【12話】不良だからと言って、馬鹿とは限らない
その後の午前の授業は何事もなく終わった。
一限目に引き続き、私にとっては簡単な授業であった。もう少し実りのある授業を受けたいが、各分野の最高峰の大学に行かなければ、自分の欲求に答えられないだろう。
高校なのだから、仕方がない。
昼休みとなり、クラスメイト達は食堂に向かったり、仲のいい者と喋ったりしている。
「かんざきちゃん、一緒に食堂いこ~」
「行かない」
「なんで~!?」
転校生が人気者と一緒にいる所を見られてみろ。明日から嫉妬の視線が突き刺さる。
共学でもそうなのに男子校や女子校はそれ以上だと、大学時代の友人が言っていた。まるで自分が味わったような事柄をいくつか話してくれたな。
その友人は私の会社の海外支部で支部長をしている。……後で男子校について話を聞いてみるか。
国は違えど、雰囲気ぐらいは一緒だろう。以前、これ以上は黒歴史で話したくないと言っていたが、脅せば話してくれるだろう。
いや、脅さなくても、私が男子校に通っていると言えば、喋るかもしれないな……。
「神前、お前の分、買っておいたぞ」
そう言うと、水之は私の机の上に二、三個パンを置いた。
「……頼んでいないが」
「ついでで買ってきた。どうせ買って、ここで食べるつもりだっただろ?」
「そうだが……」
……そんなに私の思考は分かりやすいのか?
「一緒にいると、神前に迷惑がかかるのは目に見えている。
だが、俺は先生から神前を頼まれているから、離れられない。
食堂だと目立つが、教室なら、目立たないからな。
あぁ、そのパンは俺の奢りだから、金は気にするな」
ふむ、どうやら水之はこういう事に関しても頭の回転がいいようだな。
しかし、奢るのは慣れているが、奢られるのは慣れないな。借りを作りたくないし、払おう。
「いや、払う」
「いい。俺が選んできたのを押しつけたし」
「借りは作りたくない」
「じゃあ、俺の願いを一つ叶えるのはどうだ?」
「……モノによっては割に合わないぞ」
まぁ、殺しと社会的抹殺以外なら、叶えられそうだが、あまりしたくはないな。
「変な事は頼まない。まぁ、今日のテスト次第かな」
テスト次第という事は勉強の事か?
学年二位の水之に私が教える事が出来るのは何もないと思うが……。
「……分かった」
「取引成立だな。さっさと食べよう」
「貴弌~、オレの分は~?」
「自分で買ってこい」
「ひどっ!」
貴弌が百衣の為に買ってくる理由がないから、当然だろう。
その後、百衣は仕方なく購買に行き、パンを買ってきた。戻ってきた姿は少し衣類が乱れていたが、それは喧嘩した訳ではなく、購買の人ごみによるものだと百衣が言っていた。
そして、なぜか私にお土産と言って、プリンを渡してきた。いらないと言ったが、「貴弌と同じ位置につきたいから」と言って、強引に押し付けられた。
百衣、お前も私に何か頼むのか。殺しと社会的抹消以外の願いを頼むぞ。
後、このプリン、うちのグループ会社が販売しているブランド商品で試食回数三桁いく勢いだったな……。いい思い出がないが、完成品である販売しているこれは味はいいから、食べるか。
試作品第一号の味はとても酷かった。あれからここまでの物になったのは私を含め上層部の意見だろう。製作チームは上層部に出す試作品の試食で舌が麻痺していたので、色々大変だったとその会社の社長は言っていたな。
最近食べた新味の試作品は大分ましな方だったので、開発期間は前より短く済むだろう。
「そーいやー、あいつ来るのかな~」
「来るだろ」
「あいつ?」
誰のことだろう? 私以外には転校生はいないから、在校生か?
「かんざきちゃんの知らない人でこの学校ではちょー有名人」
「あまり関わらない方が得策だ」
「貴弌の言う通りかもねー。ま、あいつ、いつも一人だから、関わる事もないね~」
「そうだといいんだが……」
二人とも、私に分かるように説明してくれ。
説明してくれないと、関わらないようする事もできないだろう。
「ま、会ってみれば分かるよ~」
ガラッ
「お、来たようだね~」
百衣が小声で言った。何が来たのか気になり、私は扉の方を見た。
そこにいたのは男だった。いや、男子校だから、男以外いないのだが。
身長は見た様子では私と同じぐらいで男性的には少し低い方である。
ツンツンした雰囲気の金髪。あれは染めているな。髪も痛んでいるようだ。後ろ髪だけ伸ばしているのか、背中にかかる位ある。
瞳は灰色の入った藍色の瞳。カラーコンタクトではないな。そうそうあの色の瞳は見ない。
親戚に外国人がいるのだろう。顔も整っていて、文句のつけようがない。後は雰囲気だな。
これで雰囲気が穏やかなものであれば、一般女子が言う所の『王子様』だろう。
だが、彼の纏って雰囲気はそれとは正反対だ。あれは不良だな。族とは少し関わりがあるかもしれないな。
「かんざきちゃん、あいつなんて見ない方がいいよ」
「あぁ、睨まれたら、後が怖い」
どうやら私はかなり彼を見ていたようだ。自分では彼に気付かれないように気配も極力殺していたが、傍にいた水之と百衣にはバレバレだったようだ。
「……そんなにやばいのか?」
どう見ても、普通の不良だぞ?
有名な組の幹部や他国のマフィアじゃなくて、ただの不良高校生だぞ?
一体、何が怖いと言うんだ。
……あぁ、普通の人にとっては不良も恐怖の対象か。
私のいた世界が異常で彼みたいなのが普通と言う認識を変えた方がいいな。思わぬ所で正体がバレるかもしれない。
「やばすぎなんだよ~」
「あいつは黒屋忍。
この学園内の不良どもをまとめている。
確かあだ名は『暗黒王子』だったな」
「へぇ……」
やはりあだ名にも王子がつくのか。しかし、この学園内のみなら、人数も少ないだろう。
ただでさえ、お坊ちゃま学校なのだから――。
「それなのに、あいつ、成績は学年一位なんだよ~。
ありえねーよ」
ほう、頭がいいのか。それだと、見た目や世間の噂は信じない方がいいな。
今までの経験上、そういう奴ほど、中身はまともだからな。
黒屋か……どこかで聞いた事あるが……すぐに出てこないとなると、組関連だな。
後で和輝在学生の資料を集めてもらうか。
「不良だからと言って、馬鹿とは限らない」
「そうだけどさ~。
オレらとしてはやっぱ気になるんだよね~」
「なら、勉強すればいい」
「勉強しても、点が届かない場合は?」
「諦めろ」
「かんざきちゃん、ひどい~」
さすがの私でも勉強以外の点数稼ぎはないからな。
午後の予鈴のチャイムが鳴った。
テスト開始まで後五分となった――。




