正パイロット?
アメリカ西海岸に三体の竜騎機兵ヒドラが徘徊していた。
「竜騎機兵ヒドラも安くなったもんだ」
ADX_3特殊飛行戦闘機ブレイドを駆る五郎が呟く。
『九菜博士の話しでは、竜人界では、千年竜達が自分達用の施設作る為に増税したんで、こっちに逃げ込んでくる下層階級の竜が増えたみたいですよ』
同僚の言葉に、五郎が舌打ちをする。
「何処の世界でも弱いものは虐げられるって事かよ。俺達は食うに困って犯罪を働く難民を処刑する冷酷な軍人って所だな」
『だからといってほっておけば多くの死人が出ますよー』
「解かってる。ソード5から12までは、目標アルファー・ブラボーの足止め」
『ラジャー』
それに答え、ブレイドの量産型であるADS_2ソード八機が竜騎機兵ヒドラの二体の足止めをする為に、前方に向う。
「ソード1から4は、目標チャーリーに俺がドラゴンキラーを撃てる様に隙を作れ!」
『ラジャー』
四機のソードが両側から最後の竜騎機兵ヒドラの気をそらす。
そして五郎が操るブレイドは正面につける。
「恨むんだったら、無謀な事をするテロリストを恨むんだな。ドラゴンキラーファイアー」
ブレイドの下部に設置された、発射装置から、竜の防御を無効にする特殊処理をしたV字型のミサイルが撃たれる。
ロケットエンジンで加速したそれは、ヒドラの防御を無効化して、一撃で絶命させる。
「ソード1から4は、無力化しろ。抵抗するんだったらコックピット狙ってやれ!」
『ラジャー』
そして五郎は残りの二体に目をやる。
「さっさと片付けるか」
苦虫を噛み砕いた様な顔をしながらも、新たな敵に向って行く。
DSSの飛行基地、バハムート、様々な力関係上、通常は日本上空にあり、そこに仕事を終えた、五郎達、竜殲滅部隊が戻って着た。
『お疲れ様』
「あいよ」
ヘルメットを脱ぎながら、目の前に通信機に映るオペレーターの双葉に返事をする五郎。
『でも、コックピットを撃てなんて言い過ぎよ』
「良いんだよ、竜が死んでも、ミサイルが残ってるんだ、下手な事されたら大量の死人が出るんだからな」
そういいながら、コックピットから降りる五郎。
五郎が通路を歩いていると、丁度何か祈る竜人界からの協力者レインの姿を見つける。
「よー、これはこれはお偉い竜の巫女様ではありませんか」
その声に、レインが五郎の顔を見て、顔を顰める。
「まさかと思うが、死んだヒドラの冥福祈ってるんじゃないだろーな」
その言葉にレインは五郎を睨む。
「いけませんか! あの竜にも安らかに眠る権利はあります」
その言葉に、五郎は壁を叩き言う。
「ふざけるなよ。何故あのヒドラが死ななければいけないか解かってるのか?」
「それは、こっちの世界のテロリストに利用されたから……」
レインの答えを遮る様に五郎が言う。
「俺も知ってるぜ、返還ですら竜が気絶してる必要があって、召喚に関しては竜が望まない限り無理だって事は、あいつ等は自ら望んでこっちに着たんだ! 重税や横暴な上層階級を嫌ってな!」
レインは何も言い返せない。
「こっちの世界だって幾らでもそんな連中がいるから偉そうな事は言わねー。だが覚えて置けよ、死んでいった奴らはお前みたいな上層階級に祈って欲しくなんて無いんだよ。逆に祈られる位だったら地獄に落ちた方が増しだと思ってるんだ。そして、お前は間接的だろーが、あいつ等を殺す手伝いをしている。それを忘れるな!」
そういい捨てて、五郎は去る。
レインは只涙を流していた。
『アメリカ西海岸で、竜騎機兵ヒドラ三体が暴れていましたが、DSSの活躍で殲滅されました』
霧流家の居間のテレビのニュースが告げる。
「ミミのお兄さん頑張ってるみたいだなー」
ご飯を食べながら、七華が言うと、七華の母親、霧流八子が言う。
「ミミちゃんのお兄さんと言うと、オペレータの双葉って人と恋人なのよね?」
嬉しそうなその表情に七華は溜め息を吐く。
八子と三美は揃って恋愛事が好きで、直ぐそっちの話しに持って行く。
「そうらしいよ」
