最終話 デュアルフェイス・ゼロ 君が居たから…… 1
釣られてJOJOと言ってしまったペイルライダーは顔面を潰される中夢を見ていた。
その夢はとても古く、懐かしいと言えば良い響きだが、忌々しいと言えば悪くも聞こえるものであった。
かつて彼が生まれた時には親は居なかった。彼はいつの間にか子供の姿で存在していたのだ。
けれども不思議に思うことはなかった。なぜならそれがセンチュリオンの定めであったから。
彼は同時期に生まれた者達と連み、シャングリラを走り回った。生きている喜び。生への実感。それだけで幸せに満ち満ちていた。
ときたま人間の社会を覗き、その進歩を見てきた。
生まれた時にはすでに金属製の兵器が空を飛び回り、多くの人がボロ雑巾のように死んでいったのをよく覚えていた。
また小さな島国に落とされた二発の光り輝く爆弾を間近で見て面白いと思った。現地ではその後様々な爪痕で苦しんでいたのにかかわらず、異世界に居る彼には全くの被害がなかったためになんとも思うことがなかった。
当時の彼はこう思っていた。――ああ、人間なんかに生まれなくてよかったと。
人間は人間通しで殺し合い、動物を意味なく虐殺し、大地を蹂躙した。
ところがシャングリラに被害はなく、また荒れ果てた地に降り立ったところで異世界人である彼にはなんの影響もなかった。
センチュリオンであることを幸せに思っていたペイルライダーだが、あるときその思いは覆される。
七王の存在。それが彼の考えを根底から覆すこととなる。
それは本当にたまたまだった。ある晴れた日、彼は長年の付き合いがある者達と一緒に道を歩いていた。そこに一人の王が通りかかったのだ。
何気ない光景。特に彼らは気にもとめず、またその王も彼らの様子に特別な意思表示することなく通過した。
交錯する影と影。しかしペイルライダーは嫌な予感がしたために王が通過する前にその場から飛び退いた。
直後何事もないように王は通過した。しかし、付き合いのある者達は通過しなかった。
いや、通過しなかったんじゃない。目の前で竜巻に飲まれ粉砕されたのだ。
別に王の前で無礼があった訳ではない。また王は怒ってもいなかった。強いて言うのであれば王は彼らの存在に気づいていないようだった。
その時彼は理解した。王は自分達のことを地面に歩いているアリもしくはそれ以下にしか思っていないと。
以来、彼はシャングリラから離れ人間界で自らを磨いた。
孤独の日々。けれどそれが一番彼にとって助かった。決して付き合いがあった者達が死んだから、再び誰かが傷つき死ぬのが嫌だったからという理由ではない。
他者といて足を引っ張られ、もしくは巻き込まれて死ぬのが嫌だったから一人でいることにした。
他にももしかしたら誰かが自分の命を無作為に奪うのではないかという恐怖にも駆られ、交わることを拒絶する。
彼は自分の弱さを普通以上に理解していた。もちろん他のセンチュリオンと比べ彼の能力は正面切って戦うことに不向き。じっくりと静かに攻めるのに適した能力。
更に他の者よりも臆病で弱気なことを重々承知し、卑怯であり、卑劣な戦法を磨いた。
見本はたくさんあった。人間界ではその時多くの戦争を行っており、彼は弱小の国の戦い方を学んだ。
弱い者なりに強い者と戦うためにどうすれば勝てるかを学び、それを高め続けた。
右肩上がりではないにしろ、彼は徐々に強くなる。しかしそれでも彼を安堵させるようなバックボーンは生まれず、自らを真から支えてくれるモノの無さに嘆いた。
そんなあるとき日本に降り立ち、子供が読んでいるマンガに目がいく。
そこには偶然新連載という文字が書かれており、彼は何かの足しになればと思い子供がページをめくるを利用し、自らが楽な姿勢で中に描かれている漫画を読む。
書かれていたのは貴族の少年と劣悪な環境で育った少年の物語。別に大して面白くないと思ったのだが、二人の少年が出会ったとこを見て彼は衝撃を受けた。
最初はただ続きを読んでみようと思った。けれどそのマンガが進むにつれて彼はあるキャラクターの生き様に感動し、毎週雑誌が販売されるその日を焦がれた。
彼が毎週欠かさず読んでいたマンガこそ《ジョジョの奇妙な冒険》だった。
彼はディオ・ブランドーの人生と自らの生まれを比較し、似ていると感じた。故に共感し、彼のように強く、かっこよくなれたらと思うようになった。
最初はセリフを真似るだけだった。それをやると気が落ち着いた。
次にポーズを真似する。なんとなくだが強くなれた気がした。
更には思考まで真似る。もとより能力的に弱者であることを承知していた彼はよく考える方だった。けれどもっと考えるようになった。
それから彼は自分なりにアレンジを加えつつ、理想の自分像を作り上げる。
そんな彼は、ペイルライダーは今で言う〝中二病〟にかかっていた。
けど後悔はなく、恥も感じなかった。なぜなら一冊の本の一人のキャラクターによって彼は自らの生きる道を教えてもらい、今この瞬間まで支えられてきたのだから。何も無かった自分を……。
* *
まともに立っていない状態。上半身はのけぞり、顔も天を仰いだままだった。
「俺はただ……死にたくなかったんだ」
とても綺麗な、優しい声色。それは先程まで出ていた他者を見下すようなニュアンスとは全く違った。
ゆっくりと正面を見始めるペイルライダー。ボロボロとスズメバチのような顔の甲殻が崩れ落ちるとそこにある顔を見てアンリ・マユと沙遊は固まった。
緑の蛍光色に一部が濡れているものの、とても美しく、優しい顔が存在する。
髪は赤。目は緑。肌は闇夜でありながらも白であることを如実に伝えるほどのもの。




