アメリカ軍?
「アメリカ軍が模擬戦を申し込んできたの?」
バハムートの司令室で七華の確認の問に十斗が頷く。
「そうだ、独自(アクセント付き)で開発した兵器の有効性を確認したいらしい」
その場に居た全員が苦笑する。
「このタイミングで言ってくるなんて、キクイチモンジやムラサメの技術を応用してるのが一発で解るな」
五郎の言葉に十斗も頷く。
「そうだろうな、しかしあくまで独自で開発したって言い張り、DSSの必要性を否定したいんだろうよ」
五郎が苛ついた表情で言う。
「奴等のやり方は変わんねーな」
「世界のトップって意識がある以上、DSSすらも自分達の支配下に収め、更なる発言力を得たいんだろうが、こっちとしてはそんな茶番に乗ってやる必要は無い。ここで思いっきり奴等の独自(アクセント付き)開発した兵器をぶち壊してやれば良い」
十斗が竜騎機将のパイロット二人にそう言う。
「勿論です」
胸を張る十二支。
「まー適当に」
やる気が全く感じられない七華であった。
「これが竜騎機将か」
金髪で精錬といって良い外見をした青年が、竜騎機将のコックピットの中で興奮した様に呟く。
『どうでしょうかお買い上げいただけますか?』
スピーカーから、十三の声がする。
「ああ買おう」
そしてコックピット全体から竜の声が響く。
『我との契約も忘れないで貰おう』
その言葉にもその青年は頷く。
「ついでだ、猿真似しか能が無いイエローモンキーも潰してやるわ」
高笑いをあげる。
家の自分の部屋で、アメリカに行く準備をする七華。
そんな七華を後に立ち八子が言う。
「アメリカに行くのよねー」
「そうだけど何? お土産だったら一万円までだったらリクエストに答えるよ」
そう普通に答えた七華であったが、八子は心配そうな顔をして言う。
「あっちではレズの人が多いから気をつけてね」
突っ伏す七華。
「あなたヤヤさんの事をヤヤ姉さんって呼んでるし、何時も三美ちゃんといるからそっちの気もありそうだから忠告しておくけど。一度嵌ると抜け出せなくなるそうよ」
八子の追い討ちに、七華はなんとか耐えて、振り返り言う。
「漫画やアニメを直ぐ信じないでよ。アメリカだって異性同士のカップルのほうが多いよ。第一何に嵌るって言うの!」
八子は平然と答える。
「同性のフィンガーテクニックって凄いらしいわよ」
鞄を持って、その場から逃走する七華であった。
「アメリカだねー」
バハムートのオペレータルームに当然の様に居る三美が呟く。
「晴晴の家では娘が学校に行かずにアメリカに行くって状況をどう思ってる?」
七華の問いに、五郎があっさり答える。
「うちって放任主義だからなー。俺が自衛隊辞めて傭兵部隊に入ったときも、気を付けなさいの一言だけだったからな」
学校を休んだりするより重大な事があっさり受け付けれられる環境に七華は溜息を吐く。
「近頃の家庭は狂ってる」
無論それには霧流家も含まれている。
『スノボー一つで上空から飛び出せる人間には言われたくないと思うがな』
レイが呟く横で十二支が楽しげに言う。
「とにかくこれで僕の実力を見せれるな!」
そこに丁度来た九菜が言う。
「あー、やるのはナナカレイよ」
その一言に、固まる十二支。
「えー面倒だよー、竜と戦うんだったらともかく、あちきはやる気ないから十二支さんに任せたら」
七華の言葉に十斗が言う。
「そーもいかん、イフシゼロはワイバーンタイプだ、アメリカ軍が用意したのは今一番多い、竜騎機兵ヒドラタイプの対抗兵器だからな」
「だったら、十二支さんがレイと組めばいいと思うよ」
凄くやる気なさげな七華。
「僕は構わないぞ」
やる気が一杯ある十二支。
「解ったそれで良い」
十斗が溜息を吐く。
「九菜すまないが調節頼む」
「了解、どうせ、お遊びだからね」
九菜が平然と言う。
いつの間に作られて居たバハムート内の七華の部屋で、横になる七華とお土産リストを確認する三美。
「ねーねーブンさんにお土産買うの」
