アフターエピローグ 2
「――――潰す」
「は? やってみろよ」
ほらほらと自分の体を殴ってみろとアピールする男子。それに対してゆっくりと教慈は歩きだし彼の腹部に手を触れる。
「なにそれ? そんなんが効くわけ……」
突如彼はその場に崩れた。
「おいおい、何マジに倒れてんだよ~」
バカだなぁと言いながら駆け寄り、瞬時に表情が変わった。
「どうした!? おい!」
そこには白目を向いて倒れている男子。その事実を知ったことにより他の男子達も駆け寄る。
「よくも俺らのダチを!」
激情した彼ら。一人が力任せに拳を振り、それは教慈の後頭部を捉える。
拳は勢いを緩めることなく加速し、振り抜いた。
「あ……れ?」
彼の視界から教慈は消えていた。なぜならその時には既に背後に居たからだ。
「遅いぜ」
とんと背中を押す。直後バランスを崩し、男子はしたたかに地面に体を叩きつけてしまう。
「ってぇぇっぇぇぇ!?」
「な!? よくも!」
「やりやがったな!」
教慈を挟み撃ちにし両者が拳を突き出す。左右から迫る二擊。それに臆することなく教慈はその場に居続け、ギリギリのところでしゃがんだ。
二人の拳はともに拳を放ったもの同士で顔に当たり、悶絶する。
「こいつ! ちょこまかと!」
「動くなよ!」
「このヤロー!」
一斉に襲い掛かる男子達。その姿を見て教慈は嘆息した。
「お前らからふっかけたんだぜこの喧嘩」
次の瞬間その顔は醜悪な笑みを見せる。
「だからもう――オレらが攻撃してもいいよな?」
そう言って教慈は跳躍した。
「な!?」
「……うそだろ!?」
彼らが驚くのも仕方がない。なにせ教慈は助走をつけることなくその場で二m以上跳躍したのだから。
「お前ら、腕ばっか使うと足が腐るぜ」
宙に浮いた体は一人の少年に狙いを定めるとそちらの方に向かって突撃し、完璧なる飛び蹴りが男子生徒の腹部にめり込んだ。
全体重の乗った重い一撃。白目を向き倒れ込むのを視界に止めつつも次の標的へ。
足を引き抜き倒れかけている体をジャンプ台として蹴り飛ばし、次の男子に向かって膝から肩めがけて落下する。
筋肉が振動し骨が軋む。何が起こったか分からぬまま彼も意識が飛び、教慈は彼の体に手を置きそのまま逆立ちをした。そしてその状態から最後の一人の顎を靴底でこすってやる。
揺らされる脳。常人では簡単にできない神業。そして、綺麗に脳だけ揺らして地面に寝かしつけたのだった。
「よっと」
再び地面に降り立ったとき、そこには教慈以外誰も立っていなかった。
「母さんを愚弄しなければ気絶だけは勘弁してやったのに。なあ? リアン?」
誰も居ない空間に彼は問いかける。本来なら帰ってこない返事。だが、
『そうだね教慈。沙遊のことを馬鹿にした奴は誰一人私は許さない』
教慈の耳にはしっかりとその声が聞こえた。
「さ、帰ろうぜ。今日のおやつはチョコプリンだ」
『うん。早く帰って食べたい』
「ああ、その時にはまた体を貸してやるからな」
ゆったりとナチュラルな面持ちで帰る教慈。
――そう。これがあの時死を願った少年の十年後。
十年間でたくさんあったのだろう。しかし、もう以前の弱い少年ではなかった。
ここに居る少年は、全ての不条理を踏みにじる力を持ち得た存在になっていた。故に誰も彼を止められない。
「さて、来年には高校か。必ずいいところ出て完璧なるリア充になってやるよ」
ポケットに手を突っ込みながら教慈は歩き出す。その足はしっかりとしており、もうかつての頼りなさは存在してなかった。
一見すれば凛々しい子に育った。されど違う。彼は完璧なまでに腐った人間へと成長していた。それは完全なる歪み。もう誰にも止められない。
『大丈夫だよ教慈。試験の問題全部私が答えを教えてあげるから』
「頼りにしているぜリアン」
教慈は不敵に笑うとその場をあとにする。残された男子達のことなど気にもとめず。
誰かを教え誰かを慈しむように育ってほしい。そんな母親の願いは叶わなかった。
ここに居るのは自分のためだけに生きる少年。そして、その少年を守る白い少女が一人。
掛け違えたボタンの結果はどうなるかはまだ分からない。……なにせ。この物語はようやく始まろうとするのだから。