「パイロットって、やっぱあっちも激しいのかしら」
七華は口に含んでいたご飯を噴出す。
「中学生の娘になんて話しする!」
立ち上がる七華に笑顔で八子が言う。
「あらあたしは十五の時には一刃を生んでたわよ」
七華は頭を抱える。
「確かにそーだけどさー、母さん知ってる? 結婚って十六からって事?」
「結婚しなくても子供位作れるわよ、よーは相手に甲斐性有るかどうかよ。そこいくと六牙は、一刃を生んだ時には竜殺しの仕事でこの家建ててくれる程の甲斐性があるひとだったわ」
夢見るような瞳で言う八子に七華が確認する。
「その当時って父さん十八だったんだよね?」
「そうよ。それがどうしたの?」
七華はコンプレックスを持っていた。
十八で家を建てられるほどの稼ぎをあげる父親や、中卒だが、もう異世界で邪竜退治の仕事を請けてる現在十七歳の兄に較べて、自分はもう十四歳なのに、機械で武装されてるとはいえ、ヒドラ一匹倒せない事に。
「ところで、ミミちゃんから聞いたわよ、東京に現れた竜騎機兵ヒドラを退治したの貴女だって。勿論報酬は貰ったでしょうね?」
八子の言葉に七華は凍り付く。
「それは、突然な事だったし、あちらの装備も使っていたから……」
言葉を濁す七華に八子ははっきりという。
「装備の提供はこの仕事では別に珍しく無いわ。一刃だって突然召喚されてもきっちり報酬を貰って帰ってくるわよ!」
そういって七華を睨む。
「あちきは、まだ免許皆伝してないしー」
「関係ないわ、よーは竜を退治したって結果が大事なの。竜を倒した以上、霧流の人間は報酬を貰うのは当然なの解かってる!」
八子に詰め寄られて涙目になる七華。
ピンポーン
その音に七華は天の救いと思い慌てて玄関に向う。
そして玄関のドアを開ける。
「いらっしゃい。いまだったら何時間でも相手するよ!」
「それは丁度良い」
その言葉にDSSの最高責任者で司令の十斗が笑顔で言った。
「十斗居る?」
DSSの開発部の部長九菜がオペレータールームの中央にある司令室を見回す。
「司令でしたら、七華ちゃんの家にスカウトしに行きましたよ」
双葉の答えに嬉しそうな顔をする九菜。
「うんうん。早く竜騎機将のデータとりしたいし。頑張って欲しいものね」
そして研究室に戻っていく九菜の後姿を見て双葉が言う。
「普通の親はこんな仕事を了解するとは思えないけどなー」
「お断りします」
霧流家の客間で十斗の説明を受けた八子の最初の答えである。
「娘さんが心配な事はわかりますが、世界を竜の脅威から護るのには、娘さんの力が必要なのです」
十斗の真面目そうな言葉に、七華が首を横に振る。
「母さんが気にしてるのはそんな事じゃないよ」
「そう。私は、娘には立派な竜殺術を身に着けて欲しいの。だから最初からそんな道具に頼り切った戦闘はして欲しくない。そうよ生身で竜騎機兵を倒せるようにならないと駄目ね」
その言葉に十斗が言葉を無くす。
「竜退治の依頼でしたら別途で検討させてもらいますが、その竜騎機将のパイロットの件はお断りします」
「生身で竜騎機兵を倒すなど不可能です」
その十斗の言葉に七華が首をふる。
「あの程度の竜だったら、幾ら科学兵器で武装した所で、兄さんの敵じゃないよ。多分一撃で倒すよ」
「うちの亭主なら、百体居た所で三十分あれば殲滅します」
十斗はこの家では常識が少し違うことを理解した。
そして一度理解した以上十斗には幾らでも方法がある。
「しかし、ご主人も一刃くんも居ませんね?」
その言葉に霧流母娘が頷くと十斗が続ける。
「我々は、居ない人間を待っていられるほど余裕がありません。それと、七華くんはどうして家に居るんですか?」
「中学校までは義務教育ですから」
その八子の言葉に頷く十斗。
「そうでしょう。つまり異世界にいって実戦経験を積む事も出来ない違いますか?」
「そうですね。でも今は竜騎機兵って物がいます。それと生身で戦えば実戦経験を積むことが出来ます」
八子の言葉に十斗が言う。
