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竜騎機将ナナカレイ  作者: 鈴神楽
誕生編
4/17

ライバル?

 ドイツの郊外、数匹の竜騎機兵ヒドラが暴れて居た。

 そこに新宿での竜騎機兵ヒドラヘビーとの対戦以来、かなりの数の仕事をやった竜騎機将ナナカレイが、投入された。

『我々は、旧東ドイツ市民に対する特別保障の実施を要求する』

 竜騎機兵ヒドラに乗ったテロリストの要求を聞いて七華が溜め息を吐く。

『どうしたナナカ?』

 コックピット内にレイの声が響く。

 七華が呆れきった口調で言う。

「本末転倒って言葉をここまで体現されるとねー」

『こういった、過去に囚われた、馬鹿な主張なら竜人界でもあるぞ』

「そういう意味じゃないよ。主張自体は、社会主義と資本主義との兼ね合いで出た貧富の差を埋めようと言う良くある話しだけど、竜騎機兵ヒドラを数匹暴れさせる金が有れば十分、特別保障代わりの事が出来るよ」

 肩をすくめると、十斗からの通信が入る。

『それの裏は取れた。奴等は今の野党と軍部の結託の上での茶番だ。竜騎機兵の性能テストとあわよくば与党の人気を落す目的だ』

「でDSSに金を払ったのは与党の人間?」

 余りにも良くある展開にやる気が失せるのを仕事と我慢しながらたずねる七華。

『いや、同じサイド、特に軍部側の人間だ。竜騎機兵のついでにこっちの竜騎機将の性能も知りたいんだろう』

 その言葉に七華が辺りを見回すと、そこら中に隠しカメラ等の観測装置がある。

『今回は、ドラゴンコロシアムを使う必要は無いぞ』

 七華も頷く、こんな茶番に高価な装備を使う気持ちはとっくに無い。

『それと、そこら中にある観測機械は、偶々あるだけだ、偶々壊れたとしても何処からも文句は出ないぞ』

 その一言に七華が微笑む。

「そうだよねー竜騎機兵と戦うのは大仕事、周りに被害出ちゃうのは仕方ないよねー」

『お前等絶対性格悪いな』

 二人の態度を見てレイが呟くが、気にする者は居ない。



 ドイツ軍の竜騎機兵と竜騎機将の対戦を観測する為に作られた司令室では、最新兵器のガチンコバトルを見れると、軍人達が観測機からの映像に集中していた。

 その映像の中で、竜騎機将ナナカレイの装甲が展開し、全方向をカバーする様な砲口が出来上がる。

『サンダーブレイク』

 拡散された電撃は、全方向に射出され、その電気がいとも容易く観測機械をお釈迦にしていった。

「「「うそだろー!」」」



『連勝記録を更新してしまったな』

「おう、俺達DSSに勝てる奴わ居ねえ!」