「当然の事、言わないでよ」
大して気にした様子も無く七華が答える。
そして三美が七華の方を向く。
「七華なんで今回やる気無いの?」
七華は少し困った顔をしながらも答える。
「あちきが霧流だからだよ」
「どういうこと?」
疑問符を浮かべる三美に七華は起き上がり自分の胸に手を当てて言う。
「あちき達霧流は、竜と戦うことに全てを懸けているの。だから竜を倒すことだけなら他の八刃にも負けない自信があるよ。だからこそ竜以外と戦うのは嫌いなの」
少し考えた後、三美が頷く。
「そう言えば、普段七華が戦ってる所見たこと無いね」
「今回は、十二支さんにお任せだよ」
そう言って、再びベットに横になる七華であった。
アメリカ軍の軍事訓練施設の一つ、そこに総勢百機近い特殊戦車と戦闘飛行機の混合部隊が在った。
「塵も積もれば山となる作戦?」
バハムートのオペレータールームでその風景を見ていた七華の呟きに苦笑する九菜。
「あたしの見たところ、既存の戦闘機にキクイチモンジで使ってる兵器を搭載したと思うわ」
その言葉に大きく溜息を吐く一同。
「それにどれだけの意味があるんだ?」
五郎の言葉に九十九が言う。
「拳銃を持った子供位は怖いと思いますよ」
鼻で笑う五郎。
「拳銃を持った子供相手に、大の大人が倒せるって考えてるんだとしたら、随分楽観主義者だな」
「ヒドラ相手にするならともかく、レイ相手じゃ銀球鉄砲だな」
十斗の言葉に、三美が手を上げて言う。
「銀玉鉄砲って何ですか?」
その言葉にそこに居た男性陣が固まる。
「オイオイお前の妹なんで銀球鉄砲を知らないんだよ?」
十斗の言葉に、悩む五郎。
「きっと女の子には興味が無いんでしょう?」
フォローに入る九十九。
「あちき達の時代だと、大半の男の子がゲームボーイやカードゲームに嵌ってたから流行らなかったのんだよ」
それなのに何故か知っている七華の回答に落ち込む男性陣であった。
「何落ち込んでるの?」
三美の素朴な疑問に、双葉が遠い目をして言う。
「そっとしといてあげて、五郎達は、時代の流れの速さに打ち負かされただけだから」
「それと今の中学生ってアニメ版セーラームーンをリアルに見たことある人間居ないよ」
七華の呟くと、驚く双葉と九菜。
「そんな、不滅の名作を知らないの?」
九菜が三美の肩を掴み問い詰めると三美は一言。
「セーラームーンってコミックが実写やミュージカルになったんじゃ無いんですか?」
崩れ落ちるオペレータの女性スタッフ達であった。
「こうやって大人は、時の流れの残酷さを知るのでした」
七華が締めようとした時、メイン画面一杯に竜騎機将イフシレイに乗っている十二支の顔をが映る。
『ふざけてるな! とっとと準備始めろよ』
その言葉に十斗が言う。
「もう終わる安心しろ」
その言葉に合わせるようにアメリカ軍側の責任者が通信してくる。
『こちらの準備はもう宜しいのですが、そちらの無駄な人型兵器はどうです?』
悪意テンコ盛り言葉に、さっきまでの和やかムードが払拭される。
「あいつ等の本当に、考え方変わってないな」
五郎が睨む。
「こちらももう直ぐ終わります。所で本当に良いんですか?」
十斗の質問に余裕な笑みを浮かべるアメリカ軍側の責任者。
『その言葉全て貴方達に返すよ。本当に良いのかね実弾でやっても?』
「そうでないと実際の竜騎機兵対応実験にならないでしょう」
十斗が肩を竦ませて言うと馬鹿笑いをあげてアメリカ軍の責任者が言う。
『君達の犠牲は我等世界の軍隊であるアメリカ軍の礎と成る。誇りに思え』
通信が切れると、十斗が言う。
「最初は受けてやれ、そして意味が無い事をハッキリさせた後、全部叩き潰しちまえ」
全員が大きく頷く。
『了解任せておいてもらおう』
『豆鉄砲が効く我では無い』
十二支とレイが力強く了解した。
『久しぶりだが、少しはましに成ったのか?』
竜騎機将イフシレイのコックピットの中にレイの言葉が響く。
「たかが米軍のおもちゃだ大して、気負う必要も無い」
