第三話 おねえちゃん 6
「なっ……ぜ?」
突然の事態に困惑するラルヴァ。それに対して意外そうな顔でペイルライダーは彼を見る。
「分からないのか?」
まるで幼稚な相手を見下すかの如くペイルライダーは言う。
「手柄を一人占めするためだよ」
直後、仲間であった相手に見せるはずがない最低で下衆な笑顔を見せる。
「ったくよぉ、そろそろ硬い言い方疲れてきたから崩すわ。俺がお前を引き入れた理由ってちゃんと理解しているか?」
急に話し方が変わるペイルライダー。突飛な変化にラルヴァはただ泡を食う。
「……と、共にセンチュリオン達が苦しまない世界を作る……ためでは?」
「ノンノン、違うぜ~」
チッチと舌打ちしつつ指を横に振るペイルライダー。やや小馬鹿気味に。
「お前に獲物を探させるためだけに利用したんだ。そうだな。お前はトリュフを探す豚と一緒だったってこと。
んでもってせっかく探し見つけたトリュフを豚が食いそうだから先に豚を潰すことにしただけさ。だから……」
汚らしい言葉でラルヴァが豚と同等と説明しつつ彼は清々しい笑顔を見せる。
「大人しく豚のようにブヒブヒ言って死ねよ」
「そんな! あなたはぁぁぁぁぁ!」
異常な状況に両手を伸ばすラルヴァ。それは明らかなる怒りと殺意が込められペイルライダーの首を絞めへし折らんとする。
が、その手は伸びきる前に急に力が抜け、地面に向かって落下した。
「そろそろ効いてきたみたいだな」
すっと左手を引き抜くペイルライダー。彼の左手にはラルヴァの緑色の血がべっとりとついている。
また傷口からはおびただしい量の血がどぼどぼと溢れ出た。
「っが! げぇぇぇぇ!」
地面に伏せると口からも多量の血を吐き出すラルヴァ。その姿を面白そうに眺めるペイルライダー。
「なあ、黄熱って知っているか? かの有名なのぐっちゃんが見つけた菌なんだけどさ。感染すると体が熱くなって穴という穴から血がボッタボッタ出るんだとよ」
簡単に済ませてはいけないことを軽々しく済ますペイルライダー。腕を上げることはおろか立つことすら出来なくなったラルヴァは頭だけ動かし相手の顔を見る。
「何か言いたそうだな~。うん。黄熱っていうのはここまでひどい状態なのが一瞬で出てくる訳ではないぜ。本当は症状が出るまでもう少し時間がかかる。
え~、なになに? じゃあ今な~んで自分がこんな苦しい症状が出ているかって? それはな――俺が病のスペシャリストだからさ」
聞いてもいない病状に対して勝手に話し、質問を聞き入れたフリをして流すペイルライダー。
「お前程度のレベル2相手ならすぐに死ねるさ。あとはどうやってあの女にこれを当てるかだな。正直白兵に向いていないんだなぁ俺。
まぁ、勝つための卑劣な作戦っていうのは五万と用意してあるんだけどよ……」
揚々と語るペイルライダー。黄熱によって血まみれになったラルヴァは最後に残された抵抗、睨むことを実行する。
暇の近い存在の睨み。それは毎夜夢に出てきて生者を苦しめるのではないかと思える程の鮮烈な視線。
しかし、ペイルライダーは全くと言っていいほど怯む様子を見せなかった。
「ってかさ、お前志が低いんだよ。どうせ風の《アイテール》の部下あたりになりに来たんだろ? そんなんじゃダメダメ。もうダメポ~」
あっけらかんと言い切るペイルライダー。
「……まさか、あなたは……空席となった幻想の王の席につくつもりですか?」
「ああ~、ようやく知恵が回ってきたか。でもまあちょっと違うんだよな~これが。そもそも俺には幻想もといイメージ構築系の能力は無いのさ」
ペイルライダーは手をひらひらと横に振りながら否定し、空に手を伸ばす。
「我目指すは天! 世界の覇者となる!!」
いかにもという雰囲気で佇む彼。そこで変な間が流れた。
絶対に違うことを考えているということだけは分かったのか、ラルヴァは疑わしい眼差しを向け回答を否定する。
「あ~、ウソウソ。本当は違うな」
急に飛び上がって逆立ちをしながらペイルライダーは転がるラルヴァの眼前に顔を近づける。
「どうせ直ぐに空いた席は埋まる。だからよ、俺は新しく第八の王《疫病の王》としてこの世界に君臨するのさ」
そこで初めて最もらしい表情をした。毅然としたフリをしていた時とも飄々(ひょうひょう)とした先ほどまでの態度とも違い、彼の行動原理とも呼べる野心的な表情を……。
「別に他の六王に楯突くつもりはない。けどな! 面白くねぇんだよ!
何が誰好き好んでモブキャラのポジション取らねばならんのだ? ざけんな毛虫ヤロー! 俺は俺としてこの世に君臨し、俺の個性を理解させ、周りのモブキャラとしてしか生きれない愚物共をはべらせいい気分で生きてやるのさ!」
ギャハハと品のない馬鹿な笑いが森の中に響き渡る。
「だからお前も俺の生を際立たせるための駒として……ん? ああ、そうか」
ピョンと反転して再び立ち上がるペイルライダー。そんな彼の目には全身から血を吹き出し終わって事切れたラルヴァの遺骸が横たわっていた。
「おお、友よ。君がこの俺に尽くしてくれたことは明後日のおやつの時間までは覚えておいてやろう」
死者に対して何の手向けも無い――むしろ侮辱ともとれる言葉をかけるペイルライダー。
何を思うでもなくラルヴァの体に脚を引っ掛け宙に蹴り上げる。
その体は木々の高さまで放り投げられ緑色の血をまき散らしていく。無様に舞う遺骸は重力に従って落下し始め、
「冥王星まで飛んでいけぇ!」
地面につく一m前にペイルライダーの回し蹴りを喰らってどこか遠くへ飛んでいった。
二、三度血を拭うため足を振ったあと、ペイルライダーはゆっくりと、されど楽しげに歩いて森を抜けていく。
「さぁてっと、この狩りは誰にも邪魔はさせないからな」
そう言って見据えるのは鞍馬家。しかし彼はその奥を見据えた。
攻撃的な視線。これから絶対に何かをやらかすことは誰もが想像できる程のもの。
「とにかく準備だ。あと三割ほどやればいいかね」
ペイルライダーは踵を返しその場から離れていく。軽やかに、ただ何かの下見をした程度の動きで彼女達の元から去っていった。