 勝ち誇るレイに自信満々の態度でビールを飲んでる五郎。

 バハムートの食堂で行われる祝勝会を横に見ながら三美が、真面目な話をするメンバー、七華、レイン、双葉、九菜に加わる。

「ナナカ達は、祝勝会でなくても良いの?」

 幾つかの資料をノートパソコンからプリントアウトしながら七華が言う。

「茶番に付き合ってたせいで遅れた打ち合わをするのが先」

 そう言って、資料を配りながら言う。

「こっちの方はもう幾つかの関係者にあたってて一つ良い返事が返ってきてる」

 うんうんと頷き、レインが言う。

「私の方は、竜議会の方は何とか了解得られましたので、後は選抜だけです」

 九菜は事前に用意した資料を見せる。

「こっちはナナカレイの新型竜武と平行で開発している分、完成は少し時間がかかると思うわ」

 そこに十斗が入ってくる。

「よ、遅れた。ドイツ軍部が変な言掛かりをつけてきやがったから遅れちまったな。で話しは何処まで行った?」

 それに対して、双葉が、各種資料を纏めて言う。

「各箇所の状況が出揃った所で、早ければ二週間で実働可能かと思われます」

「よしそこまで行ってるんだったら、祝勝会に合流しようぜ」

 その一言に大きな溜め息を吐く一同。

 レインが代表して言う。

「これから、連携体制を確認して、今後の予定を決めないといけないんですが」

「各メンバー全力で当ってくれ、それで決まりだ」

 あっさり言う十斗に双葉が反論する。

「しかし、予算にも限界があります。ここは歩調を合わせて無駄ないスケジュールを作る方がいいのではないんですか?」

 十斗は首を横に振る。

「歩調なんて合う訳無い。それぞれ別業界だ、その業界ごとのスタンスがある。今はそれぞれの最善を尽くせば良い。予算の方は俺に任せておけ」

 実質的なスポンサーである十斗にそういわれれば双葉も何も言えなくなる。

「この仕事ってそんなに儲かってるんですか?」

 三美の言葉に七華が首を横に振る。

「儲かってるわけないじゃん。半分以上十斗さんの趣味だよ。一応一回の出撃に掛る費用で赤が出ないくらいの報酬は貰ってるみたいだけど、このバハムートの維持費や新兵器の開発予算、その他もろもろ、多分十斗さんが数千億単位で補填してるん筈だよ」

 三美の思考が止まる。

 レインさんもそれには驚く。

「でもいつもいつも商売だって言ってますけど」

「無料だったら、今回みたいな茶番がやたら増えるよ。DSSの技術も現代科学を超えてるし、金額のやり取りがあるから、お互いに信用が発生するの。無料でやってたら、今みたいな信用は無いよ」

