伸びてくるものが。あぁ、伸びない人達もいたな。

「終わったよ。お風呂もできているから、入ってくれば?」

 朱熹の言葉に私は頷き、風呂場に向かった。

さっぱりした頭にはまだ切られた髪が少しは残っている。それを落とすのなら、髪を洗うのが一番早い。


 風呂に入り、早急に目を通さなくてはいけない書類を片付ける。

本当は自分の手伝いたかったが、和輝と遥にやんわり断られたのと朱熹に髪を切るのに連れていかれたので、出来なかった。

明日からの荷物はほとんど和輝の手で送られており、持っていく物は少ない。

その準備も入浴前に終わらせてある。後は目の前にある書類を片付ければいい。

「すげー量だな」

「梁もあれぐらい片付けられるようにならないと、いけないんだかね」

「俺には無理。体動かす方が好きだ」

 梁は確かにそうだなと思う。

昔から頭よりも体が動く性質で、よくトラブルを持ち込む。怪我もよくする。

その為、遥が付きっきりになりやすい。私や和輝、朱熹はそんな彼らの姿を見て、またやっていると思うのがいつもの事である。

ただ一緒にいる事が多すぎて、よからぬ噂が流れているらしい。

まぁ、そんな噂を流す奴らは小物なので、放置している。

 それにしても、書類が片付かない。

目を通さないといけない書類の量が多すぎる。その書類の量を見て、二年とは長いのだなと思い知らされる。

仕事に戻った時、ブランクなどないように出来るかが心配である。

「トラブルは全部そっちでなんとかできるか?」

「あぁ、元々零が表に出なかったおかげで社長は俺だと思っている人もいるからな。

 外部は俺で何とかできるが、身内に関しては零が必要になるかもしれない」

 私は社交界とか、そういうのがすごく嫌いなので、外に出ない。代わりに和輝や遥達が出席してくれるので、対外的には良好だ。

ただ、和輝たちから詳しい話を聞かないので、広範囲では良好でも、範囲を狭くしたら、そうじゃないかも知れない。

まぁ、今の所何のトラブルにも発展していないので、すぐに対策を考えた方がいいと言う問題でもない。

だが――。

「身内に関しては仕方ない。何か不正とかあったら、すぐに呼んでくれ。野放しにすると、後が大変だ」

 身内には私の事を好ましく思う者もいれば、蹴落としたいと思う者もいる。

特に後者は私に何かあるとすぐに顔を出してきて、面倒な事になる事が多い。

いい大人なのに、子供じみた事ばかりしていて、馬鹿だと思う事には口を出さないでいる。

「分かった」

 和輝はそう答えると、処理が終わった書類を片付けはじめる。

書類も三分の二まで目を通し終わった所で、私が全て終わる頃には机の上も綺麗になるだろう。タイミング的にちょうどいい。

「レイちゃん、学園生活を楽しもうって気はないの?」

「なぜ、『仕事』を楽しまなければならないんだ?」

 梁の疑問に私は質問で返す。

学園生活――学校に通うと言うのは学生にとっては『仕事』である。『仕事』は楽しんだ方がいいと言う者もいるが、私は『仕事』を楽しむ事は出来ない性質である。

「……俺、学園生活を仕事って言う奴、初めて見た」

「後にも先にもそう言うのは零だけだと思うぞ、梁」

 梁の言葉に珍しく和輝が相槌を打つ。

 私にとって、『社長』も『高校生』も職業であるんだ。それなら、『学園生活』を仕事と言ってもおかしくないだろう。

まぁ、そんな事を言った時には和輝あたりが盛大なため息をつくんだろう。

「これで終わりだ」

 最後の書類を処理し終え、処理が終わっている束に持っていた書類を乗せた。

「ご苦労様」

「さすが零ちゃん。これぐらいの書類、簡単に終わらせちゃうね」

「ボクもあれぐらい簡単に片付けたいなぁ……」

 梁と朱熹が同じ事を言っているのは年相応と言うべきだろうか――。

「そう言うなら、誰かに書類を押し付けるのはやめろ」

「俺は押し付けてねーよ」

「梁じゃない。朱熹に言っているんだ」

 なんだか、はぶられているようだ。

幼少時代から一緒にいる為、幼馴染に近い彼らだが、よく四人で話が盛り上がる。

四人と年が離れているのと自分が無口で本ばかり読んでいたのが原因かもしれないが、こうなると、自分の居場所があるかが分からなくなる。

「零、眠いのか?」

一人で黙り込んでしまった私に和輝が声をかける。

「いや、眠くは」

「もう日付変わるじゃん!

 夜更かしは肌の大敵だから、早く寝ないと」

 「眠くはない」と言おうとしたが、時計を見た朱熹が大声を出し、私に寝る様に催促する。

私は今までの生活のおかげで睡眠時間は二、三時間あれば、事足りる身体になってしまった為、眠気は来る気配はない。

しかし、ここで寝にいかないと色々と五月蝿いのがいるので、寝る事にする。

「分かった、寝るよ。

 寝る前にみんなに一言言いたい」

「何?」

「明日から私は前線から退く事になる。

 お前達にはかなりの迷惑をかけると思うが、会社と組を頼む」

 彼らは言わなくてもいいと思われている言葉であるが、言わないと私の気がすまなかった。

彼らは表でも裏でも私の補佐をしてもらっている為、私がいなくなった時の皺寄せが一番に来る。

私が死んだりした時もそうなるが、死んだ先の事など、私にはどうにも出来ない。しかし、今回は私はまだ生きている。

出来る限り、彼ら迷惑をかけたくないと言うのが私の考えである。

幼少時代から何かと迷惑をかけてきたので、この年齢になってからは出来ることは自分でやるようにしている。

だからこそ、今回の事に心を痛めている。

「そんな心配しなくてもだいじょーぶだって」

「梁の言う通りだよ、レイちゃん。

 レイちゃんはもっと他人に甘える事を覚えた方がいいよ」

「しかし……」

「零ちゃん、零ちゃんは『迷惑をかける』事は僕達にとっては『甘えてきている』と思っているんだよ。

 だから、そんなに心配しなくて大丈夫だよ」

「遥さんの言う通りだ。

 零は明日からの学園生活だけを考えればいい。

 何の為に私達がいると思っているんだ」

「ボク達はレイちゃんを支えるのが役目なんだよ」

「みんな、ありがとう……」

 彼らの優しい言葉がとても嬉しい。

「さ、早く寝て、明日に備えようね」

「あぁ」



 明日からの学園生活、普通ではないのは目に見えているから、普通になるように一応は努力するか。


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