【18話】人助けをしたようだ
その後、私は貴弌と百衣にテスト結果が貼り出されている廊下から教室に連れてこられた。
二人に片腕ずつ掴まれていた私は他の生徒から見れば、強制連行されているように見えただろう。
まぁ、そうなのだが。
自分の席には自分で座ることが出来たが、貴弌と百衣は立ったまま、私の方を見ている。
何か私の顔にでもついているのだろうか?
来る前に鏡で身だしなみのチェックした時は何もついていなかったが……。
「神前、あれは偶然じゃないよな?」
口を開いた貴弌から出た言葉は先程まで見てた昨日のテストの結果についてだった。
なんだ私の容姿に関してではなかったか。
「偶然で満点取れる訳ないだろう」
運がいい奴はそうかもしれないが、私は生憎、運がいい方ではない。
どちらかと言えば、運が悪い方だ。
今までもよく運悪く(・・・)死にかけそうになったものだ。
「つまり、あれがかんざきちゃんの実力?」
「まぁ、そうなるな」
「嘘だろ……」
どうやら私が満点を取るとは思っていなかったようだ。
普通は満点など取れないからな。しかも、私は転校初日に受けたのだ。
驚いて当然か。
「かんざきちゃん、別に学校来なくても大丈夫なんじゃ……」
百衣の言う通りであるが、私にも私の事情があるのでな。
「神前にも色々事情があるんだろう。
しかし、こうなるとは……」
貴弌はブツブツと呟いている。多分、独り言であろう。こういう時はそっとしておくのが一番だと、和輝で学んだ。
「あの、神前君……」
誰かに声をかけられた私は声が聞こえた方を向く。
そこには可愛らしい双子と思われる二人の男子生徒がいた。
双子と思われるのはこれが彼らと私の初遭遇で私は彼らの事を知らないからである。
「あ、僕は宮内士郎でこっちは弟の治郎だよ」
やはり双子だったようだ。
色素の薄い茶色の髪に女性のようなぱっちりした黒い瞳など共通点が多く、外見では区別は出来ないが、出している雰囲気が違うので、そこで判別できそうだ。
士郎と名乗った男性は少しほんわかした雰囲気で治郎と紹介された男性はさばさばした雰囲気である。
「私に何か用か?」
あ、素のまま返してしまった。今から猫被るのもおかしいから、素のままでいくしかないな。
「ありがとう!」
返ってきた言葉は感謝の言葉であった。いきなり感謝の言葉を言われた私はどう返せばいいか分からない。
第一、私は彼らに感謝されるような事をした覚えがない。
「士郎、それじゃ、伝わらないよ」
治郎は溜息をしながら、士郎に言う。士郎は頭で考えるより体が先に動くタイプと似ているな。
「僕達、紫原に色々とこき使われていたんだ。
このクラスだと成績は最下位が僕達だったから。
紫原はそれより下だったけど、学園長の孫だからって、いばってたんだ」
士郎は自分の言いたい事をまとめようとしている時に治郎が口を開いた。
確かに昨日会った彼はそんな感じであった。
ああいう奴ほど世界は自分が中心となって動いているのだと思っているのだろう。
「僕達も逆らえばよかったけど、色々事情があってね。
でも、今回、君が一位になったから、あいつはA落ちが確定したんだ。
おかげで僕達はあいつから解放された。
ありがとう」
ふむ……私のテスト結果で助かった人がいるのか。
しかし、こういう時にどう返せばいいか、困るな。
私個人としては彼らを助ける為にこのテスト結果を出したわけではないから。
「おい、双子。かんざきちゃんと喋るなって、オレ、言ったよね?」
「ももちゃん、僕らは神前君にお礼を言っているんだよ。
そんな僕らを殴るような程、ももちゃんは非道じゃないでしょ?」
「うっ……」
「てか、百衣君が昨日ああ言ったから、神前君に近付かなかったけどさ。
みんな、神前君と仲良くなりたいんだ。
このままだと、神前君、クラスで孤立するぞ」
治郎の言う通りである。
クラスの中で話しているのは貴弌と百衣だけ。黒屋とも話しているが、今の所、寮の部屋に限る。
このまま、クラスに馴染めないでいるのは得策ではないと私も考えている。
クラス編成は成績順となっているので、高校三年の卒業までこのままでいるのは辛いものである。
「宮内弟の言う通りだ、百衣」
先程まで独り言を呟いていた貴弌が通常に戻ったのか、話の輪に入ってきた。
治郎の事を宮内弟と呼んでいるのはどうかと思うが……。
「お前が神前の事をどう思っているかは分かるが、神前にとってお前はただのクラスメイトの一人に過ぎない。
そんなお前が神前の行動を縛るのはどうかと思うぞ」
「……貴弌までオレを悪者扱いかよっ……」
「別にお前を悪者扱いしていない」
先程までの空気から一変し、張り詰めた雰囲気となってしまった。
これの原因も私であろうか?
しかし、どうすればいいかが分からない。私に襲い掛かるなどしてくれれば、遠慮なく殴るんだが。
「神前君は大切にされているな」
貴弌と百衣が睨み合っている中、治郎が小声で私に話しかけてきた。
大切にされている、のか?
「百衣君、普段はサバサバしているんだ。
人との付き合いも表面上なだけ。
ここまで感情露わにしているの、初めて見る。
それだけ君の事が心配なんだろうね」
百衣は私の事を心配していたのか?
その様な素振りは一切なかったぞ。
私の事でよく心配している和輝や朱熹が分かりやすかっただけなのか?
しかし、百衣が私を心配して、この様な事態になったのなら、この場は私が収めないといけないな。
「百衣」
「かんざきちゃん、今忙しいんだ。後にして」
百衣は私が声をかけても、貴弌を睨んでいる。
この状態のまま、私が話をしても聞いてもらえないだろう。なら、聞いてもらえるようにしよう。
そう思いたった私の行動は早かった。
私は百衣の胸元周辺のシャツを左手で掴み、空いている右手で百衣の顔面を殴った。
力加減はかなり弱めたので、頬が腫れる事はないと思う。
よく力加減の調整をしているが、それでも、痣が出来たりするので、今回は細心の注意を払ったので。
これでも、腫れてしまうのなら、自分はあまり殴るや蹴るなどはしない方がいいだろう。
いきなり殴られた百衣は驚いた表情で私の方を見る。
百衣の左頬は少し赤みかかっているが、腫れているわけではないようだ。よかった。
「私は大丈夫だ。
百衣に守られるほど弱くない。
だが……
私を心配してくれた事には感謝している。
ありがとう」
よし、これで大丈夫だろう。そう思い、私は百衣の胸元から左手を外した。
百衣の過保護を拒否しながらも、感謝の言葉は伝えた。これで百衣の私の印象はあまり変わらないはずだ。
ん? 百衣の様子が変だ。
なぜ赤くなる?
「どうしたんだ?」
「え、あ、いや、何でもないっ!」
百衣は慌てた様子で教室から出ていった。
もうすぐ朝のホームルームが始まるのだが、いいのだろうか。
「……無表情からのあの笑顔は破壊力が凄まじいな……」
「あの笑顔を近距離で見たももちゃんが羨ましいな~」
「……これから色々トラブルが起きる予感しかしない……」
近くにいる三人が何か言ったようだが、何について言っているのか、私には理解できなかった。
ここからが零の本領発揮……!
などと考えております。
次話は番外編です。




