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【25話】神矢の様子がおかしい


 数十分後、全員が黒板に名前を書き終わった様だったので、私は黒板を確認する。

黒板を見て、私と貴弌以外にも黒屋が名前を書いていないことが分かった。

黒屋は何でもいいのであろう。

 予想していた通り、騎馬戦の方は人数が足りず、障害物や借り物は人数オーバーしていた。

Sクラスの生徒は名前の書いていない全員以外、騎馬戦に名前があった。多分、この事を考慮してくれた結果であろう。

私は本当にクラスメイトに恵まれているな。

しかし、障害物と借り物はEクラスだけがやるのは不公平になる。割合的には三:二でEクラスが一人多い方がちょうどいい。

それでクレームが来る様なら、四:一にするしかない。五:〇だけは避けたい。

Sクラスの方が体力がない者が多いと思う。状態によっては騎馬戦より楽な借り物に配置した方がいい。

それが出来るのは人数の都合上、三人だけであるが。

よく見たら、神矢は借り物に名前が書いてある。そうすると、障害物に私か黒屋を入れた方が得点が稼げる。

 交流祭は得点方式で一位は十点、二位は五点、三位は三点、それ以下は一点がチームに加算されるようになっている。

何人かは一点でも大丈夫だが、一人ぐらいは一位となりうる者が必要である。

そうなると、二百メートル走の学年一位であった神矢と二位の黒屋は障害物か借り物に出た方がいいと考えている。

神矢に騎馬戦も出てもらうようにするか。その対価は借り物出場は確定の事と障害物と借り物の割合を四:一にする事。

私のクラスメイトは優しい者が多いので、不満などはないので、大丈夫であろう。

「書いてくれて、ありがとう。

 なるべく希望に沿うようにはするが、障害物と借り物は希望する人数が多いので、何人かは騎馬戦に行ってもらう。

 騎馬戦に移る者に関しての話し合いは神矢が中心となって話し合いをしてくれ」

「なんで俺なんだよ」

「希望している者がEクラスの者だけだからだ。

 後、神矢は騎馬戦の参加必須だ」

「なんでだよ!」

 さすがに騎馬戦の参加には怒るか。校庭で交わした約束では協力的であったが、本心はやる気がないと言う事か。

「人数が足りないのだから、仕方ないだろう。

 それにお前はEクラスのリーダーだからな。

 お前がいることで他のやつらも参加しやすいだろう。

 代わりに希望している借り物には出させる。

 後、障害物と借り物は各四人ずつにしてくれ。一人はこちらから人を出す」

「Sクラスからか?

 別に俺達だけでいいだろう」

 それで得点を稼げれば、私だって、何も言わないが、不安要素がある以上、確実に得点を稼げる人物にしたい。

しかし、それを理由とすると、神矢は自分が納得できるような相手でないと、頷かないであろう。

そうなると、人選は限定されるな。

「今回の目標は優勝することだ。

 そうなると、一人は確実に得点を稼げる人物が必要だ。

 借り物は神矢が出てくれるが、障害物にはいない。

 だから、障害物に得点に獲れる人物をこちらのクラスから出す。

 障害物だけSクラスが一人いるのはおかしいだろうから、借り物にも一人いれる」

「……理由は分かった。だけど、誰がそれをやるんだよ」

「私と黒屋だ」

 Sクラスで一番運動能力があるのは私と黒屋だけだから、自然にそうなる。

黒屋には何も言っていないが、私が言った時に何も言ってこないので、理解してくれているのだろう。

「……チッ、わーったよ。

 おい、てめーら、あいつがびっくりするぐらいに早く決めるぞ」

 「もちろんっす、アニキ!」という声がEクラス内で飛び交う。慕われているのが伝わるが、なぜ、私が出るんだ?

