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上東の秘宝は恋を知らない  作者: 三原煉
プロローグ
4/32

【04話】衝撃の事実を尽きられたが、あまり動じていない

※零視点に戻ります。

 遥から出た言葉に私は衝撃を受けた。

「あれ? 聞いていなかったの?」

 いつも無表情である私が表情を変えた事に遥は驚いているようではあるが、出てきた言葉はいつもの遥であった。

私がすぐにいつもの無表情へと変わったからだろう。

「何も。

 多分、あのくそ爺も知らないだろう。変な所で抜けているからな」

「……そういう所は似ているんだ」

 遥が小声で何か言ったようだが、独り言だと思い、聞き流すことにした。

「しかし、男子校とは……共学だと思っていたのが間違いだったか?」

「どうして、共学だと思ったの?」

「くそ爺から私の両親の通った学校と聞いた。

 両親は同い年だから、共学だと思っていた」

 あの両親には教師と生徒の禁断の愛はできないだろう。それほどまでに純粋であり、周囲を気にしていたから。

「そういえば、昔は共学だったって聞いたな。

 最近、風紀が乱れているとか理由つけて、男子校にしたんだよ。

 紫原学園の女子生徒は提携を結んでいる城山女学園(しろやまじょがくえん)が受け入れたよ。

 昔、城山女学園が共学から女子校になる際に紫原学園が男子生徒を受け入れてくれた礼だったかな」

「よく知っているな」

「歴史は好きだからね。

 どこに弱みが隠れているか、分からないからねぇ」

 そう言って、いつもの微笑みを浮かべる遥に私は聞こえない様に溜息をつく。

 遥は昔から表情を崩さずに毒々しい言葉を吐く性格であった。

 大企業の跡取りであると、何かしら武器が必要となる。武器と言っても、戦場等で使う武器ではない。

上流社会と言う魔物の巣窟で生きる為の武器である。

私であれば、独特の雰囲気や言い回し。遥であれば、鉄壁の笑顔と手にした情報。

 私はあまり他人と接さないが、遥は他人と接する機会が多かった。他の三人もそうであった。

他の三人は私の婚約者候補になってから、寄ってくる人は少なくなったが、遥だけは違い、それ以前の倍の人が彼に寄ってきた。

それは私の婚約者候補の中で一番年上で、大人の言う事をよく聞くからであった。

 その経験により、鉄壁と呼ばれる程の笑顔が出来た。そして、笑顔を振り撒きながら、手元には弱みと言う相手の心臓を持っていると言う現在の遥になった。

私の婚約者の中で一番、何を考えているか分からない人物である。

「そこまで調べているのなら、今の紫原学園の現状も知っているだろ」

「さすがに内情までは手をつけていないよ。色々と面倒だからね。

 僕が知っているのは世間一般と同じだよ。

 全寮制の私立高校で、様々な業界の御曹司が集う学校。

 俗に言う『お坊ちゃま学校』だね」

 私は眉を顰めた。『お坊ちゃま学校』――私はその言葉が大嫌いだ。

偏見かもしれないが、そんな学校に通う奴は我儘で、屁理屈、俺様で、周りの事を考えない馬鹿な奴だと思っている。

真面目な者もいるだろうが、私が会って来た者達はそういう者達が多かったから、そう思ってしまうのは、今更どうしようもない事実である。

「都心から片道三時間もかかるから、こっちに戻ってくるのも儘ならないからね。

 あ、零ちゃんが考えているようなお坊ちゃま学校とは違うと思うよ。

 一応、零ちゃんの両親が通っていたんだから、由緒正しい学校だよ。

 僕の予想では」

「昔はそうでも、今は違うかもだろう。

 それにもう全ての手続きが終わっているのだから、私はグダグダ言わない」

「零ちゃんって昔からそうだよね。

 男と同じ部屋で生活するとかに関して、無頓着だし」

「結婚すれば、夫と同じ部屋で過ごすのが当たり前だろ。

 それが早まったと考えればいい」