十二支が自信たっぷり答える。
そして、今まさに開始の合図が出されようとしたその時、それは天から降下して来た。
「何だあれ」
それは、人のシルエットを持ち装甲を身にまとった竜だった。
『私の名は、サウザント、ブルーブラッドのサウザントなり。愚かな民主主義の象徴米軍をここに打ち滅ぼしに来た者』
次の瞬間、サンザントが操る、竜騎機将の手から放たれた炎と氷が、アメリカ軍の戦車を破壊していった。
「ブルーブラッド?」
三美が首を傾げるが、七華はもう、移動していたので、双葉が答える。
「封建主義者が作ったテロ組織よ。身分制度の復興こそが今の世界を救うと本気で信じている人たちなの」
「言ってる理屈が下手に通りがあるから厄介な奴等だ。人間は世界より自分が重いって真理を知らない奴等だがな」
十斗がそう言ってから、メイン画面に映る十二支に言う。
「一度戻れ、お遊び用イフシレイでは竜騎機将相手は無理だ、戻ってイフシゼロで出撃だ」
『了解』
十二支が答えたその時、レインが駆け込んでくる。
「皆さん大変です。エンペラードラゴンのエースがこちらに来ているそうです」
その言葉に十斗が指を鳴らす。
「おしいな。ワンタイミング遅かったぞ」
レインが画面に映る竜騎機将を見て、驚く。
「エンペラードラゴンが竜騎機将だなんて……」
三美が手を上げる。
「はーい。エンペラードラゴンって何ですか?」
その言葉にレインが画面内の竜騎機将を見つめながら答える。
「竜は属性を持っています。しかし中には複数の属性を持つ竜も居ます。その竜をロードドラゴンと通常は呼びます。そして基本属性である光を除く全ての属性を持つロードドラゴンをエンペラードラゴンって言います。エースさんは、レインボードラゴンをライバル視して居ました」
その言葉に十斗が納得する。
「つまり態々ライバルを追ってこの世界に来たって事だな、レイ勝てるか?」
その言葉に帰還中のレイが答える。
『こないだのダークスタードラゴンの時と一緒にするな、竜の力で負けるなんて事はありえないぞ』
自信満々なレイの言葉に十斗が頷く。
「アメリカ軍の奴等は撤退させる、その時間を稼げ五郎」
竜騎機将を見て、直ぐにマサムネのコックピットに向かっていた五郎が返事をする。
『任せておけ!』
「アメリカ軍から通信入ります」
双葉はそう言って、通信回線を開く。
『そちらの竜騎機将は逃げ帰ったみたいだな。まーここは我々に任せてもらおう』
余裕たっぷりの言葉に十斗が言う。
「お前等の兵器は訓練レベルだ、実戦では、竜騎機将相手は無理だ直ぐに撤退して、DSSに任せろ」
アメリカ軍側責任者は鼻で笑う。
『不要だよ。我等アメリカ軍はカビの生えた主張しか出来ないテロリストには負けない。手出し無用。もし邪魔をするようなら排除、訴えさせてもらう』
その言葉にオペレーター達が顔に怒りを浮かべる。
通信が切れた後、双葉が言う。
「指令、五郎の出撃はどうしますか?」
「出撃させておけ、一応手出しをするなと釘をさしてな」
十斗の言葉に双葉が困った表情をしながら言う。
「でも五郎だったら、勝手に戦い始める可能性があります」
恋人の性格を熟知している双葉の言葉に十斗がにやりと笑い言う。
「その時はそん時だ。責任は私がとる」
アメリカ軍の軍事訓練施設では、ブルーブラッドの竜騎機将相手に新型兵器を撃ち込んでいく。
「何時までもジャップが作った組織にいい気にさせておけるか、行け!」
小型ドラゴンキラー、ドラゴンファングを元に無駄な表面発光装置を排除し、強化した(とアメリカ軍が思ってる)ドラゴンミサイルの弾幕が竜騎機将を襲う。
爆煙が消えたそこには無傷な竜騎機将が立っていた。
愕然とする先程から十斗に嫌味を言っていた、今回のプロジェクトの責任者、ジャック少佐。
「ジャック少佐、DSS側から貰ったデータに虚実があったのでは?」
部下の言葉に頷くジャック少佐。
「姑息なまねをしおって、この恨みは忘れんぞ!」
