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【28話】不愉快な振動


 翌日の体育の授業は昼休み前の四限目であった。

昼休み前の授業である為か、Eクラスの生徒はだるそうであった。

Sクラスの生徒でも何人かやる気がなさそうであったが、時間が時間なので、仕方がないだろうと私は思う。

「分かっているだろうが、今日は交流祭の競技の練習だー。

 各自でやってくれ~。

 用がある時は前原に言ってくれ~」

「ちょっ、さぼりに行こうとしないで下さい!」

 体育教師二人のやりとりを見て、仲がいいなと思う。

一部の生徒から「またやってるよ……」と言う呟きが聞こえてくる。

あの二人にとっては日常茶飯事と言う事か。

「いいじゃねーか。

 神前がいれば、なんとかなるだろ」

 なんだその織原のような発言は。

私がいれば、全部私がやるとでも思っているのか?

「大内先生まで織原先生のような事、言わないでくださいよ!

 神前君だって、生徒なんですから」

 織原……もしかして、他の教職員にまで私の事が便利だ発言をしているのか?

それならば、後で釘を刺さないといけないな。

「仕方ねぇな……とりあえず、騎馬戦の組み合わせが決まるまではいる」

「ちゃんと授業の最後までいてください」

 大内の発言で私は少し表情が歪む。

騎馬戦の組み合わせについては私は何も考えていない。

自然とSクラスはSクラスで、EクラスはEクラスで固まることは分かっている。

ただ一組だけSクラスとEクラスの余った人の組ができる。

それに必ず私がいた方がいいな。他のSクラスの生徒だと、Eクラスの生徒と仲良くやれるか不安を持っている者が多いだろう。

「神前、何か考えているか?」

 前原との会話が終わった大内が私に話しかけてくる。

いちいち私に聞かれても困る。

「仲の良い者達を組んでもらえばいいと考えているので、私からは何もないです」

「だそうだ。

 騎馬戦出る奴は四人一組になれよ~。

 障害物しか出ない奴は前原に言って、準備してもらえー」

「力仕事は大内先生の担当じゃないですか!」

「いいだろ。別に。

 こっちの方が面白いし」

「大内先生!」

 この二人を見ていると、夫婦漫才を見ているような気になるな。


 十数分後、幾つかの組が出来て、座っている。

いまだに組になれていないのが私・黒屋・貴弌・百衣・南・仙崎のSクラス六人と神矢・海山のEクラス二人であった。

Eクラスの海山は前回の話し合いでもあまり表に出てこない人物であったが、昨日読んだ資料で神矢とは幼馴染と言う事が分かっている。

おそらく、神矢の未来の腹心であるのだろう。だからこそ、Eクラスで残ったのがこの二人だろう。

さて、まずはSクラスのみで一組作らないとだな。

 南と仙崎が仲がいいのはこの二週間で周知している。この二人を離すのはやめておいた方がいい。

そうなると、後二人をどうするかである。

私はEクラスと組むのは確定だから、貴弌、百衣、黒屋の三人の内一人だな。

「神前、どうする?」

 貴弌が腕を組みながら、私に問いかける。私と同じことを考えているであろう。

「……黒屋がこの中では背が低いから、黒屋に上に乗る役をやってもらおうと考えている」

「それは俺も考えたが……あいつがやると思うか?」

 そこが問題なんだ。

黒屋の身長は私と同じほどなので、クラスでは低い方である。貴弌は一八〇ほどで百衣、南と仙崎は一七五はあり、黒屋が確実に騎手側となる。

だが、黒屋はSクラス内でプライドが一番高い。確実に騎馬役をやると言い出しかねない。

だからと言って、騎馬役をやらせるには身長が少し足りないし、Eクラスと組むにしても、喧嘩する可能性が高い。

私以外に黒屋を落ち着かせることが出来るであろう人物は……。

「貴弌、黒屋を頼む」

「やっぱそうなるか。

 まぁ、俺と神前がどちらかの面倒を見ることは分かっていたからな」

「すまない」

「後でお礼してもらうから」

「あぁ、分かった」

 これで組み合わせは決まった。

貴弌が黒屋の所に行き、話をしている。多分、私との話で決まったことを言っているのであろう。

「百衣、行くぞ」

「え、オレ、かんざきちゃんと同じ組なの?」

「あぁ、神矢もいるがな」

「……なんでテンション下がる事いうの……」

 百衣は一瞬、満面の笑みを浮かべたが、すぐに不満顔に変わった。

そんなに神矢が嫌いなのか?


