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【10話】自己紹介が成立しない

「ここがお…神前が所属するクラス。二年Sクラスだ」

 織原、『お前』を言おうとして、訂正したな。まぁ、普通に『お前』と言われても、私は気にしないが……。

もしかして、監視役がいるのか? いや、あのくそ爺が決めた事だから、和輝達が監視役を配置するわけないはずだ。

どうせくそ爺に「監視役はつけるな」と念押しされているだろうしな。

「……一瞬、寒気がした」

 織原が小声で言った。多分、独り言だろうが、私の耳が地獄耳のおかげで聞きとれた。

聞かなかった事にした方がいいだろう。多分、私の友人の誰かが感じ取ったんだろう。

彼らはそういう所だけ敏感であるから。

「呼んだら、入ってこいよ」

「分かりました」


「おー、席につけー」

 織原がガラッと音を立てながら、扉を開ける。

元々騒がしくなかった教室がより静かになる。

「知っている奴もいるが、転校生だ。入ってくれ」

 私は織原に呼ばれ、教室に入り、織原の隣で足をとめた。隣と言っても、一メートルぐらいは離れている。

「神前だ。みんな仲良くしてくれよ。じゃ、神前から一言言ってもらおうか」

 面倒だ。と思うが、ここは普通に挨拶をしないと、普通に生活は無理だろう。

「か「あ、かんざきちゃんだ~」」

 私が挨拶をしようとしたと同時にガラッと教室の後ろの扉が開き、生徒が入ってきた。

生徒は先程会った百衣であった。

 百衣……私より先に行ったはずなのになんで私より教室に来るのが遅いんだ……。

「よー、百衣。堂々と遅刻するたぁ、いい御身分だな」

「あ、オリちゃんじゃん、ひさし~」

 ……やはり百衣は苦手な人種だ。人の話をあまり聞いていない。

「かんざきちゃん、二年生なんだ~。やった、卒業まで一緒だね」

 お前の成績次第だ。まぁ、こんな奴だから、この中では最下位に近いだろ。

一応、外面の仮面をつけて、対応するか。

「そうだといいですね」

「だいじょーぶだよ! オレ、こう見えて、頭いいんだぜ!」

 自慢する事か。

「あ、信じていないでしょー。オリちゃん、オレの成績をかんざきちゃんに教えてやってよ!」

「面倒だから、やだ」

 おい、そんな回答で良いのか。それでも、お前は教師か。

先程の言葉だけ聞いたら、我が儘な奴だと思われるぞ。

「面倒とか言ってんじゃねーよ、この不良教師」

「不良に不良呼ばわりされる筋合いはねぇ」

「んだとぉ?」

 なんでこんな雰囲気になるんだ。


「百衣、席につけ。神前君が困っている」

 助け船を出したのは副会長の水之だった。さすが副会長。

困ってはいたが、それを表情には出していない。雰囲気を察したのだろう。水之は空気を読める人間だな。

「はいはい、分かったよ」

「先生、早く進めて下さい」

「あぁ、すまねぇな。

 もう面倒だから、神前の言葉はなしな」

 あ、飛ばした。織原、先程から面倒で全部片付けていないか?

まぁ、私はどちらでもいいが。

「神前の席は水之の隣だ。分からない事があったら、水之に聞けば、なんとかなるだろ」

 放棄した。職務放棄したぞ、こいつ。全て水之に丸投げした。

おい、誰だ、こんな奴を教師として採用したのは。教師としての義務はどこにいった。

「分かりました」

 織原に色々言いたい事あるが、とりあえず、席に着くことが先決だろう。

転校時の自己紹介がこんな形になるのは人生で初めてだな。

……よくよく思い出してみたら、まともな自己紹介をした事がなかった。

なんで私はこうも個性豊かな人物がいるクラスに編入するのだろう……。


「宜しくな、神前君」

「宜しくお願いします、水之さん」

「かんざきちゃん、俺の前なんて、いいポジションだね!」

 百衣、五月蝿い。少しは黙ってくれ。

そして、私に触ろうとするな。

「百衣、少しは静かにしろ。

 転校生も紹介したから、連絡事項言うぞー。

 今日の模擬テストは午後からだ。

 クラス分けに影響するから、真剣にやれよー」

 織原の言葉に私は動きを止める。


 転校初日にクラス分けに影響のあるテストがあるとか、おかしいだろ。

……絶対狙ってきたな、あのくそ爺……。



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