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第四話 疫病VS幻想 5

「アハハハハ! 俺はよ、どう頑張ったって勝てねぇのは分かっているのよ。だっからさぁ――――勝てるための方法を五万と用意させてもらった!」


 鈍い輝きを放ち始めるペイルライダーの甲殻。それは四方から集められていく。


「これは、命の流れ?」

「そうさ! 俺はこの土地に居る全ての人間に病を感染させた! そいつは時期に今健康な奴でさえ体を蝕み床入りさせるほどの強力な奴をな!

 無論意味が無い訳じゃない、それを行うことによって弱体化したお前の我式捕縛陣は構築不能。んでもって俺の体は一時的に無敵モードになるって算段よぉ!」


 少しずつ隆起する甲殻。それは禍々しく、殻と殻の間に深紅の何かがドクンと脈打ち流れる。


「文字通り命をとしてお前と戦うぜ幻想の王! ただ、使う命は他人の命だけどなぁ!」


 非常識すぎる発言。それは騎士道でも武士道でも紳士ささえも感じれない言葉だった。


「やらせない!」


 右足で橋を蹴り、右手を振りかぶり何かを突き出すアンリ・マユ。それに対してペイルライダーは鎌を盾替わりにし攻撃を防いだ。よけれる距離であったのにかかわらず。

 片腕でありながらの全力の一撃。それは軽々ペイルライダーの体を吹き飛ばし橋の向こう、様々な野菜が実る畑へ体を飛ばした。


「あらよっと!」


 軽快な声と共にペイルライダーは野菜の上に着地する。本来なら野菜は潰れてしまうのだが、センチュリオンである彼が乗ったところでこの世界には影響がなかった。

 それを見越してアンリ・マユは追撃に出る。


「おお、威勢がいいねぇ。ところで王様。……トマト祭りって知ってる?」


 おもむろに畑に生っているトマトに触れ、彼はもぎ取る。その行動にアンリ・マユは顔をしかめた。

 ……こいつのレベルはいくつだ? 少なくとも2以上なのは分かる。だが……。

 センチュリオンにはレベルがある。アンリ・マユは王であるゆえに上位のレベルだ。それに対して自分は弱いと公言するペイルライダーのレベルは絶対的に低いはず。またアンリ・マユ自身相手の器量は測れた。

 しかしトマトをもぐという行為が不審だった。対象の存在を侵食して自分の側に引き寄せることができるのは上位の者しかできない行為。自分よりレベルの低い相手がそれをやったということが彼女は気になる。


「ピッチャー第一球、投げましたぁ!」


 勢いよく投げられるトマト。それはアンリ・マユめがけて投げ飛ばされ、彼女に苦もなく避けられた。

 おかしな行動ではあったが危機は過ぎたと判断し、一度着地のモーションに入る彼女。

 そこで目に入るのは青々とした美味しそうなキャベツ。

 そのまま着地すれば間違いなくキャベツは粉砕される。だが、彼女もセンチュリオン。この世界の住人ではない。そのため足をつけたところで基本世界に干渉できない。――のだが、キャベツが何故か炸裂した。

