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【29話(番外編・4)】幸運と言うべきか不運と言うべきか


 四限目の体育がだるいのは人類共通の思考だといいなと考えながら、オレは校庭でボーッとしていた。

かんざきちゃんは一昨日から先生に指名され、交流祭のまとめ役をしている。

Eクラスの奴とも普通に話せるあたり、さすが、かんざきちゃんと思った。

ただ、かんざきちゃんがオレと触れ合う時間がなくなって、つまらない。

 昨日だって、Eの奴らの為にノートなんか作っていて、オレには全然構ってくれなかった。

貴弌は「神前の邪魔はするな」と言うだけ。邪魔しようとすれば、貴弌が止めにかかる。

この日ほど、貴弌が邪魔な奴だと思った事はない。

 今もかんざきちゃんと貴弌が話をしている。

多分、騎馬戦の事だろう。

 貴弌は生徒会副会長をしているぐらいなので、こういうまとめ役は慣れている。

かんざきちゃんはどうだか分からないけど、今の所、問題なく進んでいるから、こういう事に慣れているんだろう。

話が終わったのか、貴弌とかんざきちゃんは別れ、かんざきちゃんがオレの方に向かってくる。

オレに用なのかな?

「百衣、行くぞ」

 行くって、どこに?

とか聞ける状況ではないな。多分、騎馬戦の組み合わせでオレはかんざきちゃんと一緒……なのか?

「え、オレ、かんざきちゃんと同じ組なの?」

「あぁ」

 この状況でかんざきちゃんが嘘をつく理由もないし、本当の事だろう。

神様、ありがとう!

我慢していたオレへのご褒美だ!

「神矢もいるがな」

 内心かなり喜んでいたオレの気持ちが急降下した。

なぜ、神矢と一緒なんだ。

あいつ、苦手なんだよ。オレと同類の臭いがするから。

「……なんでテンション下がる事いうの……」

 つい本音がこぼれてしまったが、かんざきちゃんは何とも思っていないようでいつもの無表情だ。

なんかオレだけ百面相みたいにコロコロ表情変えるのって、馬鹿に見えないか?


 どうらやオレとかんざきちゃんはEクラスで残った神矢と海山と組むようだ。

海山は神矢とよくいるので、顔と名前は分かる。どういう奴かは全然分からないけどな。

「君達と組むことになる神前だ。

 こっちは百衣」

「ど~も」

 かんざきちゃんがオレの紹介もしてくれたので、オレは頭を軽く下げた。

「啓治は知っているよね?

 僕は海山靖彦って言うんだ。よろしくね」

 啓治と言うのは神矢の事だな。不良なのに名前が『けいじ』だなんて、ちょっと笑えるな。

しかし、海山の奴、神矢の事を名前で呼ぶと言う事はそれなりの仲と言う事か。


「で、誰が乗るんだ?」

 神矢は黙っていろよ。

さっきまで一言も喋らなかったくせに。

「それは私がやる」

 え?

「じゃあ、僕は先頭役やりたいな」

 は?

かんざきちゃんが言った言葉に驚いたけど、追い討ちをかけるように海山の言葉を聞いて、言葉を失った。

 かんざきちゃんが乗るのはなんとなく分かっていた。

かんざきちゃんは背が低いから、騎手役になる事はオレでも分かる。

かんざきちゃんが騎馬役だなんて、考えられない。怪我でもしたら、どうするんだ。

だけど、立候補するとは思わなかった。

かんざきちゃんは初めから騎手役になることが分かっていて、立候補したのか?

 まぁ、それは置いといて、問題は海山の方だ。

あいつが先頭役を買って出ると、自動的にオレと神矢が後ろ役となる。

隣に神矢がいることも嫌であるが、それ以上に……かんざきちゃんの尻がオレの腕に乗るとか、太ももが俺の腕に当たるとかが気になる。

あの白い足がすぐ傍にあるのも気になるけど、尻と太ももが一番きついと思う。

直接当たるからな。最悪の場合、たつかもしれない。

それだけは避けたい。

先頭であれば、肩に手を乗せられるだけだ。それなら、理性が保つ。

「そうか。なら、それでいくか」

 色々考えていたら、かんざきちゃんが海山の意見を採用の方向に向かっている。

これはやばい。

「えっ! それでもう決まりなの!?」

 急いで止めないと思い、勢いあまって、ちょっと声が大きくなってしまった。

かんざきちゃんは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに無表情になった。

あ、でも、少し不機嫌かもしれない。

「百衣君、騎手役と騎馬の先頭が決まれば、残りの人は騎馬の後ろになるぐらい分かるでしょ?」

 海山は口元は笑っているが、雰囲気が不機嫌だと言っている。このタイプは怒らせたら、やばい。

だからと言って、ここで引き下がるわけにもいかない

「それぐらい、分かっている!」

「……君、神前君のおしりとか触りたいとか思わないの?」

 海山が小声で言った言葉にオレは硬直した。

オレがかんざきちゃんの事をどう思っているのか、知っているのか?