 七華の言葉に十斗が頷く。

「昔っからただより高い物は無いと言う位、人間は無料な事を信用しないのさ」

「数値の魔法って奴だよ、無料の商品と激安の商品どちらが多く売れたかというと、激安の商品だったりするんだから」

「変なの」

 三美が首を傾げる中、半ば強引に祝勝会に参加させられる七華達であった。



『ああんこんなの駄目よ』

 霧流家の居間に半裸の女性が魔法生物に体中纏わり付かれている映像が空中に浮かぶ。

「母さんそれは何?」

 お茶菓子を摘みながら、その映像を見ていた八子が、

「これ、一刃のお土産に紛れてたの。あの子もこんなマニアックな物を見るようになるなんて、水着写真を隠して見ていた頃とは違うのね」

 懐かしげに呟く。

 七華は大きく溜め息を吐く。

「あのねーお兄ちゃんはまだ十七歳、未成年だよ解ってる?」

 八子は手をパタパタさせて言う。

「大丈夫よ、これこっちの世界のじゃないから、第一この映ってる子って十四歳くらいだから青少年保護条例すら引っかかる物よ」

 ほぼ同じ年位なのに胸もスタイルも勝る映像の少女を見ながら自分の兄が、自分と同じ年の人間まで性欲対象にしている事に嫌悪感を持った七華が言う。

「壊していい?」

 それに対して八子は女神の様な笑顔で答える。

「駄目よ、年頃の男の子だったら誰だって持ってる欲情なんだから」

「嘘! そんな化け物に襲われる女の子に欲情するなんて、お兄ちゃんがオタクで変態なだけでしょう!」

 八子は遠い目をして言う。

「六牙も一刃位の頃は、マジックアイテムを使った特殊プレーが好きだったわ。そうね、丁度貴女を種付けしてる時は……」

 七華は耳を塞ぎ言う。

「聞きたくない」

 そして家を出る。

「まだまだ子供ね。そろそろそっちの教育もした方が良いかもね」

 呑気な八子であった。



『お前の母親もとんでもない性格してるな』

 何時からか側に居たレイの首にに七華の腕が捲き付く。

「解ってると思うけど、さっきの話を誰かにしたら殺すよ」

 レイは慌てて頷く。

 そんな事を考えながら歩いていると、一人の男が前に立ち塞がる。

 七華が見上げるとその肩には黒い竜の赤ちゃんが居た。

 咄嗟に間合いを空けようと下がろうとした七華の肩を男の手が押しとめる。

「お前が、一刃の妹だな」

 その言葉に、七華は全てを悟った。

「お兄ちゃんに復讐に来たんですね?」

 大きく頷く男、神谷百剣が言う。

「そうだ、あの男を殺す事それだけが俺の望みだ。そうだ、あの男を倒して動けなくなった前でお前を犯したらさぞ面白かろうな」

 その言葉に七華は最大限の能力を使って百剣の手から逃れて後に後退する。

『七華どうなっている?』

 レイの言葉に七華が答える。

「有名税って奴だよ。お兄ちゃんは助平なオタクだけど、やたら強い事で有名だから挑戦してくる奴がいるんだけどこいつはその一人だよ」

 七華が竜牙刀を手に持ち言う。

『血の盟約の元、七華が求める、戦いの牙をここに表せ、竜牙刀』

 それに対して、百剣は手を掲げて言う。

『我は神をも殺す意思を持つ者なり、ここに我が意を示す剣を与えよ』

 その手に、一本の剣、神威が現れる。

「神威ってまさか、ゴットブレイカー百剣!」

 その言葉に百剣が微笑む。

「ほー知っていたか、一刃から聞いたのか?」

 七華は頷き言う。

「武器を使った戦闘術だけだったら自分より上かもしれない人って、前教えてくれたよ」

 その言葉に歯軋りをする百剣。

「ふん総合力で勝っているつもりか!」

 物理的な衝撃波すら伴う、怒り波動にレイが地面にしがみ付きながら言う。

「何なんだよこれは!」

 七華は、竜牙刀で上手く力を逸らしながら答える。

「あの人は神殺しって言う一族、神殺しって言ってもうちみたいに神を殺して生計を立ててる訳じゃないよ。簡単に言えば、意思の力を物理的な攻撃力に変換する能力を持っているの。はっきり言って竜以上に出鱈目な存在だよ」