「では聞きますが、どうやって竜騎機兵の居場所を察知して、そこに移動するのですか?」
八子は難しい顔をする。
霧流の一族は呼ばれて倒すと言う形式をとっている為、自分からそっちに行くと言う方法の研究していないのだ。
「我々でしたら、竜騎機兵が出て来た時に即座に七華くんを現地に運べます」
「でしたら、竜退治として依頼して下さい。そうすれば問題はありません」
七華が母親に訴えかける瞳を向けて言う。
「……今のあちきじゃ倒せないよ」
「ですから、私達の装備を使って貰います」
十斗の言葉に八子が悩む。
「いまの七華くんでは竜騎機兵は倒せません。しかし我々の装備を使えばそれが可能になります。七華くんにいま必要なのは実戦経験なんではないでしょうか?」
十斗が畳み込み入った。
「一回につき、これだけの金額を払う用意があります」
そういって何かを八子に見せた。
八子は七華の肩を掴んで。
「七華、実戦こそが一番の修行よ。頑張りなさい」
「別に良いけどね」
諦めきった表情で七華が言う。
「所で、前回の分もそれだけ払っていただけますよね?」
十斗はあっさり頷いた。
「そういう事で、竜騎機将のテストパイロット兼実戦の時の特別パイロットをやる事になった霧流七華くんだ」
「よろしくお願いします」
バハムートのオペレータルームで頭を下げる七華。
双葉が手をあげる。
「それって正パイロットとどう違うんですか?」
その質問に十斗があっさり。
「正パイロットは、DSSに所属していて、常にパイロットとして動く、彼女の場合学業もあるので、正パイロットは、無理なんだ」
続けて七華がフォローする。
「ついでに言うと、あちきの家では宮仕えしないって、変なプライドがあるからだから、気にしないで下さい」
そしてオペレーターが解散する中、学校からの帰り道から付いてきた三美が言う。
「前から聞こうと思ってたんだけど、ナナカのお母さんってどうしてお金にうるさいの? ナナカのうちって貧乏じゃないじゃん」
七華は、規律等のマニュアルをノートにダウンロードして読みながら答える。
「特殊技能職だから稼ぎは確かに多いけど、金遣いも荒いの。父さんは日本刀とかその手の骨董に目が無いし。兄さんは、オタクでそっち系のアイテムの集めるのにお金惜しまないし。母さんはすぐ捨てられた動物拾ってくるから、食費だけでも大変なんだよ」
三美は手を叩く。
「そういえば、いっぱい居たね。捨て猫・捨て犬・捨て虎とか」
「ミミちゃん今捨て虎って言わなかったか」
側で聞いていた双葉の言葉に三美が頷く。
「捨て虎。こないだまで捨てライオンが居たんだけど、動物園に引き取られていったよ」
「さすがにライオンの吼える声は近所迷惑だったから」
双葉が汗を垂らしながら言う。
「危なくないの?」
七華は遠い瞳をして言う。
「動物達も知ってるよ、自分の目の前に居るのは竜すら恐れる人間すら震え上がらせる最強の存在だと」
そしてそこに九菜が来て言う。
「七華ちゃん、これから楽しい楽しい実験の時間ですよ」
その満面の笑み見て七華は双葉に近寄り耳打ちする。
「大丈夫なんですかあの人?」
双葉はそっぽを向いて答える。
「多分」
七華は物凄く嫌な物を感じながらも付いていくことにした。
「これも修行だと思おう」
バハムート内にある喫茶ルームで、七華と三美がお茶をしていた。
『お前もタフだな』
と言ったのは、ついさっきまで七華と竜騎機将ナナカレイに成っていたレイだったりする。
「レイは実際体動かすし、無理な人間型してるから倍疲れるんじゃない?」
それに対してレイは溜め息を吐く。
『この小さな姿より負担は小さいからそんな関係ないが、お前は無理に拡張された感覚や、通常では感じられない体反応を受けてかなり精神的にも肉体的にも苦痛の筈だぞ』
七華は頬を掻いて言う。
「異世界で活動するのって、かなり異質な事が多いんだよ。ここや竜人界みたいに環境が近いところだと良いけど、居るだけで寿命が縮む様な場所だって幾らでも有るから、それに較べればって所かなー」
「ナナカ、凄いんだねー」