「にしても、ドラゴンキラーの特性を見事なまでに無効化した兵器ね」
バハムートのオペレータールームで九菜が呟く。
「確かにな、ドラゴンキラーは、竜の世界を無効化する為の特殊な魔方陣を表面に展開する事に意味があるって言うのにな」
十斗も頷くと三美が疑問符を浮かべていると双葉教える。
「ドラゴンキラーは確かに竜の有効な合金で作られているけど、本質は違うの。ドラゴンキラーをドラゴンキラーとしているのは、表面に展開される魔方陣なのよ。それが無いドラゴンキラーは単なる通常兵器だから、竜の世界を無効化出来ないのよ」
「つまり、アメリカ軍は弄繰り回して、無意味な物を作ったって訳だね」
三美の言葉にオペレータルームから失笑が上がる。
『そんな事より、あちき達の出番は?』
今回一番やる気が無かった筈の七華がやるき満々で準備を終えていた。
「もう少し待て、直ぐにあいつ等が諦める」
十斗の言葉に七華が言う。
『軍人って兵隊の事を駒としか思ってないから、何人も死んでからじゃないと諦めないよ。上手く交渉するのが十斗さんの仕事だと思うけど』
その言葉に大きく頷く十斗。
「まーな。だが、被害のほうは気にしなくても良い。私達が何にも言わなくても動く奴をもう外に出してある」
『五郎がもう出てるのだったら大丈夫だ。きっと減給されるのも解ってても何とかしてくれるでしょう』
大きく溜息を吐く双葉。
「これでまた結婚式が遠くなる」
その言葉に周りのオペレーター達が同情の涙を流す。
「ふん、くだらんな」
竜騎機将のコックピット内で十三と話していた青年が言った。
『早くこんなゴミを始末しろ、あいつが準備を済ませてくるのだからな』
エースの声が響く。
「そうだな、何時までもこんなゴミに関ってるだけでは、時間の無駄だな。王に仕えし我が王宮魔術師の血族の力今見せよう」
常人では発音すら出来ない呪文を唱える竜騎機将に乗る青年、サウザント。
『デッドフレイム』
地獄の炎がエースの魔力で増幅してアメリカ軍の機体に一斉に襲い掛かった。
アメリカ軍の軍人達が目の前に迫る炎に死を覚悟したその時、上空からミサイルが降ってくる。
次の瞬間魔法の炎を消滅する。
「何時までも好き勝手やらせておけるかよ!」
五郎がマサムネのコックピットでにやりと笑う。
『最初に言っておくが、新兵器、マジックキャンセルミサイルはお前、隊長命令で発射したんだからな』
九十九の言葉に五郎が眉を顰める。
「何が言いたいんだ?」
『詰まり、お前の一存だから減給はお前一人だってことだよ』
スピーカーから聞こえる十斗の声に驚く五郎。
「ちょっと待て、どうしてだ! あのままほっとけば大量の死人が出たぞ!」
『お前の気持ちは良くわかる。しかしなー命令違反をした奴に罰則を与えない訳には行かないんだよ』
十斗が同情したような声で言うが、後ろから爆笑が流れてくる。
「因みに何で俺だけなんだ?」
その言葉に九十九が即答する。
『私達は隊長の命令に従っただけです』
苦虫を噛み潰した顔になる五郎。
「お前等まさか最初っからこうなる事解ってたな!」
『相手がこっちに注意を向けてる、次の行動指示を隊長』
九十九はあっさり話を変える。
五郎は深呼吸をした後を言う。
「どうすれば良いんだ?」
それに対して双葉の声が答える。
『アメリカ軍との交渉は終わったわ、これからナナカレイとイフシゼロを出すから、その時間を稼いで!』
「もう少し早くしろって言っといてくれ」
五郎がそう答え、エクスかリバーの準備を始める五郎。
そこに秘匿回線で双葉から連絡が入る。
『五郎これ以上結婚遅らせたくなかったら、良いように指令に利用されないでね』
その言葉に相手に見えないのに頷き五郎が言う。
「解っている」
『本当にお願いだからね』
そして双葉との通信を切った後、五郎が大きく溜息を吐く。
「隊長なんてやるもんじゃないな」
そう言いながらも、レーダーと長年培ってきた感で相手の攻撃範囲を予測して指示を出す。
