【14話】関わりたくない奴ほど関わる事が必然的
『お前は日本語使うな』
「なんでだよ」
『嫌だからに決まっているだろう。
私が英語だったら英語、フランス語だったらフランス語、日本語だったら日本語で答えろ』
『仕方ないな。我儘お姫様につきあいますよ』
『お前の方が我儘だろう』
毬を手に入れる為に何度私の所に来て、毬の情報を寄越せと言ったのは誰だ。
情報をくれないと、仕事を請け負わないとまで言った時はさすがに彼の同僚も来て、謝りに来たな。しかも、土下座で。あの時は彼の同僚に同情したな。
私の会社はケルヴィン以外の会社とも取引があったから、穴埋めは簡単であったが、ケルヴィンの会社として、私の会社とのパイプをなくすのはかなりの痛手だったようだ。
「ただいまー」
ケルヴィンとの他愛もない会話をしていたら、一人の女性が部屋に入ってきた。
茶髪で軽くウェーブがついたロングヘア。目はぱっちりと大きく、ちょっとたれ目。
髪の色は違うが、私のよく知っている毬その人であった。
「おかえり、愛しのマリー」
「ただいま、馬鹿ケルヴィン」
この二人の挨拶はいつもの事なので、無視だ。
毬がケルヴィンに蹴り技を繰り広げているが、これも日常茶飯事だ。
「あ、零じゃない!
やっと来たのね!!
もうこの馬鹿ケルヴィンしか話相手がいなくて、死にそうだったの!」
……それはさすがに言いすぎだと思うぞ、毬。そんな言葉を聞いて、いまだニコニコとしていられるケルヴィンもおかしい。
お前、マゾだったのか?
「……久しぶりです、毬さん」
「あぁ、普通に喋っていいわよ。
寮の説明は馬鹿ケルヴィンから聞いた?」
「はい、一応」
フランス語でだが。まぁ、どの言葉で言われても、大丈夫だが。
「よしよし、仕事はしてくれた様ね。
それじゃ、部屋に案内するね。さ、行くよ」
そう言って、毬は私の背中を押して、部屋から出す。
「馬鹿ケルヴィン、ご飯作っておいて」
「愛しのマリー、それが君の願いなら」
この挨拶もいつもの事だ。ケルヴィンが毬にぞっこんなのがすごい分かる会話である。
毬はうざいと思っているらしい。毬自身がケルヴィンの本性をちゃんと知らないからな。
まぁ、知っても毬の態度は変わらないだろうな。毬は一度決めたら、他に目移りする事はないから。
私は毬に案内されて、エレベーターに乗り、七階のフロアに来た。
「……なぜ七階の角部屋……」
「空いている部屋がここだけだからよ。
他の部屋より広いし、眺めもいいわよ~」
いや、眺めとかいらないから。ここまで来るまでの時間がもったいないんだ。
それに最上階の角部屋は何かと噂があるではないか。小説などでもよく使われるように。
「あ、同室者いるから、ちゃんと仲良くやってね。
まぁ、零なら、誰とでも仲良く出来るか」
いや、毬、私はそんな親切仕様ではない。人見知りで初対面相手にはすごく不愉快な顔するぞ。
普段は仮面かぶって挨拶するから、そう思われないだけだ。
ドアをノックするかと思ったら、インターホンがついていた。普通にマンションじゃないか……。
チャイム音がして、しばらくすると、ドアが開いた。
「……」
私はドアから出てきた人間を見て、どうしようかと考える。
水之、すまん。私にはどうしようもできない事だ。
「零、彼は黒屋忍君。確か同じクラスだから、知っているかな。
くーちゃん、この子は神前零君。今日からくーちゃんの同室になるから、宜しくね!」
そう、そのまさかだった。寮の同室者があの黒屋であった。
私は別にこういう人種にも慣れているからいいが、今の私の周りがな……。
毬、黒屋の事を「くーちゃん」と呼ぶのか。大物だな、毬。
「……くーちゃんと呼ぶな、くそババア」
「いいじゃない、それぐらい!
それとも、しーちゃんの方がいい?」
「……チッ」
黒屋は舌打ちをし、部屋の中へと去った。
「ごめんねー。くーちゃん、無口で」
毬、さっきの態度は無口で片付けられるものではないぞ、普通。一応喋ったから無口と言うのもおかしい気がするが。
「黒屋とは知り合い?」
「あれ、零は知らないっけ?
くーちゃん、道場に通っていた子だよ。
裏の関係で」
裏の関係――父方の祖父の道場は誰も拒まないのだが、裏の世界で有名なせいか、組に所属している人の子が多かった。
多いと言っても四割程で、残りの四割は警察関連、二割はその他であった。
ちなみに毬は警察関連で毬の父親が警官だったからだ。
元々うちの組は警察が作り出した仮染めの暴力団で組員の何割かは警察官である。
うちの組が警察関連であるのは関係者と上層部のみしか知らず、情報を漏らそうとした者は粛清されるらしい。
一応、組に所属する警察官はとある部署に所属するらしい。
花形部署ではあるが、厳しいと有名で警察官の間では新人時代を過ごしたくない部署No1らしい。
まぁ、聞いた話だから、本当にそうなのかは分からないが。
その為か、父方の親戚は組に所属している人よりも警察関連の人が多かった。
現に私の伯父は現役の警視庁長官である。
「へぇ、そうか」
「零って、あまり道場に来なかったもんねー」
「人が多いのは苦手だからな」
自分では目立ちたくないのだが、なぜか目立ってしまう。ここでは周りも目立つ存在だからか、存在は薄くなっているようだが、外に出れば、目立つ。
幼少時代からそうだった為、道場でも人のいない時間に行き、一人で稽古をしていたな。
「そういえば、昔からそうだったね。
じゃあ、後は二人で仲良くやってね。零の荷物は部屋に運んであるから」
そう言って、毬はエレベーターの方に向かった。
これから黒屋と二人か――まぁ、こちらから話しかけなれば、話さないだろうし、なんとかなるだろ。
沈黙の空間は慣れている。
……関わりたくない奴ほど必ず関わる事になるのは会社でも学園でも一緒と言う事か……。