その時、警報がなる。
『竜騎機兵出現、場所はロシア、竜殲滅部隊と実戦特別パイロットは直ぐにオペレータールームへ来てください』
「早速仕事みたいだね」
「頑張って」
『我は、もう少し休む』
そんな事を言っている、レイを脇に抱えて七華はオペレータールームに急ぐ。
七華がオペレータルームの司令室に着た時には他のメンバーは揃って居た。
「今回の敵は竜騎機兵ヒドラ2、竜騎機兵ワイバーン1の混合部隊だ」
会頭の十斗の言葉に竜殲滅部隊から呻き声が聞こえた。
「今までは、竜騎機兵一体の値段が二十億を切らなかったので不可能でしたが、装備の量産化と、竜人界の動きで、竜の賃金が安くなった事があり、十億前後で竜騎機兵ヒドラが買える様になり、今回の複合部隊の投入にが可能になったと思われます」
双葉が集められた資料からの推論を読むと、十斗が言う。
「維持費が掛ると言っても、戦闘機が一機数億円な事を考えれば十分お得な値段だな」
「テロリストってお金持なんだねー」
何故かこの場に来た三美の言葉に七華が手を横に振る。
「違うよ。裏で政治家が動いてるの。新政策に反感を持ってる政治家の息が掛った商人あたりが出資してるんだと思うよ。変わった形の政治献金って奴だよ」
ようやく復活してきたレイが言う。
『それにしても四十億近いお金がテロリストのおもちゃに化けている。それで利益が出るものなのか?』
十斗が言う。
「全額って訳じゃない。まず金持のテロリストのパトロンが十億位出資してる。商人達が十億、政治家が十億、そして最後は軍が十億位だしてるだろーよ」
「軍がどうしてお金を出すの?」
三美が驚いて聞く。
「軍はデータが欲しいのさ、自分達が実際竜騎機兵を使う時の為にな。今は表立って使えないが、あれだけ有効性を見せ付けたんだ。何処の軍だって欲しいさ。実際使う事を念頭に置いて、運用上の問題点等などをテロリスト達に試させているって言うのが現状だろーよ」
十斗の言葉に驚いているのは、三美とレイくらいである。
五郎や双葉は凄く嫌そうな顔をするが、それを前々から知っていた感じである。
七華に至っては平然としている。
「それで今回の仕事はもう請けたの?」
十斗が頷く。
「今の主流派の人間が金を出させる事を承認させた。作戦を説明する。バハムートで現地に移動、先行して出撃するブレイド・ソードの竜殲滅部隊が竜騎機兵ワイバーンを竜騎機兵ヒドラから引き離している間に、竜騎機将ナナカレイで竜騎機兵ヒドラを倒す。竜殲滅部隊は竜騎機将ナナカレイと竜騎機兵ヒドラの開戦を合図に竜騎機兵ワイバーンの殲滅に当ってくれ」
『ラジャー』
バハムート、上部竜殲滅部隊専用滑走路では、五郎のブレイドが最終点検を行っている。
『敵ワイバーンは、今まで戦ってきた奴より早いわ、気をつけて』
双葉の言葉に五郎は舌打ちをする。
「前まで見たいな、仕事からあぶれたワイバーンじゃないって事だな」
五郎の脳裏に、以前竜騎機兵ワイバーンと対戦する前の作戦会議でのレインの言葉がリプレイされる。
『ワイバーンはその飛行能力故に、航空機械が無い私達の世界では重宝されています。こちらに来るワイバーンは何かしら理由で仕事につけないものなので、それ程高い能力を持っていないと思われます』
「結局、そんなワイバーンですら、異界に逃げるほど竜の世界が崩れてるって事か?」
『訂正、竜人界は今衰退の時期にあるの。竜もそうだけど人も大量に死んでる。百年前までは、竜と人との協力体制を作った素晴らしい世界だったらしいよ』
七華からの通信に五郎が怒鳴る。
「そんな事で納得出来るか、あの竜の巫女が確りしてればもっと増しな筈だろう!」
『否定はしないけど、レインさんはここ数代の竜の巫女の中でも一番まとも。祖父に聞いた父さんに聞いたんだけど、前代の竜の巫女ってその権力をかさに贅沢三昧したらしいよ、監視役の竜の巫女がそんなだから竜や人の上層部はお互い勝手な事をし始めたらしいの。その結果今こっちに逃げてきてる魔導師みたいな奴が出てきたらしいよ。レインさんは、そんな状況を少しでも良くしようとしてる途中なんだから今の段階でレインさんを判断するのはフェアじゃないよ』