「キクイチモンジ1~3は2時の方向を、4~7は、マサムネ1の側面に展開、ドラゴンファングを撃ち込みながら接近しろ、俺がエクスカリバーでダメージを与える」
『キクイチモンジ1了解』
『キクイチモンジ2了解』
『キクイチモンジ3了解』
『キクイチモンジ4、マサムネ1の二時方向に平行飛行』
『キクイチモンジ5、マサムネ1の三時方向に平行飛行』
『キクイチモンジ6、マサムネ1の十時方向に平行飛行』
『キクイチモンジ7、マサムネ1の九時方向に平行飛行』
次々と打ち出される小型ドラゴンキラー、ドラゴンファングが、ブルーブラッドの竜騎機将を牽制する。
『こしゃくなまねを!』
流石に、アメリカ軍相手にした様に無視が出来ないようで、武装の迎撃用小型ミサイルを連射する。
その瞬間、動きが止まる。
「所詮素人だな。エクスカリバー!」
七華が提供した、万年竜の骨を元に作られた、竜牙刀と同じように竜魔法がかけられた弾丸を打ち出すエクスカリバーの直撃を受けて、膝を着くブルーブラッドの竜騎機将。
「こっちは仕事やったぞ!」
「竜武、如月型・弥生型準備終了しました」
双葉の声に十斗が頷く。
「竜武、如月・弥生準備」
「竜武、如月型射出体勢に移行同時に、竜武、弥生型発射装置に装填して下さい」
双葉のアナウンスにそって、竜武如月型を格納した竜武玉が発射台に移動され、一本の巨大砲台に竜武弥生型が入った竜武玉がセットされる。
双葉は、竜武玉が完全に射出装置に固定されたのを確認した所で、専用スライドレバーを大きく後に下げて、固定しアナウンスを流す。
「これより、竜武弥生型を発射します。各員対ショック体制を取ってください」
そして、司令室の画面中央に射出用ターゲットが二つ現れ、オペレーター達が一斉に最後の微調整を行い、目標地点、空中を滑空する七華と十二支にマークが重なる。
「竜武、如月射出・弥生発射!」
「竜武、如月型射出・弥生型発射します!」
双葉が、専用スライドレバーの解除と同時にスライドレバーが前方にスライドする中、プラスチックでカバーされたスイッチをカバーを叩き割りながら押す。
それに合わせて射出装置が移動し、如月型が入った竜武玉は特殊射出用デッキから射出され、弥生が入った竜武玉が巨大砲台から発射される。
「高度・距離カウントします。8000/2000・6000/1600・4000/1200・2000両方共、1000を切りました、魔方陣開放承認お願いします」
十斗が二本突き出した専用レーバーを握る。
「真竜開放魔方陣展開」
十斗がレバーを両側に開き同時に直ぐ隣の円形の専用ハンドルを握り締めて、レバーを大きく回す。
竜武玉の外殻が割れる。
そしてそれは空中で巨大な魔方陣に転ずる。
上空で、レイは自ら七華の体から離れ、魔方陣に向い、ゼロは魔方陣に接触する。
『汝戦う為にここに在り、戦いの姿をここに、レインボードラゴン』
『汝戦う為にここに在り、戦いの姿をここに、ゴールデンスカイドラゴン』
レイとゼロは、魔方陣からの漏れる竜人界から力を己が体に変換し元の姿に戻っていく。
レイの口から光の吐息が放たれ、七華を覆い、ゼロの金色のブレスが十二支を包み十二支の姿が消える。
四足をついた状態だったレイが、直立し、まるで人間の様な体型になり、ゼロはその巨大な翼はそのままに人のシルエットを形成する。
レイとの降下速度の差が縮まり、機械がレイの体の重要部分だけを覆い、ゼロの後方から迫ってきた装備がゼロの全身を覆った。
竜騎機将ナナカレイが竜騎機将オケンセンの前に立つ。竜騎機将イフシゼロが竜騎機将オケンセンの上を旋回する。
竜騎機将ナナカレイが手を振り上げ、
『望みの船から舞い降りる』
竜騎機将イフシゼロがバハムートを背負い、
『望みの船から飛び立った』
二人でブルーブラッドの竜騎機将を指差す
『穢れし欲望を斬り裂く者』
『穢れし欲望を打ち破る者』
竜騎機将ナナカレイが拳を両拳を打ちつけ、
『純粋なりし刀』
