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プロローグ

 第20回電撃大賞応募用作品のプロトタイプです。

 本作品は本編の設定の確認、各キャラクターの性格の変化、今に至るまで、設定の抜け等を調べるために執筆しました。

 おかげでたくさん穴があいていたのでびっくり! 書いてて良かった。



 本作品が多くの人の目に止まればいいなと思います。

 もしよろしければ最後までお付き合いお願いします。

プロローグ

 それはとても白く、汚れを知らぬ花のようだった。

 その白は作られた白ではなく初めから、原初の頃から存在する自然な白。それが彼女を簡単に表すことのできる言葉だった。

 上から下までが白。何にも汚されていないような純真さ。そのような白い少女の四肢は細身でありながらも引き締まっており、髪は白く長く絡まることなく腰近くまで伸びていた。

 存在を印象づける部位の一つである顔もあどけなさの残る少女のような顔つきでありながらも無表情に近く、精巧に作られた人形のようだった。


 魂のこもっていない作り物のような存在。けれど長いまつげの下にある最高等級のルビー色――ピジョン・ブラッドのような紅色の瞳は輝いており、生命の流れを感じ取れた。

 また身に纏っている服は白いナポレオンジャケットに白いキュロット、その上には白いショールと全てが白。その足元の靴もブーツでありながらも白という徹底された服色で構成されている。

 

 そんな白い少女のいる場所は時代の変化が伺えない古風な神殿のような建物。四方が石作の壁に覆われており、天井はなく代わりに青い空が見えた。

 されどそれだけじゃない。彼女の周りには複数の男女が囲う形で立っていた。各々が武器や道具を持ち、その攻撃部位を彼女に向けながら。


 そんな彼らの表情は……穏やかな物ではない。明らかに白い少女を睨んでいた。それは、白い少女に対し快くないものを持っていることの表れでもあった。

 対する白い少女は左手に不可視の武器を持ちながら言う。――お前達はつまらないと。

 どのような意思で、どのような意味を含んで言ったのか分からない。けれど、彼女は今までの生き方に退屈していた。


 躊躇いを見せぬまま左手に持つ不可視の武器を振るう。二度三度と振るわれる武器。その度に地面は抉れ、壁は吹き飛び、空は裂かれる。

 彼らはそれを軽々避けると、白い少女に向かって反撃する。

 互いにぶつかる攻撃。空気を震わし、空間を震わし、その場に居る者同士を震わせる攻防。

 一対多数。戦いは一方的だった。一方的だったはずだった。ところが、実際は驚くべき状況になっている。


 白い少女は全ての相手に対し、一人で渡り合っていた。四方からの攻撃を左手に握る武器で防ぎ、受け流すと同時に反撃する。

 止まらぬ攻撃。されど白い少女は舞う様に戦い続ける。その姿は凛々しくも淑やかで……。

 されど一撃一撃に重みがあり、見た目とは反する爆発力のある力で相手を圧倒する。

 一時の間、力は拮抗する。――しかし無類の強さを誇っていた白い少女にも限界が表れる。


 当初無傷だった白い少女の体は徐々に怪我を負い、漆黒の液体――通常ではありえない黒い血を流していた。

 どす黒い血。まるで墨汁が流れ出ているかのように不気味な色の血が床にまで滴り始める。

 それを見て悟ったのか、彼らは一気に畳み掛けてきた。


 一人が白い少女の右腕に取り付き、一人が武器を持つ左腕を可動し得ない方向へ捻じ曲げる。

 続け様に一人が左足を掴み、他の者を下がらせ彼女をヌンチャクの様に地面へ壁へと叩き付ける。

 ビチャリと飛び散る黒。白く美しいその姿は次第に不気味な黒に汚染されていく。

 だがそんな状態でも白い少女は諦めることなく武器を振るい、相手を退ける。


 危機を脱し再び武器を構え、飛びかかろうとする少女。そんな中新たに一人が白い少女の背に立ち彼女の頭を掴み、一気に引っ張っていく。

 ミシミシと頭蓋が軋む音を立てながら引き寄せられた白い少女は勢いをそのままに、人が出しうる力をはるかに超えた怪力で地面にめり込まされる。

 バキャリと嫌な音が辺りに響いた。続いて痙攣を起こす四肢。


 通常ならこれで決着はついた。しかし、攻撃は終わらない。頭を掴んだ手は離れることなく、何度も頭部を持ち上げては地面に叩き付ける。

 人であれば死んでいるはずの相手に過剰なまでの殺害行為オーバーキル。どう考えてもやりすぎだ。

 何度も叩きつけられるたびに地面は放射状に砕け、黒い雫を散乱させる。

 最後に大きく振りかぶってから叩き付けたあと、ようやく頭から手が離れた。


 頭の潰された虫ケラのようにピクピクと動く肉体。一人に対して――少女相手に対して凄惨過ぎる状況。それを行ったのに彼らは特に思う様子もなく白い少女の周りに立ち眺める。

 一人が言う。終わったなと。

 その場に居た誰もがそう思った。そう思った途端――白い少女の右腕が弾けた。


 突然の動きに驚く彼ら。彼女の腕のある方向に立っていた者達が吹き飛ばされる。

 白い少女はまだ、死んではいなかった。それを証明するかのごとく大量の黒を撒き散らしながら立ち上がる。

 顔は見えなかった。完全に黒に塗りつぶされていた。だけど、紅色の目だけは怪しげに輝く。


 その目を見て彼らは怯む。だが、先ほど過剰攻撃を行った者がすっと前に出た。

 全身を震わせ、ズシリと一歩踏み出す。それに合わせるかの様に白い少女もゆらりと歩を進める。刹那、二人はその場から爆ぜた。

 爆音と轟音の両方を発生させながらぶつかり合う二者。白い少女は〝痛い〟と言うのを当に超えている体で暴れた。対する者も全力で拳を振りあげ、ぶつかる。

 共にギリギリの位置で攻撃し、防ぎあう。そんな中白い少女の武器を振るう手が若干鈍くなる。それと同時にバランスも崩していった。


 それを見た相手は引くことも躊躇うこともなく、白い少女に向かって凶撃を放つ。

 迫り来る一撃死の攻撃。彼女は反応こそはしたものの動けなかった。そしてそれは鈍い音と共に白い少女の側面にめり込み、背骨を振るわせる。

 口から大量の黒を吐く白い少女。彼女は膝を崩し、その場に止まってしまう。

 恨みがましく紅色の瞳が緩やかに四方を見た。見られている彼らは毅然とした態度で少女を睨む。

 最中一人が一歩踏み出す。釣られるように他の者も歩を進め始める。

 死相が見える白い少女を見た彼らは、止めを刺すべく全員で彼女を囲む。静かに振り上げられる多くの武器と道具。白い少女は止めを刺しうるそれらを目で追うことしか出来なかった。


 一人の合図と共に、一斉に振り下ろされる狂喜の一撃。白い少女は死を悟る。

 ……この攻撃を喰らって私は死ぬのだろうと。そう思ったとき、彼女は歯を食いしばった。

 攻撃に備えてではない。――生きるために歯を食いしばったのだ。

 振り下ろされる攻撃よりも早く、白い少女はその場から飛び退いた。

 動けるはずがなかった。だけど動いた。その時死にかけた彼女を突き動かさせたのはどのような生物でも持ち得る原始的な願望だった。それは――〝死にたくない〟と言う願望。

 そして彼女は落ちていく。長きに渡って居座り続けた楽園シャングリラから数多の生物が居る地上へ。

 こうして退屈を感じた白い少女は楽園を追放された。それは知恵の実を食べたアダムとイブのように……。

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