冷静に訂正する七華。
『五郎、中学生に諭されていないの』
双葉の言葉に怒鳴る五郎。
「うるせい! とにかくやっつければ良いんだろ!」
整備スタッフからのOKサインを確認し、ヘルメットを被る。
「竜殲滅部隊ブレイドゼロ、晴晴五郎出る」
そしてブレイドを離陸させる。
「ブレイドゼロ、竜騎機兵ワイバーンアルファーと接敵しました」
双葉の報告に十斗が頷く。
「竜武の準備はOKか!」
『一時間前まで使ってた奴だ、暖機も完璧だ。いつでも行けるぞ!』
「七華くん、先行してくれ」
『七華了解。行くよレイ』
『おい、これってどう見ても空飛ぶように見えんぞ!』
『当たり前じゃん、最初っから滑空の事しか考えて無いもん』
『我は、この姿ではまともに飛べん。そんな危険な乗り物に乗れぬ!』
そんな会話を聞いて不安そうに双葉が言う。
「あのーあたしは見て無いんですが、先行滑空機ってどんな物なんですか?」
「スノーボードだ」
オペレータールームの空気が凍り付く。
「先行し、空中で真竜武装する関係上、動きの邪魔になる物は駄目だと七華くんに言ったら、スノーボードで空気の上を滑っていけば大丈夫だそうだ」
オペレータールームのメンバーは全員一致で嘘だーと思ったその時、七華の声が聞こえる。
『実戦時特別竜騎機将パイロット霧流七華と異界協力者レインボードラゴン出ます』
『嫌だ離せ!』
オペレータ達は急いで、七華の動きをトレースする。
「嘘みたいですが、空中を滑って、目的ポイントに移動しています」
双葉の言葉に全員信じられないという顔になるが、一人十斗が言う。
「竜武、睦月射出準備」
「竜武、睦月型射出体勢に移行して下さい」
双葉の通信にそって、ハンガースタッフ達が退避、特別射出口のでかい金属の卵、竜武睦月型を格納した竜武玉が発射台に移動される。
双葉は、竜武玉が完全に射出装置に固定されたのを確認した所で、専用スライドレバーを大きく後に下げて、固定する。
そして、司令室の画面中央に射出用ターゲットが現れ、オペレーター達が一斉に最後の微調整を行い、目標地点、空中を滑空する七華とマークが重なる。
「竜武、睦月射出!」
「竜武、睦月型射出します!」
双葉が、専用スライドレバーの解除と同時にスライドレバーが前方にスライドする。
それに合わせて射出装置が移動し、竜武玉は特殊射出用デッキから射出される。
「高度カウントします。8000・6000・4000・2000・1000を切りました、魔方陣開放承認お願いします」
十斗が二本突き出した専用レーバーを握る。
「真竜開放魔方陣展開」
十斗がレバーを両側に開く。
竜武玉の外殻が割れる。
そしてそれは空中で巨大な魔方陣に転ずる。
七華はロシア上空で、しがみついてるレイを引っぺがし、上に投げる。
『汝戦う為にここに在り、戦いの姿をここに、レインボードラゴン』
その呪文に答え、レイは、魔方陣から漏れる竜人界から力を己が体に変換し元の姿に戻っていく。
そしてその口から光の吐息が放たれ、七華を覆う。
七華の姿が掻き消る。
それと同時に、四足をついた状態だったレイが、直立し、まるで人間の様な体型になると降下速度の差が縮まり、機械がレイの体の要所要所を覆っていった。
そしてロシアの大地に竜騎機将ナナカレイが降り立った。
七華が竜騎機将ナナカレイのコックピットでいの一番に聞いたのは
『このクソガキ、もう少し安全という物を考えろ!』
と言うレイの言葉だった。
「結構楽しかったのに」
『何考えてる!』
コックピット内を振るわせるレイの言葉を、半ば無視して七華が言う。
「さっそく来るよ!」
両側から突進してくる竜騎機兵ヒドラに、竜騎機兵ナナカレイは片手ずつで受け止める。
『馬鹿な、地上最強の戦闘兵器なんだぞ!』
『これ一体九百万ドルしたんだぞ!』