 そして、レイを掴むと、家に向って走り出す。

『どうするつもりだ!』

「逃げるに決まっているよ。お兄ちゃんのライバルクラスの人間とあちきが戦って勝てる確率って滅茶苦茶低いからね」

 そんな七華に向って百剣が言う。

「逃げても良いぞ! しかし逃げ切れるかな!」

 そして肩に乗っていた黒い竜が飛び上がり、その口から闇を噴出し、その闇の中から魔方陣を浮き出す。

『汝復讐の為にここに在り、修羅の姿をここに、ダークスタードラゴン』

 黒い竜は、レイよりも二周りも大きく変化し、人間のスタイルをとると、その黒いブレスは百剣を包み込む。

 魔方陣から機械が飛び出し、黒い竜に装備される。

『これこそが、一刃に勝つ為に手に入れた新たなる力、竜騎機将オケンセンだ!』

 竜騎機将オケンセンの言葉にレイは驚きを隠せない様子であったが、七華が舌打ちをする。

「間に合わなかったみたい」



「司令、東京に竜騎機兵が現れました!」

 双葉の報告に十斗がメインディスプレーに映し出された巨人型の竜騎機兵を見る。

 レインが慌てた様子で言う。

「そんな、もう竜騎機将を作れるなんて……」

 オペレータルームに沈黙が走る。

 しかし、その中、十斗だけは冷静だった。

「元々竜騎機兵の知識はあっちが先だ、何れはこうなる事は予測できた」

「それにしても、ダークスタードラゴンなんて何処から?」

 その時、七華から通信が入る。

『あの竜騎機将のパイロットはあちきのお兄ちゃん関係だよ。あのダークスタードラゴンもお兄ちゃん関係の可能性大だよ』

「お前の兄ちゃんはダークスタードラゴンに恨み買う覚えがあるのか?」

 十斗の言葉に通信機の向こうの七華が頷き言う。

『確か二、三年前にダークスタードラゴンを殺した所を見たこと有るよ』

 その言葉にレインが信じられない様子で聞き返す。

「本当ですか、あの最悪と呼ばれるダークスタードラゴンを倒したんですか?」

『うん。そーいえば、珍しい子供が居るダークスタードラゴンだったけど、今居るのはその子だよ』

「ダークスタードラゴンに子供ですか?」

 レインも不思議そうな顔に成る。

「竜だって生き物だろ子供位いるだろう」

 十斗の言葉にレインが首を振る。

「竜の元々の基本属性は光です。その中でも六種の属性があり、レインボードラゴンは、その六種+基本属性の七つの力を使える希少種だって話は以前したと思います。本来竜には闇属性はありません。大抵のダークドラゴンは後天的に闇属性に変化します。その中でも六種全ての属性の能力を全て闇属性に反転させたダークドラゴンの額には六方星が現れ、ダークスタードラゴンと呼ばれますが、さっきも言ったように後天的故に、属性が継承される事は稀なんです」

「なるほどな、そして、その稀な存在が父親の敵討ちに為に、同じ目標を持った人間と手を組んだって訳か、意外と解り易いな」

 一人納得する十斗。

『で、どうするんですか? 最初に言っておきますけどあちきは勝率は一割以下だと思ってますよ』

 オペレータールームに動揺が走る。

「ちょっと七華ちゃんそれどういうこと?」

 双葉が慌てて聞き返す。

『竜の能力はあちきの予想ではほぼ互角だけど、パイロットの能力が違いすぎる。多分あちきでは普通にやったら手も足も出ないうちにレイを殺すことになるよ』

 今まで連勝を続けてきた七華のあっさりとした宣言であった。

「なるほどな、それでも勝率はあると言う根拠は」

 十斗は普段と同じ態度で聞き返す。

『簡単だよ、竜騎機将に乗ってる回数がこの勝率。相手はどう見積もってもあちきより竜騎機将慣れしてない。だとしたら、そこに隙が出来るかも。それと、竜殲滅部隊って強力な助っ人も居るから言える確率だけどね』

