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最終話 デュアルフェイス・ゼロ 君が居たから…… 6

 それから月日が経つ。



 幼かった子供達は夢を追う年齢へと成長していく。

 まゆちゃんと呼んでいた結も大きくなり、ヘーリアントのことをリアン姉ちゃんと呼ぶ小学生になっていた。

 また伸一は高校に進学し卒業したあと、啓造に家業を次ぎたいと頼んだ。

 啓造は一度はそれを断る。なにせ伸一は音楽関係の仕事に就くべく学生仲間とバンドを組んでプロデビューしようと日々頑張っていた。そのため尋ねる。『お前は都会に出てミュージシャンになるのではないか?』と。

 されど伸一はその夢ではなく父親の仕事の方がやりたいと言い切る。それは母が死に、ヘーリアントと過ごした日々によって確信に至り得た答えだった。

 今までにない熱意に啓造は首を振り、その日の晩、あまりの嬉しさに彼は涙を流した。

 そして、


「沙遊を都会へ行かせようと思う。だが、年頃の女の子一人を行かせるのは心配だ」


 夜月が綺麗な晩、クレイドル・オブ・フラワーズの中でヘーリアントから月見酒を勧められながら啓造がしんみりと言う。


「あの子には大きな可能性が有り、夢がある。俺はそれを叶えてやりたい」


 厳格な父である啓造。されど外面とは違い中身はとても優しかった。故に願う。愛娘の夢が叶うことを。


「来年から沙遊も高校生。いつもなら地元の学校に行かせたんだがあの子は絵が好きだろう? そうなるとここではそれが厳しい」

「だから都会に?」

「ああそうだ。……そこでだ、お前にも付いていってほしいんだリアン」


 啓蔵からのお願い。娘を思う父親ならではの希望。

 されど相手は元幻想の王。そのような人物にたかが人間一人がお願いをするのはやや危なげに思えた。ところが、


「安心して啓造。私がしっかりと沙遊を守るから」


 ヘーリアントは拒むことなく二つ返事で答えた。満面の笑みで。


「そうか。ありがとう」


 ぐいっと杯の酒を飲み干す啓造。その顔には普段見られない笑顔のシワがあった。

 そして次の年の春、沙遊とヘーリアントは二人きりの新生活を送る。



 それからまた季節は巡り。



「リアン。私好きな人ができちゃったんだ」


 少女は一人の少年に恋をした。

 それは同じクラスの男子である七峰ななみね 史明ふみあきと言う少年。

 その話を聞いたリアンは喜ぶと同時に啓造からのお願いを思い出す。


「その子良い子?」

「分からない。けど、私は彼と一緒に居ると幸せになれるの。君と一緒に居る時みたいに……」


 自分の気持ちに半信半疑の沙遊。けれど、その顔はとても幸福そうだったとヘーリアントは記憶する。



 季節は巡る。



「どうしよう。私、妊娠したみたい」

「……え?」


 突然の言葉。ヘーリアントは固まるしかなかった。

 そんな彼女の様子を目に止めながらも、沙遊は申し訳なさそうに妊娠検査薬をヘーリアントの前に差し出す。


「多分、七峰君との子」


 その言葉は確かだった。というよりそれしか考えられない。

 二人が逢引するときヘーリアントは必ず隣の部屋で待機していた。仮に呼んでもいない来訪者が来たら彼女は問答無用で追い出している。


「沙遊と史明の間に子供が出来た……」


 素直に喜びたかったが喜べなかった。

 別段彼女は史明のことが嫌いじゃなかった。むしろ好意を抱いていた。

 彼は沙遊とともに住む自分の存在を認め、邪険にせず、二人より三人で居ることを望むほど優しい心の持ち主だった。


「…………どうしよう。啓造に怒られる」


 柄にもなく震えるヘーリアント。その様子を見た沙遊は慌てて彼女に寄り添う。


「いや、リアンは悪くないよ? 悪いのは私達だよ」

「でも……」


 顔を見つめるヘーリアント。それに対して沙遊も顔を見合わしてしまう。


「これ、報告しないとダメ……だよね」

「うん。これはきっと私達だけじゃ手に負えない。啓造に連絡しよう」

「……分かった」


 重たげに歩く沙遊。そして彼女は深呼吸したあとに父親に電話をかけるのであった。


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