 突然の事態に目を丸くするアンリ・マユ。


「かかったなボォケェ」


 キャベツの葉は一気に花開き、アンリ・マユの足を飲み込み小さくしぼむ。それは片足をがっちりと固めその場に固定してしまう。

 勢いよくつんのめるが右手の何かで体を支え姿勢を戻す。すっと視線をペイルライダーに移すと真っ赤なリコピンたっぷりな球体が迫っているのが見えた。


「トマト!」


 急いでそれを何かで叩き落す。するとそれは地面についた瞬間ジュクジュクと音を立てて熟れ、煙が立ち上がる。

 怪しすぎる煙。何か思案したいもののペイルライダーは次のトマトを投げ始めていた。


「トマトトマトトマトトマトトマトトマトトマトトマトトマトトマトォォォォォ!」


 軽快に、バカみたいな声で一人トマトを投げ続けるペイルライダー。その謎の攻撃にアンリ・マユは農家の人にすまないと思いながらも全て切り落とす。


「トマトトマトトマトトマトトマト――――おや、もうなくなっちまったか」


 ひたすら投げられたトマトはアンリ・マユに全て切り落とされ、果肉が飛び出て無残な状態で地面に転がる。

 完全に空手となったペイルライダーにアンリ・マユは右手の何かの攻撃部位を伸ばし垂直に叩き落とす。


「ぐぅ!?」


 ――が、何かが彼女の右腕に突き刺さった。


「きゅうり?」


 そこにはこれまた青々としたきゅうりが腕に何故か刺さっている。決して特殊な品種改良をされて武器用に作られた訳ではない。ただのきゅうりだ。


「トマトがなくなったらきゅうりを投げればいいだけのこと!」


 先ほどとは違う位置に行くと大量に実っているきゅうりをむしり取ってそれをアンリ・マユに投げた。

 アンリ・マユは腕に刺さっているきゅうりを歯で噛み引き抜き、右手の何かで応戦する。


「キュウリウリウリウリウリウリウリウリウリウリウリウリウリウリウリウリウリウリウリウリウリウリウリィィィィィイイ!」


 苦もなく切り裂かれるきゅうり。だが、徐々に彼女の体にきゅうりはかすり、当たった部位から黒い血が流れ始める。


「あれ?」


 次の瞬間、膝が崩れた。突如地面に伏せる彼女。

 眼前に危険が迫っているのにかかわらず体は動かず、たくさんのきゅうりが体に突き刺さっていく。

 悲鳴を押し殺し、脊髄から発される震えと痛みをひたすらこらえるアンリ・マユ。そして、攻撃が止んだ。


「ハッハー! ざまあみろ! 最初に言ったろう? お前に勝つ方法は五万とあるってよ!」


 ゆっくりと歩き進み出すペイルライダー。アンリ・マユは右手をなんとか動かして攻撃しようとしたが、体が震え思うように動かせなかった。


「あ~、あきらめろ。今お前は細菌感染を起こして神経が麻痺してんだ。動こうとしたって無理無理」


 だるそうに告げるペイルライダー。

 アンリ・マユは苦しげな呼吸をしながらも立ち上がろうとする。しかし二肢に力が入らない。


「俺が遊んでいるように見えたか? ならそれは大きな間違いだ」

「……なぜ、モノに触れられる? お前のレベルは上位とは思えない」

「ああ、俺は上位じゃない。なんとか頑張ってレベル3にまで到達したもののこれ以上の伸びしろが見えん。正直何すればレベル4に到達できるか分からないしな」


 彼はアンリ・マユの前まで来ると彼女の白く綺麗な髪を掴んで無理やり顔を上げさせる。


「そんな俺でもどうやればレベル5のお前に勝てるか考えたんだ。本当に良くな。そこで思いついたのは空間そのものに初めからシャングリラ側のモノを混ぜておくことにした。そうすればあちらの世界のモノが触れられない俺でもしっかりと触れることができる。

 そいつをあちらこちらにしっかりと配置した。いわゆるトラップさ。あとは相手をトラップのあるところまでおびき寄せ、うまくハマれば一気に弱体化させることができる」

「私は……お前にハメられたのか」

「そそ、本来は自分の捕縛陣内に放り込めればいいんだが、俺は我式捕縛陣が発動できない。できるのは人間を招く普通の捕縛陣のみ。

 そんな奴が汎用の捕縛陣を使ったところで王の作り出す我式捕縛陣に簡単に上書きされて飲まれちまう。そしたら俺なんかお前にグッちょグちょのケッちょんケッちょんに瞬殺されちまうよ。

 だけど、さっきも言ったとおりこのあたりの空間はあらかじめセットしておいた術式がある。万全な状態の王相手にはへの役にも立たないが、弱体化したお前の捕縛陣くらいはちょっと頭使えば簡単に壊せれるんだよ」


 げひゃひゃひゃひゃひゃと汚い笑いでアンリ・マユをバカにし、冷めた目つきで見下すペイルライダー。


「だからと言って……一人では無理だ。そんな大規模なこと……」

「ああ、無理だったよ? それに関しては誰かに手伝ってもらった。野菜に病原体を突っ込むにあたって既に人間の体を乗っ取り終わった奴がたまたまいてよ~。そいつに頼んで俺の病原体入りの水を野菜一つ一つにお注射してもらったんだよ。つっても手伝った奴はとうの昔に冥王星まで飛んでいったけどな」


 ……こいつ、頭が悪そうな言動をしているが実際は違う。思った以上に賢い。

 下位ランクのセンチュリオンは上位ランクとは違って基本侵食行為ができない。そのため人間世界のものを動かすこともできず触れることも叶わない。可能なのは獲物である人間をシャングリラに呼ぶことのみ。呼び込み引きずり込むことによって初めて人間のみ干渉できる。それがシャングリラに住む者達の理。

 けれど、穴が無い訳じゃない。それをペイルライダーはよく考え、出来うると思ったことを実行した。

 それがこの畑を丸々一つ使ったトラップ。見た目は重要だ。恐ろしくない見た目ほど相手の虚を付くには十分。それに私は引っかかってしまった。

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