 物事を別の視点から見れば、ネガティブな考えもポジティブな考えになる。

この言葉は大学時代の友人の一人によく言われた言葉である。

 私が根暗なのが気になったポジティブ思考のそいつは何かと付き纏っては「ポジティブに生きよう!」と力説していた事を今でもすぐに思い出せる。

ちなみに当時の私は根暗ではない。コミュニケーションをとる事が煩わしかっただけである。

「……なんでそうなるんだろうな……」

 隣の運転席にいる遥がため息をつきながら、何か言ったようであるが、気にすることでもないことだろうと思い、無視した。


 遥が運転する車が自宅に着いた。

私の自宅でもあり、遥の自宅でもあるこの家には私と婚約者候補の四人、計五人で暮らしている。

 私が父方の実家にも、母方の実家にも戻りたくなく、帰らなくてもいいように土地を買い、家を建てた。家を建ててから、遥達に一緒に暮らそうと提案した。

ほとんど家にいないだろう私の代わりに、家を管理してもらう為にだ。あの時は色々と大変だった。

 和輝は真っ青の顔して何も喋らないし、朱熹は困惑した表情で「頭でも打ったの!?」など言いながら、私の肩を何度も揺らし、揺らし終わったと思ったら、部屋を歩き回っていた。

遥は驚いたが、すぐにいつもの笑顔に戻り、梁は……寝ていたな。

その後、私が「家の管理を頼みたいだけなんだが」と言うと、不可思議な行動をしていた和輝と朱熹がピタリと止まり、遥は「零ちゃんらしい理由だね」と微笑んで了承し、和輝と朱熹も「それなら」と了承して、現在に至っている。

「ん? 今日は全員いるようだな」

 車から降りた私は車庫の方を見た。普段は車が止まっていない役割を果たせていない車庫が今日は一台分収めるスペースがあるだけで、全て車が止まっていた。

赤のフェラーリは朱熹の愛用車、黄色のポルシェは梁の愛用車、黒のクラウンは社用車で和輝と遥が使っている。

他にも使う事がある車が何台かあるが、ほとんどが高級車の為、上東グループの地下にある専用の駐車場に置いてある。

「この所、みんな仕事が忙しかったからね。

 今夜はみんなオフにしたって聞いているよ」

「……用意周到だな」

「これぐらいのスケジュール管理できないと、上に立つ者とは言えないよ。

 そう言ったのは零ちゃんでしょ」

「そうだったな」


 私が玄関の扉に手をかけ、開ける。

数センチ開けた所で何者かが扉に向かってくるのが見えたので、対応準備として、私は少し身体を屈めた。

私の後ろにいる遥は何が起こるか予想がついているらしく、黙って見ている。

「レイちゃん、おかえ……ゴフッ」

 出てきた予想していた通り、朱熹だったので、見事に私の蹴りが彼の腹部にダイレクトに当たった。

朱熹には親しい者に抱きつく癖がある。私はそれが嫌で、毎回このような対応をしているが、そろそろ違う方法を考えた方が良いか。

「おかえり、零」

「おー、おかえりー、れー」

「ただいま、和輝、梁」

 台所で調理しているのが錫羽良和輝(すずはら かずき)。上東グループ取締役副社長兼錫羽良ホールディングス代表取締役で私の婚約者候補の一人である。

長くもなく、短くもない藍色に近い黒髪につり眼気味の黒い瞳、私より背が高く、すらっとしている体型で、顔は俗に言うイケメンである。

幼い頃から接してきた私には分からないが、朱熹曰く、和輝を見たら、どんな女性でも一目惚れするそうである。

そのせいで、昔はストーカー行為される事が日常茶飯事だったそうだ。

 リビングでソファに座って、テレビを見ているのは苑汰梁(そのだ りょう)。彼も私の婚約者候補で苑汰警備会社警備部主任をしている。

刈り上げられている色素の薄い茶髪に二重でパッチリとしている黒い瞳、身長は私と同じぐらいであるが、体格は筋力のある男性のものである。

着痩せする為、一見ではそんな風には見えない。その為、梁は和輝と違い、「格好いい」より「可愛い」と言われていた。これでも、学生時代はこの国最強の学生と呼ばれていた。

