【21話】あれから少しの時が経った
紫原学園に転入して、二週間がたった。
その間の学園生活は平穏なものであった。
懸念材料と言えば、休みの時に和輝が仕事の書類を持ってこなかったことだろうか。
まずこちらにも来ていないのだから、仕事が忙しいと思った方がいいのかもしれない。
だが、気になるものは気になる。
連絡しようかとも考えたが、仕事を寄越せと言っているように見えるので、やめておいた。
クラスの方は馴染んでいる。
昼食は私と黒屋と貴弌と百衣で私手製の弁当を一緒に食べているのを見たクラスメイトの一部は倒れそうなほどの青い顔をした者もいたが、二週間経った今ではそれが日常であるように過ごしている。
貴弌は生徒会の仕事で最近、忙しいようだ。何かイベントがあるらしいが、誰も教えてくれない。
まぁ、私が聞かないのもあるだろうが。
貴弌がいない分、百衣が一緒にいることが多い。付き纏われていると言ってもいいぐらいである。
それを抑える役が黒屋になりつつある。最近、黒屋は私といることが多い。寮が同室と言うのもあるが、昼食も一緒にとる為だろうか。
そのおかげで私は百衣といても、キレる事がなく、百衣を病院送りにするような事態になっていない。
私は昔からキレると、頭より体が動き、相手を排除しようとしてしまう事がある。
それにより、何人かは生死の境を彷徨った事もある。
今はその様なことがないようにしているが、予防線をひいてもらえれば、その方が私にとって、楽である。
今まではその予防線が和輝達であったが、今は黒屋がその位置である。貴弌もその位置に当たるだろう。
二人とは強固な関係を結んでおいた方がこれからの学園生活にはいいだろう。
そんな事を思いながら、朝のホームルームが始まるのを待っていた。
朝のホームルームに来た織原の顔色が良くない。
なにかしらあったのだろうか?
「あー……みんなも知っているが、来週は交流祭がある」
交流祭? そんなものがあるのか。
しかも、来週だと、すぐではないか。
「初めて参加の神前がいるから、一応説明するぞ。
交流祭は十月に行われる体育祭の規模を縮小する為と勉学による体力の衰え防止に行われる。
まぁ、プチ体育祭みたいなもんだな。
交流祭は二クラスが一チームとして、全九チームで争うことになる。
チーム分けは例年通り、クラスの担任によるくじだが……」
そこまで言うと、織原は盛大な溜息をついた。多分、ひいたくじに原因があると思う。
「……くじの結果は後で言う。
このくじで決まったクラスとはプールの合同授業や体育祭のチーム、文化祭の出し物も一緒にやる事になるんだ」
ほう、そこまで一緒だと、同じクラスメイトと考えた方がいいか。
「で、結果だが……Eだ」
クラスが騒がしくなった。
和輝から聞いたクラス編成だと、私の所属しているSクラスが学年成績一位から十位の生徒。その下にA、B、C、D、Eと成績順になっている。
そうなると、Eは学年内で一番成績の悪い者達がいるということだ。
成績が悪いイコール不良と言う考えが一般的ではあるが、この学園でもそうなのだろうか。
「お前達には申し訳ないと思うが、公平な結果のはずなんだ。
今からやり直すことも出来ない。俺もできる限り、衝突が起きないよう、Eの担任には言うから、我慢してくれ」
『はず』とはなんだ。『はず』とは。まるで誰かが操作している様に聞こえるぞ。
「オリちゃん、ちなみに聞くけど、Aってどことなの?」
騒いでいた生徒達が百衣の言葉を聞いて、一斉に織原の顔を見る。
織原は苦い表情をする。
「……Bとだ」
「……ぜってーあの馬鹿が手回ししたな」
織原の返答を聞いて、百衣が悪態をつく。
『あの馬鹿』とはAクラスにおちた紫原の事であろうか?
まぁ、彼なら、やりかねない事ではあるな。
しかし、Eクラスと一緒になることがこのクラスにとって、デメリットがあるのだろうか?
あるとしても、成績がいいからと言うことで毛嫌いするだけではないか?
「百衣、それは他のクラスや教師の前では言うなよ……俺に苦情が来るからな。
まぁ、今回は神前がいるから何とかなるだろ」
おい、織原。それは私に全責任を押し付ける発言ではないか?
まぁ、私であれば、どんな相手でも対応できるが。
周囲のクラスメイトの視線が痛い。
「先生、神前に全て押し付けるのはどうかと思います」
さすがは貴弌。
こういう時に率先して、意見を言ってくれるので、頼もしい。
「……お前らは知らないからそう言えるんだよなぁ……」
小声で独り言を呟いた織原であったが、私の耳には届いているぞ。
私と仲良くしている貴弌でも私の本性を聞けば、今回の織原の采配に納得するかもしれないが、それは言えないのが現状だ。
「なら、水乃も手伝ってやってくれ」
「俺が生徒会で忙しいのを知っていて、そう言っているんですか」
「知ってて、言ってるんだよ。
交流会の主体は生徒会だからな。
まぁ、他の奴も神前を手伝えよ~」
そう言って、織原は逃げるかのように教室を後にした。
質問攻めや生徒の苦情を聞きたくないのであろう。
一部のクラスメイトが私に「ご愁傷様」や「頑張れ」と声をかける。それだけ私の事を心配してくれているらしい。
ありがたい事である。
だが、それだけクラスの期待を背負っているのだとも実感するな。
私のできることであれば、いいのであるが……。
第2章の開始です。
次話で新キャラ登場予定。