 十斗は、少し考えてから言う。

「双葉日本政府からの通達は?」

 その言葉に双葉が答える。

「まだありませんが、時間の問題かと」

 それを聞いて、十斗が宣言する。

「これよりの戦闘は、非公認で行う。それに伴う全ての問題は俺が責任を取る。七華、負ける覚悟で行け。竜武は壊しても構わない。生き残れ、後は好きにしろ」

 その言葉に通信機から見える七華の顔が覚悟を決める。

『了解』



 地上に居る、七華が自分が逃げてきた相手、竜騎機将オケンセンを見上げる。

「レイ、絶対生き残るよ」

 その言葉にレイは反発する。

『我は勝つ』

 その顔を見て七華は解った。

 レイは、まだ自分の力ではどうしようもない者の存在を知らないことを。

「勝ち負けって言うのは、最後に生き残ってた人間が決めることだよ」

『ふん、我は竜だ!』

 そしてレイは竜騎機将オケンセンを睨みつける。



 そして、急ピッチで進められる竜武射出準備。

「竜武射出準備終了しました」

 双葉の言葉に十斗が頷く。

「竜武、睦月射出準備」

「竜武、睦月型射出体勢に移行して下さい」

 双葉の通信にそって、ハンガースタッフ達が退避、特別射出口のでかい金属の卵、竜武睦月型を格納した竜武玉が発射台に移動される。

 双葉は、竜武玉が完全に射出装置に固定されたのを確認した所で、専用スライドレバーを大きく後に下げて、固定する。

 そして、司令室の画面中央に射出用ターゲットが現れ、オペレーター達が一斉に最後の微調整を行い、目標地点にマークを合わせる。

「竜武、睦月射出!」

「竜武、睦月型射出します!」

 双葉が、専用スライドレバーの解除と同時にスライドレバーが前方にスライドする。

 それに合わせて射出装置が移動し、竜武玉は特殊射出用デッキから射出される。

「高度カウントします。8000・6000・4000・2000・1000を切りました、魔方陣開放承認お願いします」

 十斗が二本突き出した専用レーバーを握る。

「真竜開放魔方陣展開」

 十斗がレバーを両側に開く。

 竜武玉の外殻が割れる。

 そしてそれは空中で巨大な魔方陣に転ずる。



 七華はレイを空中の魔方陣に向けて投げつける。

『汝戦う為にここに在り、戦いの姿をここに、レインボードラゴン』

 その呪文に答え、レイは、魔方陣からの漏れる竜人界から力を己が体に変換し元の姿に戻っていく。

 そしてその口から光の吐息が放たれ、七華を覆う。

 七華の姿が掻き消る。

 それと同時に、四足をついた状態だったレイが、直立し、まるで人間の様な体型になり、竜武の装備が体を覆っていく。

 竜騎機将ナナカレイが自分より二周り大きな竜騎機将オケンセンの前に立ち塞がる。



『ドラゴンコロシアムも急いで!』

 バハムートのオペレータルームでは七華の要請に答え、すぐさま、闘竜の誓槍の準備が終る。

「闘竜の誓槍スターマーク!」

 その言葉にオペレータ達が、竜騎機将ナナカレイを中心に六亡星を描く様に十二個点をマークする。

「闘竜の誓槍、射出!」

「闘竜の誓槍、射出します!」

 そう言って、双葉が、手元のコンソールの六亡星型に配置された十二個のスイッチを次々に押していった。



「来たね!」

 竜騎機将ナナカレイの周囲に十二本の巨大な槍が降ってくる。

 その外円は竜騎機将オケンセンも包んでいた。

『我は闘う者なり、その誓いと共に、我等に真の戦場を与えよ、ドラゴンコロシアム』

 そして、空間がずれた。

 ほんの少しだけずれた異世界。

 異世界に故にこちらの世界に影響が無い場所。

 竜達の戦いの場所。

『邪悪なるダークスタードラゴンなんぞに負けるか!』

 レイの叫びに答える様に、七華は、竜騎機将オケンセンにターゲットを合わせて、アイスミサイルを撃ち込む。

 竜騎機将オケンセンの周りの氷の世界が生まれるが、やはり竜騎機将オケンセン自体にはダメージは無い。

 レイは鉄すら瞬間で昇華するブレスを吐き出す。

 それは、液体窒素で冷やされた世界に決定的で絶望的な温度差による破壊をもたす。

 凄まじい水蒸気が竜騎機将オケンセンを覆った。

『決まったな!』

 レイの言葉に七華は首を横に振る。