参加していた大会では優勝、喧嘩を売ってきた不良は逆に返り討ち。酷い時は病院送りもしていた。童顔である梁の容姿からして、そんな事をする者だとは思わないだろう。

幼い頃から身体を鍛えていたのもあるが、戦闘に対する才能があったのが一番の起因であろう。

しかし、その性格は天然の中の天然でトラブルメーカーであった。私にまで及ぶことはなかったが、主に遥が迷惑を被っていた。

 そして、私の足元にいるのが篠良木朱熹(ささらぎ しゅき)。篠良木芸能プロダクション副社長にして、知らない者がいないと言われる有名モデルである。

肩にかかるぐらいの赤が混じっている濃い目の茶髪に和輝に似たつり目の気味の黒い瞳。

彼も婚約者候補の一人であるが、スキンシップが他の奴らより多い。よく私の心配をしており、女装をする事が多く、婚約者候補と言うよりは姉みたいな存在に近いと思う。

私には姉がいないので、姉というモノが朱熹な様なものだと思っているのも一因だろう。

「もうすぐ食事が出来るから、待ってくれ」

「分かった」

 いまだに悶えている朱熹を放置して、私と遥は家にあがった。

朱熹に構うと、抱きついてきて、和輝に離されるまで離してくれないのが分かっているからである。

遥は家にあがると、すぐに梁の元に行く。

これから起こる事が分かっている私は梁とは反対の場所にいる和輝の元に行く。

「梁」

「ん?

 なに、はる……」

「君、また仕事で迷惑かけたんだって?」

「……迷惑かけてなんかいねーよ」

「迷惑かけてなかったら、君のお父さんから僕の所に連絡こないはずだけど」

「げ、今日は親父からかよ」

 始まった――こうなると、二人の世界になるから、放っておくことにしている。

 梁が社会人になってから、遥と梁が会う度に繰り広げられる遥の説教はこの家では日常茶飯事となっていた。

 遥は怒鳴り声で怒る事は決してしないが、口は笑顔でも目が笑っておらず、口調はいつも通りであるが、発する言葉には棘がついている。

それを一時間半もの間、受けることになる。遥の説教が一時間半で終わると言うのは、遥が意識して、一時間半で終わるようにしているからである。

本人曰く、「長時間説教しても、実にならないのなら、時間の無駄だから」らしい。

それを聞いた時、遥の言う通りだなと思った。

 遥の説教を一度味わった者は二度と遥を怒らせない様に行動するが、梁は寝たら忘れてしまうと言う才能を持っており、何度も遥の説教を受けている。

近くにいる私や和輝達は梁には頑張ってもらいたいとは思っているが、頑張ると空回りする事が多いので、諦めている。

今では遥の説教を聞き流す事に慣れてしまった。

「和輝、手伝うぞ」

「零は休んでいろ。仕事で疲れているだろ」

「料理ぐらいできる体力はある」

 今日はそこまで多忙でもなく、料理を作る事ぐらい出来る。

最も、今までに多忙だった時は七十二時間睡眠をとらず、十七時間食事をとる暇がなかった。今でもそんな事が出来るかと聞かれたら、無理だな。

私も年をとっているからな。

「……分かった。

 ホウレン草があるから、何か作ってくれないか?」

「簡単なもので大丈夫か?」

「何でもいい。

 遥さんの説教が終わるまでは食事にできないだろうから」

「確かにそうだな」

 あまり全員揃う事がないので、今日の食事は全員でとる方がいいだろう。

色々な情報も交換できるからな。


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