竜騎機将イフシゼロが両手で印を作り、
『高尚なる印』
腕組をして見下ろす様にし、両手を腰に当てて見下して宣言する。
『竜騎機将ナナカレイ』
『竜騎機将イフシゼロ』
「ここからが本番と言う訳だな。行くぞエース!」
ブルーブラッドの竜騎機将を立ち上げ、サウザントエースのコックピットでサウザントが言う。
『ついに決着をつける時が来たようだな』
高揚したエースの声がコックピットに響く。
『良い度胸だ、我の実力を見せてやろう』
ナナカレイのコックピットにレイの声が木霊する。
「気負いすぎないでね」
七華がそう言って、相手の様子を窺う。
『死ね、アースプレッシャー』
『ドラゴンアイス』
地面が裂けて、そこから氷塊が生み出され、ナナカレイとイフシゼロを襲う。
『血の盟約の元、七華が求める、戦いの牙をここに表せ、竜牙刀』
七華は、呪文を唱えて、竜牙刀をナナカレイに握らせるとその氷塊攻撃を受け流し、そのまま接近する。
「魔法使いタイプだね、接近戦で決めるよ!」
「終わったな」
上空に上がることで氷塊を回避したイフシゼロのコックピットの中で十二支が言う。
『何度模擬戦やってて、術使った隙を攻められて負けてますからね』
ゼロの言葉に、沈黙する十二支。
その時、十二支は不可解な物を見た。
それは、上空に何も無いのに動く影だった。
嫌な予感に襲われた十二支は咄嗟に通信機に向かって怒鳴った。
「七華何か後ろから来るぞ!」
『七華何か後ろから来るぞ!』
ナナカレイのコックピットに響く、十二支の声。
『何かって何んだ!』
言い返すレイだったが、七華は直感に従い、サウザントエースを攻撃するのを諦めて横に飛ぶ。
そして見た。自分達が一瞬前まで居た所に伸びる影の様な漆黒の刃を。
『何なんだ!』
叫ぶレイだったが、七華はかなり深刻そうな顔になる。
『その顔からして、何か知ってるのか?』
レイの問いに七華が、影から浮き出てくる竜騎機将を見つめながら答える。
「もしあちきの想像が外れていなかったら、これから出てくる奴は、オケンセン以上の強敵になるよ」
『馬鹿な、あのドラゴンは、ロードドラゴンだ! エンペラードラゴンより格下だ』
七華も頷く。
「あちきにもドラゴンは、レイより数段って言うか比べるのが間違いって程弱いのは解るよ」
その言葉にレイは気を良くする。
『当然だな。それで何を恐れる?』
七華が溜息を吐いて答える。
「今見せた技、あちきが知ってる系統の技だって事だよ」
『それに何の問題があるんだ?』
本気に解っていないレイ。そこに十斗の声が割り込む。
『まさかと思うが、神谷と同じお前の同類か?』
七華は、目を瞑り相手の気配を確認してから答える。
「うん、間違いない。八刃の一つ、谷走の人間だよ」
「間違いないんだな?」
バハムートのオペレータールームに十斗の真剣な声が響く。
『八刃の人間の気配って特別だから間違いないよ』
七華の言葉にオペレーター達は、オケンセンとの激戦を思い出し緊張する。
「あの竜は、ロードドラゴンのキングです。エンペラードラゴンのエースの部下みたいな者です」
レインの言葉に舌打ちする十斗。
「面倒な奴が現れたな」
双葉が進言する。
「超竜騎機将ナナカレイゼロになった方が良いのでは?」
九菜が首を横に振る。
「それが駄目なの、アルテミスの祝福は一度使うと次の満月の光をあてるまで使えないのよ」
「竜の力は上回っている。何とか出来る筈だ」
十斗が絞り出す様に言った。
「遅いぞ、ハンドレッド!」
サウザントエースのコックピットでサウザントが怒鳴る。
目の前に頭を下げる黒髪の青年が映る。
「すいません」
『理不尽な怒りだな、お前が自分単独でやると言っていたんだろうが』
エースが突っ込むと、怒鳴るサウザント。
「うるさい。相手が二体なのだから当然こちらも二体で問題なかろう!」
『その通りですサウザント様』
あっさり同意するハンドレット。
「とにかく奴等を近づけるな。私が大魔法で打ち滅ぼしてやるわ!」