「勝率が下がったよ。遠距離からの竜の世界では相手の竜の世界を打ち破れないよ」

 七華の言葉の正しさを示すように、水蒸気の中から、無傷の竜騎機将オケンセンが現れる。

『その程度で俺達を倒せるとでも思ったのか!』

 怒りの衝撃波が、竜騎機将ナナカレイの装甲を襲った。



「竜騎機将ナナカレイの装甲にダメージあり。ただし戦闘に影響はありません」

 双葉の報告に安堵するオペレータ達とは逆に舌打ちする十斗。

 レインが不自然に思いたずねる。

「どうしたんですか?」

「ダメージを受けたって事は、相手は遠距離攻撃でもこっちにダメージを与えられるって事だ。遠くから削られたら負けだぞ」

 その事にオペレータ達もはっとした顔になる。

『安心していいよ、相手は遠距離攻撃を得意にしてないから』

「そう、それはよかったわね」

 双葉の言葉にディスプレーに映る七華が深い溜め息を吐く。

『だけどね、こっちが唯一ダメージを与えられる接近戦があちきより数段うえって言うのはある意味、絶望的だとおもうけどね』

 その言葉にオペレータールームの空気が凍る。

『って情けないこと言ってるんじゃない!』

 五郎の声が、オペレータールームを震わせる。



 五郎達、竜殲滅部隊は、竜騎機将オケンセンを取り囲むと、上空からの攻撃を繰り返す。

「あの巨体だ、空を飛べないだろうから、上からじっくり攻めてやるよ!」

 そういって、竜の世界を無効化する効果を持つミサイルを連発する。

 その時、竜騎機将オケンセンが飛んだ。

「回避だ急げ!」

 五郎の言葉に反応出来たのは竜殲滅部隊の半分だった。

 残り半分は、すさまじいまでの竜騎機将サイズになった神威での斬撃で落される。

『この野郎やりやがったな!』

 反転して攻撃しようとする隊員を見て五郎が怒鳴る。

「落ち着け馬鹿野郎、こっちは半分に減ったんだ、十分な距離をとる事が先だ! 俺の隊員を落した奴に一撃を確実に決める為に!」

 その一言に、落ち着き距離をとる、隊員達。

 歯軋りをしながら五郎が、マイクを殺した状態で怒鳴る。

「覚えとけよ、俺は絶対お前を素手で殴ってやるからな!」

 マイクを戻しながら、距離をとる五郎。



「あの体で飛べるなんて……」

 バハムートのオペレータールームで双葉が愕然とする中、十斗が言う。

「五郎らしくないミスしたな、まーその後感情的に成らずに、距離を置いたのは数少ない実戦経験を持った傭兵あがりのパイロットだけはあるがな。七華また、勝率が低くなったか?」

 ディスプレーの中の七華は首を横に振る。

『五郎さんを怒らせたからプラマイゼロだよ。五郎さんに伝えて、あちきが隙を作るからその間に左腕に怪我を負わせてって』

 十斗が頷く。

「解った。五郎、意地で決めろよ!」

『当たり前だ!』

 五郎が怒鳴った。



『接近戦をやるつもりか?』

 竜騎機将ナナカレイのコックピットにレイの言葉が伝わる。

「最初に言っておくよ、接近戦で一方的に押されるのは間違いなくあちきが弱いせい、だから熱くならないで。隙を作り最後の一手に賭ける為に耐えないといけないから」

 七華はそう言って、竜牙刀を構え、斬りかかる。

 常人のそれを遥かに超える斬撃だが、竜騎機将オケンセンはいとも容易く受け止める。

『その程度の腕で俺と斬りあうか!』

 怒気に衝撃が竜騎機将ナナカレイの装甲にダメージを負わせて行き、コックピットにどんどん赤ランプがついていく。

 次々に放たれる、斬撃は容易に竜騎機将ナナカレイの装甲を貫き、レイの体に傷を作る。

『ギャー』

 レイの悲鳴がコックピットに響く。

 だが、七華は体中に無数の蚯蚓腫れを作るが悲鳴一つ上げず、ひたすら最大限の攻防を続けて居た。



「竜騎機将ナナカレイのダメージがどんどん増えて行きます!」

 双葉の言葉にオロオロするレイン。

「九菜、七華くんは平気なのか?」

 十斗の言葉にオペレータ達が疑問符を浮かべた時、研究室の九菜から返信が来る。

『大丈夫な訳ないでしょ。完全に動きをトレースする反面、ダメージも七華ちゃんの体にふりかかってるだから。普通の人間だったら悶絶するダメージを食らってるのに我慢してるのよ』

