最終話 デュアルフェイス・ゼロ 君が居たから…… 5
「もしかすればレベル6の次、すべてのセンチュリオンの目標であるレベル7にたどり着ければ分かるかも知れんな」
……ああそうさ。俺は死にたくないし個として自分の居場所を手に入れるために上を目指したのさ。
王になれば安全な場所にたどり着ける。そして、レベル7へ到達すれば俺の生まれた理由が分かるかもしれない。
もしかしたら、父と母が存在したかもしれない。いや、まだこの世界のどこかに生きているかもしれない。
いろいろとifを思案するペイルライダー。それはもとより彼が考えていたものだった。
口が悪く態度も品がない。そんな彼が生きたいというのはただのエゴのように思えるだろう。
けれどそれは違う。彼は誰よりも純粋に自分のためにすべてを実行した。ただ死にたくなかったから死にたくないと思ったのではない。
彼は知りたかったのだ。自分が生まれてきた理由を――自分の親の存在を。または兄弟の存在。出会えれば一人では絶対に手に入れることのできない温もりと証を手に入れられる。
そのためなら何を犠牲にしても構わない。そう思って他者を足蹴にしてここまで生きてきた。
ペイルライダーは寂しかったのだ。故にアンリ・マユとの戦いで怒りを抱いた。自分では手に入れられなかった温もりと存在の証をセンチュリオンのままで彼女は手に入れていたのだから。
「必ず、強くなる。そしたら俺も」
……心が手に入るかもしれない。そう彼は思ったのだった。
「――――ところで、彼女のことを知っているのはお前だけか?」
不自然な話の切り出し方。突然な話題の変化にペイルライダーは首をかしげた。
「そうですが。どうかなさいましたか?」
念の為にイフリートに訪ねた。するとイフリートは柔らかな笑みを浮かべはははと笑い出す。
「いや、大したことではないよ。これは些細なことでね。単に私事、家庭の事情とでも言っておこうか」
「……そ……うですか……」
は切れの悪い返事。その間にも炎は最初よりも勢いが強くなって燃え盛る。
――待て、家庭の事情? どう言う意味だ?
恐る恐るも顔を上げるペイルライダー。彼は自身の腕の傷を見るフリをしてイフリートの顔を盗み見る。
そこにあるのは晴れやかな笑顔。またその場に佇む姿もとてもリラックスしているように見えた。それはもう……人間のように。
「ああ、安心したよ。これであの子のことを知る者はこの地から一人も居なくなる」
「……!!」
理解する必要はなかった。王たる彼が今ここに居る理由はそういうことなのだ。
そもそもセンチュリオンは世界中のあちらこちらに存在しているのにかかわらずこの場所のみ全くいないというのがおかしな話だった。
……どうりでか。ラルヴァ以外にセンチュリオンが居なかった理由は……。
危険察知能力の高い彼は答えを導き出す。それはとても異常であってはならない話。
それはイフリートがアンリ・マユを守るために他のセンチュリオンを全て排除したということ。
「…………そう言うことかよ」
王である相手に対して憎しみの限り睨みつける。それに対してイフリートは笑顔のまま灼熱の肉体を過熱し始めた。
「……お前もか」
王であるイフリートが心を持つということを知らないはずがない。ましてや奴自身がそうなっていないと言う考えが既に間違いだった!
「――イフリート! お前もかぁぁぁぁぁぁ!」
そう。ペイルライダーが知った結論。それはイフリートもレベル6に到達しており、アンリ・マユ同様心を持っているということだった。
「すまない。私としてはもうあの子のことはそっとして欲しいのだよ」
ゆっくりと振り上げられる獄炎の拳。それはペイルライダーに狙いを定める。その場から動くことも防ぐことも出来ないペイルライダーは顔に醜いシワを作りながらも最後の力を振り絞る。
「冥府に落ちるのに王の手など借りるものかぁぁぁぁぁぁぁ!」
振り上げる両手。その先端を自らの首に突き立て躊躇うことなく貫いた。
「貴様ら厄災の王など全て! 滅びやがれえぇぇぇぇぇぇ!」
体中から緑の蛍光色の血を噴き出しながら怨嗟の言葉を叫ぶ。その彼の頭上に優しさが微塵にも感じられないイフリートの燃え盛る炎の拳が叩きつけられるのであった。
* *
一年後、季節は巡って秋になる。
沙遊はアンリ・マユと出会ってからよく本を読むようになる。その本は多種多様。気になったものを片っ端から読みあさり世界の知識を次々とつけていく。
中でもよく読むものは歴史の本。アンリ・マユに問いかけ昔のことを聞き、書いてある内容と事実の違いを聞いて「そうなんだ」と言って納得するのが日課となっていた。
「お姉ちゃん。前々から名前が気に入らないって言っていたよね」
「そうだね」
いつかの昼過ぎ、読書に適した秋の日に自室で分厚い本を読む沙遊とマンガを読むアンリ・マユ。
「それでさ。私決めたんだ」
「なにを?」
「お姉ちゃんの名前」
すっと差し出すハードカバーの本。そこに書かれているタイトルの文字をアンリ・マユは目を細めながら読む。
「はり……へぇりんと?」
「これはね、ヘーリアントって言うの」
「ヘーリアント?」
聞きなれない発音だった。普段聞いている言葉と違う音。
「これはドイツの古い言葉で救世主って意味なんだって」
「へぇ~。……でもそんなに言うほど私は誰かを救っていないよ?」
自分は大して何もしていないとアピールするアンリ・マユ。それに対して沙遊は頬をふくらませた。
「救っているの! 私たち家族とこの村の人たちを救ってくれたし、この間だってトンネルの落盤事故があったとき君がいたからみんな助かったんだよ!」
「……そんな、そこに命があったから救っただけだよ?」
当前そうにアンリ・マユは言った。それはかつて傍観を続けてきた彼女ではありえない言葉。そんな彼女の言葉を聞いた沙遊は本を置いてアンリ・マユを抱きしめる。
突然の行動にアンリ・マユは手に持っていたマンガを落としてしまう。
「ほら、やっぱり救世主だよ。そうやって誰かの為に人はすぐに行動できない。それができる君はやっぱり救世主だ」
「……沙遊」
日に日に大きくなる少女の体に抱かれアンリ・マユは目を伏せた。
「今日からお姉ちゃんの名前は《ヘーリアント》。愛称は《リアン》で」
「へーりあんと。……ヘーリアント。リアン」
その日、アンリ・マユはアンリ・マユじゃなくなった。
そしてヘーリアントと言う名を持つ一人の英雄が誕生したのだ。