 本音を言えば、触りたい。

全身くまなく触って、かんざきちゃんの事を覚えたい。

しかし、それを理性が「駄目だ!」と言う。

「いや、でも、う~ん……」

 触りたいが、触ったら、俺の中の何かが切れるような気がする。

「百衣君、諦めて、騎馬の後ろで頑張りな……いい思いできるんだから」

 オレの心を知っているからか、海山が周りには聞こえないほどの小声で言った言葉がオレの心にグサリと刺さってくる。

神矢が何も喋ってこない理由が分かった気がする。

「海山の言う通りだぞ、百衣」

 かんざきちゃんには海山の小声部分は聞こえなかったようだ。

聞こえていたら、確実に「いい思いってなんだ?」と問いかけてくるはずだ。

かんざきちゃんにまで言われたら、俺は肯定するしかなくなる。

「……わーったよ」

 オレは渋々了承した。


 Eクラス担当の体育教師が何か言っているが、オレの耳には入ってこない。

そんなものを入れる暇がないぐらい、オレはどうやって、理性を保つかを考えていた。

「とりあえず、練習する?

 神前君も本番前までに何回か乗っておきたいよね?」

 海山は何でオレに爆弾を投げつけるの?

オレはまだ心の準備ができてないというのに。

かんざきちゃんはオレがかんざきちゃんのことをどう想っているのか知らないから、あっさり海山の意見に同意するし……海山めっ!

「よし、それじゃ、ちゃっちゃかお馬さんを作るよー」

 お前が仕切るな。

オレはだらだらと海山の右側に行く。左側には神矢がいたので、自然にオレが右側となった。

まぁ、オレはどっちでもいいけどさ……。

とりあえず、この後来る衝撃に備えて、心を落ち着かせよう。

「乗ってもいいよ~」

 え、もうなの?

そう思ったら、かんざきちゃんがスタスタとこちらに来て、乗ろうとする。

まずは足を(あぶみ)に見立てたオレと海山が繋いでいる手に乗せた。

乗った足は余り重さを感じない。

予想はしていたけど、やっぱかんざきちゃんは軽いんだな。あれだけちゃんと食べているのに……。

プニッ

かんざきちゃんの体重について考えていたら、かんざきちゃんの尻がオレの左腕に乗った。

心を落ち着かせていたはずなのに乗った瞬間、思わずビクッと体が反応してしまった。

やばい。

プニッてなんだよ、プニッて。

乗った時にそんな効果音なかったぞ。

オレの左腕に乗っかっているかんざきちゃんの尻は服のせいであまり感触が分からないが、太ももは肌と肌が接するので、感触が凄く伝わる。

日に当たらないその太ももは白く、触った感触もスベスベでまるで女性の様、いや女性以上の足かもしれない。

「乗った?」

「あぁ」

「それじゃ、立ち上がってみようか」

 え? もう立つのか?

立たないと練習にならないのは分かるけど、立ったら、かんざきちゃんの体重が全部俺の腕に……。

「いくよ、せーの」

 海山のテンポになんとか合わせて、立ち上がる。

タイミングがずれていたら、かんざきちゃんが怪我していたな。

よく反応できたな、オレ。

オレは安堵の溜息をついて、下を向いていた顔を上げた。

 その時、顔を上げなければ良かったと思った。

かんざきちゃんの太ももがオレの視界を埋め尽くす。

見た目からしても形がよく、適度に肉がついている太ももにオレは凝視してしまう。

 なめ……いや、駄目だ。さすがにそれがやばい。

オレは煩悩を捨て去ろうと、首を横に振る。しかし、オレの煩悩は居座った。

オレの左腕にかんざきちゃんの尻が座っていた時よりも密着度が増えたからだ。

ついでにかんざきちゃんの太ももがオレの左腕に触れてくる。

 これはやばい。

騎馬戦ってこんなに密着する競技だったっけ? と思うくらいだ。

嬉しい反面、理性を保つ事とかんざきちゃんを落とさないように左腕に力をこめるが、動揺が隠せず、左腕が小刻みに震える。

やばい。絶対海山にはばれている。

かんざきちゃんも気付いて、オレの左腕が少し軽くなる。

オレが不甲斐ないばかりに……かんざきちゃんには悪いことをしてしまった……。

 ふと、横目で神矢を見ると、その顔が少し赤らめいていることに気付いた。

え、神矢もかんざきちゃんの事を狙っているの?

それとも、かんざきちゃんの太ももがそれほどいいものなの?

いや、かんざきちゃんの太ももはすごくいいものであるのはオレも触れたから分かる。

神矢もオレの様に腕が震えている。

そんな神矢を見てオレは冷静になりつつあった。他人が同じ行動をすると、冷静になりやすいと言うのは本当だな。

腕の震えもなくなってきたな。

スリッ……

 震えが止まりつつあったオレの左腕にかんざきちゃんの太ももが当たった。

その感触でオレの左腕は震えが大きくなった。

いや、あれはかんざきちゃんが悪い。

だって、触り方が猫が頬ずりしたような触り方だったんだ。

猫の頬ずりって、気持ちいいんだぞ。

それをあのかんざきちゃんの太ももでやられたオレが動揺しない訳がない。

「……一回下ろすね」

 海山がやれやれと言う雰囲気で溜息をつく。

これは海山に説教される感じか。まぁ、オレが悪いところもあるが、神矢も悪いところがあるからな。

 かんざきちゃんが下りた時、何もなかったような雰囲気だったので、胸を撫で下ろす。

「ちょっと、この二人に説教するから、別の事をやっていて」

 海山の言葉にオレは嫌な予感しかしないと思った。

まぁ、自業自得だから、仕方ないかもしれないな。


あぁ……早くかんざきちゃんを抱きしめるようになりたい……



百衣視点でした。

次話も番外編で説教回です。


零の出番はその次。


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