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第三話 おねえちゃん 2

「どこにも行かないよ」


 ――のはずだった。しかし口から出た言葉は正反対の意味合いを持つものだった。

 ……今私は何を言った?

 彼女は自身が口にした言葉に驚いた。それもそのはず。どこにも行かないという回答は彼女の中に用意されていないもの。故に困惑して当然なのだ。


「わたし……私は」


 言葉につまるアンリ・マユ。すぐさま言い直そうとするも中々言葉にできない。それを知ってか知らずか沙遊の涙はひきはじめ、顔は花が咲きかけていた。

 その顔を見てアンリ・マユは再度口を開く。


「私は、沙遊といつまでも一緒に居る」


 もう一度紡がれた言葉に躊躇いは無かった。むしろ強い意志を持って彼女は答えたのだ。


「……おねえちゃん。――おねえちゃん!」


 急に顔を上げた沙遊は満面の笑みを浮かべて自分よりいくらか大きい彼女に抱きつく。そんな少女を彼女は愛おしそうに見つめたあと、そっと頭に手を起き撫ではじめる。


「うん。ずっと居るから。沙遊が大きくなって結婚して、子供を産んで、よぼよぼのおばあちゃんになって天国に行く日まで私はずっと隣に居るよ。だから……」


 ――だからこそ私は私の意志を持って彼女と深く繋がりたい。結ばれたい。


「私と――契約して」


 少女は頷いた。おそらく、契約という言葉の意味は知らないのだろう。けれど頷いたと言うことはアンリ・マユが考えていたことは分かっていたのだろう。


「うん! 私けいやくするよ」


 でなければこのような無垢な笑顔を彼女に向けるはずがないからだ。


「ありがとう沙遊」


 アンリ・マユは右手を伸ばし沙遊の左手を握る。

 彼女は再び謳い、手から光を発生させる。その光はアンリ・マユから沙遊へ流れたあと何事もなかったかの様に消失した。


「契約完了。これでいつでも二人は一緒だから」


 こうして二人は契約し、血縁や繋がりを超えた絆を結んだ。

 簡単には切れない絆。それはどれだけのことが二人に降りかかっても切れることはないだろう。


「大切にするから。貴方のことをずっと」


 ……そう。海よりも深く、山よりも高い愛情を持って。

 彼女は願った。腕の中に収まってしまう少女が幸せになることを。そして、彼女は初めて自分の意志で他者の安寧を願ったのだった。


            *             *


 それからの日々は裕子が死ぬ前と同じくらい――いや、裕子が死ぬ前よりも楽しげになっていた。

 朝早くに二人は起床し、仲良く朝食を作り始める。

 通常アンリ・マユ含めたセンチュリオンは沙遊達の世界に干渉できない。だけどアンリ・マユは持ち前のスキルで侵食と返還を繰り返し出来る限りで少女の手伝いをした。

 沙遊がお味噌汁のだしをとっている間、アンリ・マユは豆腐とわかめを仕込む。

 右手しか動かない状態で不器用ながらも、手を切ることなく調理し、仲良く一つの料理を完成させる。


「あとはお魚。わたし焼いているから今のうちにおにいちゃんとゆいちゃん起こしてきてもらえる?」

「分かった」


 アンリ・マユは沙遊のお願いを聞き入れると調理場から離れる。

 襖をあけ、半身を引きずりながら廊下を歩いていく。

 しばらくして伸一の部屋につくと襖をを侵食し、いつもの様に中に入り布団の前へ。


「咲き乱れて《クレイドル・オブ・フラワーズ》」


 そこで捕縛陣を発動して伸一を自分の世界側へ引き込む。

 彼女はゆっくりと腰を下ろすと右手を伸一の額に載せ、撫ではじめる。


「起きて、伸一」


 愛おしそうに手を動かし頬に触れ、唇をなぞり、鼻をくすぐる。

 体を触れられているからか、むず痒さからかは分からないが伸一は小さく呻くと意識を覚醒し始めていく。

 まぶたが開く瞬間、アンリ・マユは捕縛陣を消滅させる。


「あさ……か」


 目をゴシゴシとこすったあと伸一は辺りを見回す。そしてこちらもいつもの様に不思議そうな顔をした。


「誰か居たような気がするのにいつも居ないんだよなぁ」


 アンリ・マユはその様子を微笑ましい表情で見つめたあと、ゆっくりと立ち上がる。


「ま、いいや。悪い気はしないし。とりあえず顔洗ってこ」


 伸一は布団を適当にまとめると部屋の角に押し付け、襖をあけて外に出る。その後ろをアンリ・マユは牛のようにのんびりとした速さで同じく部屋をあとにする。


「次は結ちゃん」


 彼女は廊下に再び出ると、結の部屋へと向かう。

 のろのろとした動き。それでも以前よりはしっかりとした足取りで――と言うより楽しげに廊下を進んでいく。

 進んだところで中庭の見える縁側に着くと、結の部屋に入った。


「花を咲かせて《クレイドル・オブ・フラワーズ》」


 部屋に入るなりまたもや捕縛陣を発動させるアンリ・マユ。全てに干渉ができるようになったところで結の布団まで行くと腰を下ろし、片手で布団をめくり始めた。

「結ちゃん。朝だよ」

 優しく声をかける彼女。その声を聞いた結は眠そうな声を上げたあと、目をしょぼしょぼさせながら体を起こす。


「あさ~?」

「うん。朝」


 目をゴシゴシとこすったあと結は大きなあくびをし、目をぱっちりと開ける。そこで顔をアンリ・マユの方へ向けた。

 当然ながら捕縛陣は既に解除し、結に彼女の存在は認識できない。

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