「かんざきちゃん、三種目も大丈夫?」

 百衣が心配そうな表情で私を見る。三種目くらい平気である。大変なときはそれ以上の事をやっていたからな。

あぁ、あいつらの話し合いが終わる前に黒屋とどちらに出るか、決めておくか

「大丈夫だ。

 黒屋、勝手に話を進めてしまってすまないんだが、障害物と借り物、どちらがいい?」

「借り物」

 黒屋は即答した。私が神矢と話している時からどちらの競技につくか、決めていたようだ。それほど、借り物に出たかったのか。

「……黒屋、お前……」

「……なんだ」

「借り物にかんざきちゃんが出たら、何かトラブルが起きるから、借り物にしたの?」

「それ以外、俺が借り物を選ぶ訳ないだろ」

「そうだよな……」

「そうだよね……」

 貴弌と黒屋と百衣の小声での話は私の耳には聞こえてきたが、あまり意味が理解できなかった。

借り物にはトラブルが起きるようなことでもあるのだろうか?


「決まったぞ」

 神矢がそう言ったのは話し合いをしにいって、数分経った所であった。

通常であれば、早くても十数分かかるところをこんな短時間で決めるあたり、リーダーの素質がありそうだな。

「じゃあ、騎馬戦になった者を教えてくれ」

「……くそっ、なんで驚かないんだよ……」

 神矢は独り言を呟きながら、私の元に来た。

 十分驚いているぞ?

表情には全然出ないがな。

 黒板に書かれていた名前は黒板を見ている時に全て用紙に書き写した。

書かれた文字によっては汚い字で読めなかったりもしたが、文字の形と大内から受け取っていた二百メートル走の記録に書かれている名前を照らし合わせた。

なので、間違いはないはずである。

「えっと、こいつとこいつと……」

 神矢は用紙にある名前を指す。私はその名前を記録する。

この場で書き直すことも可能だが、それだと、神矢が私が書き終わるまで待つことになる。

私は神矢から嫌われているようなので、あまり接さない方が彼の為でもあると思い、彼の指を目で追った。

「……とこいつは騎馬戦に移動だ。

 後、こいつとこいつとこいつ以外は騎馬戦にも出る」

「分かった。ありがとう、神矢」

 神矢が指差していた名前をちゃんと記憶した私は顔を上げて、神矢に礼を言う。

礼を言って、一拍置いてから、神矢の顔がどんどん赤らんでくる。

もしかして、熱があったのか?

先程までは緊張していて、熱など忘れており、自分の役目を終え、ホッとしたら、熱が出てきた、という可能性はある。

「大丈夫か?」

 私は熱を測る為、右手に持っていたペンをプリントを持っている左手に持ち替え、開いた右手で神矢の額を触ろうとしたが、その前に神矢の左手で腕を掴まれた。

「だ、大丈夫だ!

 それより、早く帰れよ。

 もう話し合いは終わりだろ!!」

 確かに出場する人数は数にあっているし、後、名前を書き直して、提出すれば、終わりである。

名前を書き直すぐらいなら、自分の教室でも出来るな。

 タイミングよく六限目の終鈴が鳴り渡る。

「分かった。

 では、私達は自分の教室に戻るよ。

 騎馬戦の組み合わせは今度の体育の時に決めよう。

 神矢、無理はするなよ」

 私はそう言って、Eクラスの教室を出て行った。私に続くようにSクラスの生徒も移動する。

 先程の最後の言葉は神矢の性質からして、熱があっても、無理してでも行動しそうだから、それを牽制する為である。

 私もそういう所があるのだが、その度に和輝達に怒られていた為、無理をしそうであったら、頭に警告音が鳴る様に自分を躾けた。

大変ではあったが、そのおかげで無理をしなくなり、心に余裕が持つことが出来るようになったと思う。


 本当は次回から騎馬戦の練習が出来るようにしたかったが、時間がなかったのだから、仕方がない。

 今回はEクラスと結束できるようになったのはいい事である。

 後は、練習あるのみだ。

 交流祭では優勝する。

 それが今の私の最優先の仕事だろう。




次回は番外編になります。

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