 驚く一堂。

『ギャー』

 竜騎機将ナナカレイからの通信から漏れるのはレイの叫び声のみであり、七華は一言も悲鳴をあげていない。

『竜騎機将ナナカレイの動きは七華ちゃんの動きをトレースする。だからレイが幾ら痛みで身をよじろうとしても、七華ちゃんが我慢している間は普通に動けるのよ』

 九菜の説明に必死に竜騎機将オケンセンの攻撃を防ぐ、竜騎機将ナナカレイの動きが目に入る。

 そして、竜騎機将ナナカレイは故意にビルを倒して、死角を作った。



「きっちり決めるぞ!」

 五郎の駆るブレイドは、粉塵巻き起こる、ビル倒壊の中に入っていく。

 視界ゼロ、レーダーの反応だけを頼り、竜騎機将オケンセンに接近する。

「七華が頑張って作った隙、見逃すわけには行かないんだよ!」

 至近距離から、ドラゴンキラーを竜騎機将オケンセンの左腕に決める。



 竜騎機将オケンセンは左腕に刺さったドラゴンキラーを抜き、そして宣言する。

『片手位のハンデで勝てるつもりか』

 その言葉をコックピットで聞いていた七華は首を横に振って小声で言う。

「そんな事で埋るほど小さな差じゃないよ」

 それは七華が一番理解していた。

 生身の戦いだったらともかく、竜騎機将同士の戦いで、相手より遥かに経験値が高い自分が圧倒されていることが示す、実力の違いを。

「でも、あいつは知らない、自分が乗っているのが竜騎機将だって事を!」

 そして七華は最後の賭けに出た。



 竜騎機将オケンセンのコックピットで百剣は自分の左腕を見ながら言う。

「一刃の妹だというからもう少しやるかと思ったが、所詮は女、この程度か」

『来るわ!』

 ダークスタードラゴンのセンの言葉に百剣が微笑を浮かべる。

「愚かな、傷を負った左手の方からの攻撃をするつもりだろーが、無意味だと言うことを教えてやる」

 そして百剣は神威を構える。

『食らえ!』

 七華が力の限りの気力と共に竜牙刀を百剣の傷を負った左腕から斬りつける。

 百剣の神威は容易にそれを受け止めた。

「終わりだな!」

 その次の瞬間、神威が右手から弾き飛ばされた。

『レインボーフィッシュ』

 強い光を込められた竜騎機将オケンセンに迫る。



「どうやったの!」

 双葉の言葉に誰ものが頷く。

「尻尾だ。それ以外の攻撃では意表をつけないと思い、人では決して出来ない攻撃をした。竜騎機将の戦闘パターンを常に研究し続けた七華ならではの技だな」

 バハムートのオペレータールームに希望の光がついた。



『これで決まりだ!』

 レイは全魔力を込めたドラゴンヒール、通常なら回復になるそれはダークドラゴンには大ダメージを与えられる。

 竜牙刀には通常のダークドラゴンだったら消滅しかねないドラゴンヒールが込められていた。

 竜騎機将オケンセンは悠然とそれを向い撃った。

『ダークノヴァ』

 それは黒い衝撃波であった。

 百剣の意思と共に放たれる衝撃波とダークスタードラゴンの魔力が一緒になった物が、竜牙刀に込められた光を喰らい、そして七華は竜騎機将ナナカレイのコックピットの中で意識を失った。



 地面に転がる竜武の破片、そして全身にダメージを負った状態のまま小さく戻ったレイ。

 そして意識を失った七華を見て、竜騎機将オケンセンが言う。

『さてどうしてくれようか』

 次の瞬間、竜殲滅部隊のソードが至近距離に迫る。

『しつこい!』

 竜騎機将オケンセンの右腕で次々に落ちていくソード達、そして墜落するソードの影からブレイドが現れる。

 竜騎機将オケンセンの右腕にドラゴンキラーが食い込む。

『ダークノヴァ』

 次の瞬間ブレイドが空中で爆発した。

 そして、竜騎機兵オケンセンが言う。

『まだ、慣れてない性で余計な怪我をしたな。まーいい一刃に伝えろ、お前の妹の敵を討ちたかったら、一ヵ月後、ここに来いと』

 飛んで消えていく竜騎機将オケンセン。



「五郎返事して!」

「七華ちゃん大丈夫!」

 双葉とレインの叫びに返信は来ない。

 十斗が頭をかき言う。

「ここまで一方的だとは思わなかったぞ」

 事前に手配しておいた地上班から七華の確保の報告を確認する。

「例の計画を進める前にやる事が出来たな」

 そして、席を立つ十斗。

「五郎、返事して!」

 双葉の叫びがバハムートのオペレータールームに虚しく響いた。

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