『了解しました』
そして長い詠唱を開始するサウザント。
『谷走は、簡単に言えば忍者みたいな存在なの。そして、影を使った技が多く、今さっきみたいに影を使った移動なんて事も出来るよ』
七華の忠告をイフシゼロのコックピットで聞きながら十二支が答える。
「八刃の人間だけが凄いと言うわけじゃないことを僕が示す」
『子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥。時空を司る十二の獣よ我が意に答え、我が式神と成りてここに』
寅のボタンを押して、空中に寅の護符を放出する。
『雷寅』
『ゴールデンドラゴンパワー』
十二支の式神、雷を纏った虎が、ゼロの魔法で強化され、一気に新たに現れた竜騎機将ハンドレッドキングに迫る。
『常人の力で、八刃に勝てると思うな』
ハンドレッドはそう言うと、ハンドレッドキングの手を地面の影に付ける。
『影刃』
雷寅の影から無数の刃が生まれ、その身を切り刻む。
「とんでも無い技を持ってるな」
そう言う十二支の頬に冷や汗が流れる。
「竜騎機将が二体か厄介だな」
そう呟く五郎。
『それも一体には八刃の人間が乗っているらしいな』
九十九の言葉に五郎が首を傾げる。
「なー何だその八刃って?」
通信機から本来は伝わらない筈の沈黙が、五郎のマサムネのコックピットに響く。
『五郎、ちゃんと作戦会議聞いてる?』
双葉の声に頬をかく五郎。
「すまん。必要な所以外は聞いてない」
その言葉に大きな溜息が通信機から複数聞こえる。
『七華ちゃんの霧流家、こないだのオケンセンのパイロットの神谷家といった、そっちの世界では有名な集団、それが八刃らしい。後から出てきた奴はその一つ、谷走家の人間みたいだ』
『そうよ。はっきりいって強敵らしいから気をつけて』
九十九と双葉が説明すると、五郎は笑みを浮かべる。
「ふん、なめるなよ。竜の力が弱いんだったら、マサムネでも十分対抗できる。俺がやっつけてやるよ」
再び沈黙が聞こえた気がしたが、直ぐ七華の声が聞こえてくる。
『それが正しいと思う。八刃の熟練者相手に中途半端なあちきや十二支さんがやるより五郎さんが相手してもらった方が良い。あちきが注意を引くから後お願いします』
ナナカレイが、竜牙刀でハンドレッドキングに斬りかかる。
『貴方の相手はあちきよ』
ハンドレットのコックピットのハンドレッドが手を前に突き出し唱える。
『影刀』
ハンドレッドキングの影から黒き刀が生み出される。
ナナカレイの竜牙刀とハンドレッドキングの影刀がぶつかり合う。
「竜の力は相手の方が上だな。しかしまだ未熟だな」
次の瞬間、ハンドレッドはパワーで押してくる、ナナカレイに対して半歩引き、勢いを逸らした瞬間、影刀の刀身が消し、反対側に具現化してナナカレイを斬る。
大きく後退するナナカレイ。
「止めておけ、所詮お前等霧流は竜の相手しか出来ない八刃のお荷物。やりあえば、谷走の私に勝てんよ」
そう断言し、止めを刺そうとした時、キクイチモンジのドラゴンファングがハンドレッドキングの足元を掘り返し、砂煙を作る。
ハンドレッドキングは慌ててその砂煙から抜け出したその後ろに、マサムネが居た。
『戦闘経験だったら負けてないんだよ! 行けロンギヌススピア!』
ハンドレッドは、咄嗟に左腕でロンギヌススピアを受ける。
『影刃!』
無数の影の刃が、マサムネに襲い掛かるが、五郎は、すぐさまマサムネを急速上昇させる事で、影の攻撃回避と影の面積を減らす事で無効化を行った。
『その技はさっき見せてもらったからな』
ハンドレッドの顔に一瞬だけ怒りの表情が浮かぶが、直ぐ元の表情に戻る。
「伊達に八刃の血を引いていないな。血の力こそ全てなのだからな」
ナナカレイを見てから唱える。
『影走』
『また影に消えたわ?』
ゼロの声が、イフシゼロのコックピットに響く。
「上空に居る限り、影からの攻撃は効果が薄いから関係ない。僕等の仕事は、あのサウザントエースの呪文を中断させることだ」