 私と百衣はEクラスで残っていた神矢と海山の元に行く。

「君達と組むことになる神前だ。

 こっちは百衣」

「ど~も」

「啓治は知っているよね?

 僕は海山靖彦って言うんだ。よろしくね」

 海山は神矢の事をしたの名前で呼ぶのか。幼馴染だから、当たり前か。

「で、誰が乗るんだ?」

 神矢はさっさと終わらせたいのか、早速、騎手を誰にするか聞いてきた。

「それは私がやる」

「じゃあ、僕は先頭役やりたいな」

 私が答えると、すぐに海山が騎馬の先頭役に立候補した。

神矢と百衣の身長は同じぐらいであり、海山は二人より少し低い。

騎馬の後ろ役は身長を合わせた方が私が乗りやすいしな。

「そうか。なら、それでいくか」

「えっ! それでもう決まりなの!?」

 何驚いた声を出しているんだ、百衣。

騎手と騎馬の先頭が決まれば、残りの二人はどこになるか、すぐに分かるだろ。

「百衣君、騎手役と騎馬の先頭が決まれば、残りの人は騎馬の後ろになるぐらい分かるでしょ?」

「それぐらい、分かっている! いや、でも、う~ん……」

 百衣は何やら悩んでいるようだ。何に対して悩んでいるかは私には理解できない。

「百衣君、諦めて、騎馬の後ろで頑張りな」

「海山の言う通りだぞ、百衣」

「……わーったよ」

 海山と私のごり押しで百衣は折れた。

神矢は海山がどういう人物だか分かっているからか、何も言ってこなかった。


「決まったようだから、各自練習しとけよ~」

 先程まで無言でこちらを見ていた大内が大声で言う。

聞こえたのは食堂の方向なので、昼食を食べにでも行ったのだろう。

生徒を差し置いて、昼食を食べに行くのはどうかと思う。

「とりあえず、練習する?

 神前君も本番前までに何回か乗っておきたいよね?」

「そうだな」

 いくら運動神経が良くても、すぐに何でも出来るというわけではないからな。

「よし、それじゃ、ちゃっちゃかお馬さんを作るよー」

 海山がそう言い、百衣と神矢はおずおずと騎馬の準備をする。

そういえば、私は騎馬に乗るのは初めてだな。

本物の馬に乗る事はあるが、騎馬戦の騎馬は初めてである。むしろ、騎馬戦自体が初めてであった。

知識はあるから、多分、大丈夫であろう。

そんな事を考えていたら、騎馬の準備が出来ていた。

「乗ってもいいよ~」

 海山から許可が出たので、私は跨り、右足を海山と百衣の手が繋がっている部分に、左足を海山と神矢の手が繋がっている部分に置く。

百衣の左腕に半分の体重を乗せた時、ピクッと反応を示したが、それ以降は何もなかった。

「乗った?」

「あぁ」

「それじゃ、立ち上がってみようか。

 いくよ、せーの」

 海山の合図で三人が立ち上がる。立ち上がった直後は静止しており、これなら、なんとかいけそうだと思っていた。

その数秒後、カタカタと誰かが痙攣を起こしているような振動が私の太腿に伝わってくる。

はっきり言って不愉快であるが、ここは我慢する。

まだ初めてであり、バランスが取れていないかもしれないからだ。

しかし、振動は止む事はなく、逆に伝染していくかのように大きくなる。

「……一回下ろすね」

 海山はやれやれと言う雰囲気で溜息をつきながら、膝を地面につける。

後ろの二人も海山に続いて、膝を地面につける。

私は確認してから、騎馬から降りた。

「ちょっとこの二人に説教するから、別の事をやっていて」

 海山はそう言いながら、私の背中を押す。

私は海山の意見に従い、三人から離れることにした。話の内容的に私がいない方がいいだろう。

海山はしっかりとしていて、振動を全然感じなかった。

つまり、振動を起こしていたのは後ろの二人、百衣と神矢であった。

なぜ、振動を起こす必要があったのかは分からなかったが、次回やったら、確実に殴ってしまうだろうな。


さて、どうせだから、障害物の練習にでも行こうかな。



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