第三話 おねえちゃん 4
「みて~、せんしゃ~」
「結ちゃん。もうちょっと子供っぽいのにしないと」
「えー? だめー?」
「ダメじゃないけど、出来るならこういうのとか」
彼女はすっと差し出す。そこにはブロックで作られたチューリップが存在した。それを見た結は目を輝かせる。
「しゅごいしゅごい~♪」
欲しがる結にアンリ・マユは「はい」と微笑みながら手渡す。結は貰うとそれを手にとって色んな方向から眺め堪能していた。
そこでくぅ~とどこからともなく不思議な音が聞こえる。アンリ・マユが耳を澄ますとそれは結のお腹から発生していることに気づく。
「おなかすいた」
「みたいだね」
ブロックのチューリップを置くと結は急にだらし無い顔をし始める。
「じゃあ、ご飯にしようか」
アンリ・マユはテーブルの端にあらかじめ置いておいた包を自身の前に持ってくるとそれを解いた。その中にあるものは二人分のお弁当。
アンリ・マユは弁当の封を開け中身を広げる。そこで結にフォークを差し出してあげる。
結はそれを受け取ると手を合わせた。またアンリ・マユも片手を自身の正面へ持ってくると、どちらからでもなくいただきますと挨拶をした。
結は自分の弁当にフォークを差し入れると適当に料理を頬張っていく。
もきゅもきゅという音が出そうなくらいに詰め込み飲み込んでいった。
「だめだよ結ちゃん。女の子がそんな食べ方しちゃ」
ツンツンと左の頬をつついてやると結は詰め込むのをやめる。
「そうそう。喉を詰まらせたら大変だからね」
楽しげに食事する結を眺めながらアンリ・マユも食事を始める。
沙遊が自分達のために用意してくれた弁当。できればアンリ・マユが料理したほうが一番いいのいだが、彼女にはそれを行うことができなかった。
ただ単に作れなかったからではない。今まで何百、何千年という時間の中で彼女は食べ物に執着しなかった。
そのような生き方をしてきた人物が数日で調理技能を得られる訳もなく、沙遊の手を借りているおかげでまともな食生活を送っていた。
「ぽんぽんぱんぱん」
「そう。いっぱい食べたね」
空になった弁当箱を見せる結。アンリ・マユはそれを受け取ると重ねて包に戻す。
「それじゃ、次はお昼寝だね」
「うん」
結は素直に返事をしたところでアンリ・マユは椅子から体を起こし、右手で結を抱え下ろす。
そこで手招きして寝床へ案内する。
テラスから少し移動した位置、二人の正面にはこれまたロココ調の天蓋付きのベッドがあり、至る所に植物のツタや花が存在した。
結は靴を脱ぐとそそくさと布団の中に潜り込む。その隣にアンリ・マユは入りベッドで横になる。
「すぐ寝れる?」
紅い隻眼で尋ねる彼女に対し幼女は首を横に振った。
「そ、じゃあお話をしようかな」
結の頭を撫でながら話をし始める。それは夢へと誘う物語。かつて誰かが自らを寝かせるときに話してくれた物語だった。
「昔々、あるところに……」
しばし語り続けたところで、幼女はまぶたを下ろしいつの間にか寝入っていた。それを見た彼女も気持ちを落ち着かせ、意識を手放し共に夢の世界へ旅立っていくのであった。
* *
夜、アンリ・マユは久々に包帯を取った。
それは交換のためではない。必要がなくなったから取ったのだ。
現れる四肢は前と同じ様に白を保っていた――訳ではなかった。
左半身の一部が変色していたのだ。純白とも言える綺麗な白の反対、澱んだ黒に。
絵の具を混ぜて作り出した様な鈍い黒。それは左腕から肩口までが斑に変色しており、指先は完全に黒く染まっている。
また足の方も同じように根元からふくらはぎまでが斑でつま先はどす黒く変色している。
腹部や腰のあたりも点々と黒が続き、その顔にも異常が現れている。
紅い右目に対し左目は金色になっていた。強い衝撃によって網膜の細胞が壊死し、光彩の色が変化していた。
一応左目で見ることはできた。けれど視界に映るのは全て白。
光を感じることはできるものの、モノや何かを詳細に見る機能は失われていた。
「何か……変な感じ」
小さく顔をしかめながらもアンリ・マユは浴室の扉を開けて中に入る。そこにある大きな鏡で自分の体を上から下までじっくりと眺めた。
「……酷い体」
そこに映し出されるは白と黒が混ざり合った少女の裸体。その混合の仕方は美しいとは呼べず、明らかに何かを患っているというのを理解させる比率だ。
それでも体のいくらかは変わらない。腰までかかる真っ白な髪は以前と同じような艶を持ち、片目の変色以外は顔も大きな変化はなかった。
首も細く、その下にある二つの乳房も一般的な女性と比べると割と大きいという点とその先にある乳頭の色が桜色で形が綺麗という点も変わらない。
腹からつま先に至っても形状的な変化は見られず、以前と同じままだった。
けれども、色味が変わったことに対して少女は気を落とす。別にこだわっていた訳ではない。誇りを
持っていた訳でもない。しかし、何かが失われたことだけが胸を刺した。