そして呪文を唱えようとした時、目の前にハンドレッドキングが現れる。
『サウザント様の邪魔はさせん』
「馬鹿な何処から」
十二支の問いの答えは、二機のキクイチモンジの墜落で判明した。
「キクイチモンジ同士が上下に重なった時に出来た影を使って移動したのか!」
必死に間合いをあけようとするが、それより先に影刀がイフシゼロを大きく切り裂く。
「イフシゼロ、戦闘不能。キクイチモンジフォーが空中で十二支とゼロを回収しました」
双葉の報告に十斗の顔に焦りが浮かぶ。
「これで二対一か?」
その言葉にオペレータールームの画面に映る七華が首を振る。
『あちき達は竜騎機将だけで戦ってないよ。そうでしょ九十九さん!』
その言葉、九十九の声が答える。
『当然だよ』
サウザントエースのコックピットの中で自分が放とうとしている大魔法の威力に微笑むサウザント。
『邪魔なゴールデンスカイドラゴンは消えた。止めを刺すぞ』
エースの言葉に頷くサウザント。
その時、ドラゴンファングがサンザントエースの頭に直撃する。
その為大きくコックピットが揺れる。
「何だ!」
サウザントの呪文が中断された。
『申し訳ございません。超遠距離からのピンポイント攻撃です』
ハンドレッドの報告に舌打ちをするサウザント。
「何をやっていた!」
頭を下げるハンドレッド。
『相手の陽動に乗せられて居ました』
「愚か者め。また最初から唱え直しだ!」
その時、サウザントの意識が薄らぐ。
「しまったもう限界か?」
頭を必死にふるが、サウザントの意識は弱まって行く。
『サウザント様、当初目的は達成しました。何時までも遊んではいられません。ここは一度、戻るべきです』
「イエローモンキーに尻尾を巻いて逃げろと言うのか!」
サウザントの言葉にハンドレッドは首を横に振る。
『違います。イエローモンキーの遊びにこれ以上付合う必要がないと言うことです』
その言葉に、もう一度無様なアメリカ軍の様を見てからサンザントが言う。
「良いだろう。ここは引くぞ」
『愚かな民主主義者どもよ。これが我等の力だ。この力を持って我等の理想は成就して見せようぞ!』
バハムートのオペレータルームでそのサウザントの捨て台詞を聞く十斗。
「ブルーブラッドの竜騎機兵は、二体とも影から消えていきました」
双葉の言葉に安堵の溜息がオペレータールームに起こる。
「オケンセンをやっつけたばかりだと言うのに厄介な奴等が出てきたものだな」
十斗が呟く。
「でもなんであの人達は逃げたんでしょう?」
レインが疑問をあげる。
『簡単だよ。魔法使いの血統と言ってもろくな鍛錬をやっていない奴に長時間竜騎機将を動かすことは出来ないって事』
帰還途中の七華からの通信に十斗が言う。
「だが、谷走の方は違うぞ。次は勝てるか?」
その言葉に七華は溜息を吐いてから言う。
『一対一だったら負けるよ。でも何か手はある筈だよ』
『俺に任せておけ!』
自信満々の五郎の言葉に苦笑する一同だった。
「意外と早い交戦ですね。でも良いでしょう。所詮は、捨て駒です」
十三はアメリカ軍基地内の一室でコーヒーを飲んでいた。
「詰まらない真似をするもんだな?」
廊下の外を警戒する百剣が本気で詰まらなそうに言う。
「これも貴方のオケンセンを強くする為ですよ。あんな二流術師にDSSが敗れるとも?」
十三の言葉に百剣は睨み返す。
「そんな訳は無い。だがあの谷走、普通の戦闘だったら俺より強いぞ」
悔しそうな顔をする百剣に十三は余裕の笑みを浮かべる。
「貴方にはオケンセンがあります。竜騎機将で単独で貴方に勝てる者は居ません」
「俺は、全ての奴に打ち勝つ」
百剣が決意を込めて言う。
十三は、コピーが終わったばかりのDSSからアメリカ軍に提供した技術データが詰まったDVDをしまい言う。
「その為にもあのピエロには精々、大袈裟に騒いでもらいましょう」
そして百剣と共に施設を出る十三であった。