「いまは確か一ドル百円だからやく九億か、竜騎機兵ワイバーンにお金かけ過ぎたから安めの物にしたんだなー」
『確かに、前回の奴より幾分小さい、多分百年は若造のヒドラを使っているぞ』
「まー最新装備のチェックには好都合って所かな。レイ、サンダーアームブラスター行くよ!」
そう言って両側についているスイッチをオンにすると、竜騎機兵ナナカレイの腕の装甲が開き、まるで砲門の様になる。
竜騎機将ナナカレイの口から高度な竜言語に因る呪文が唱えられる。
『ドラゴンサンダー』
レイの竜魔法は竜騎機将ナナカレイの両腕で発動し、砲門に型になった所より収束されて、竜騎機将ナナカレイの竜の世界で竜の世界をキャンセルされた竜騎機兵ヒドラにクリーンヒットする。
一撃で全機械が使用不能に陥り、ヒドラ自身も意識を無くす。
「竜魔法を収束し、レイの竜の世界で無効化をキャンセルした状態の敵に直撃を食らわす装備、アームブラスターは完璧だね」
そして竜騎機将ナナカレイは上空を見上げる。
「後は五郎さんの方だけだけど、大丈夫だよね?」
『竜騎機将ナナカレイが竜騎機兵ヒドラアルファー・ブラボーを戦闘不能にしたよ。いまレインが返還してる途中』
双葉のその言葉に、さっきから竜騎機兵ワイバーンと激しいドックファイトを繰り広げている五郎が言う。
「七華に先こされたな。帰ったらジュースでも奢るか?」
『そうですね、その為にもこいつを倒さないといけませんね』
そー答える同僚も、必死である。
接敵した時、十二機あったソードも今は六機まで減らしている。
落とされた訳じゃないが、再び戦闘に復帰するのは無理だろう。
『あいつ早いですよ、この間戦った竜騎機兵ワイバーンなんて目じゃないくらい』
「わーってる。こーなったら、ドラゴンキラーは中断だ。コックピットを狙え!」
『しかし、暴走する恐れが』
「こんだけ上空なんだ下にはそう被害は出ない。暴走した所を狙うやれ!」
そういって自分自身も、レインの魔力処理を施した魔法弾を竜騎機兵ワイバーンに撃ち込む。
竜騎機兵ワイバーンも、ファイアーブレスやミサイルで対抗するが、数で勝る竜殲滅隊が押して、ついにコックピット付近に着弾。パイロットが緊急離脱する。
『やりました。あとは暴走した所……』
声が途中で止まった。竜騎機兵ワイバーンの動きが更に早くなり、通信してきたソードを撃墜する。
パイロットは緊急離脱をして死んでないが、竜殲滅部隊に緊張が走る。
『ここで死ぬわけには行かないのだ!』
それは、竜騎機兵ワイバーンの口から出た。
「竜騎機兵に成る時、精神制御されてる筈だぞ!」
五郎の言葉に、答えるように九菜が通信機から説明する。
『多分コックピット側を攻撃したせいね、いまその竜騎機兵ワイバーンは自分の意思で行動してるわ』
そして竜騎機兵ワイバーンは連続してファイアーブレスを放つ。
『今回の稼ぎを持って帰れば、娘の治療費が出来るんだ。ここで死んでたまるか!』
「なんで意識が戻りやがるんだよ!」
歯軋りをする五郎。
正直それは最後の足掻きでしかなかった。
幾ら早かろうと、攻撃手段がファイアーブレスしかない敵に、百戦錬磨の竜殲滅隊は遅れをとらない。
確実にダメージを与えていく。
しかし竜騎機兵ワイバーンは諦めなかった。
『娘に再び空を飛ぶ喜びを与えるんだ』
執念それしか言い様の無い攻撃、すでにスピードは半減している。今なら五郎だったらドラゴンキラーを命中させられるだろう。
ファイアーブレスの吐きすぎで、口の周りが黒くこげ、翼にも無数の弾痕がある。
『娘を救えるのは私しか居ないんだ! 死ねないのだ!』
それでも戦うその姿と娘を思うその気持ちを聞いて、五郎の心が揺れる。
「俺はどうすれば良いんだ?」
『五郎さん、そいつをポイントデルタ4に移動させて』
七華の声が通信機から入ってくる。
「下から竜魔法でも撃つつもりか?」
『あちきを信じて』
七華はただそう言った。
「解かった」
五郎達は、故意に包囲隙を作る。
その隙に竜騎機兵ワイバーンは全身全霊を込めて入っていく。
そしてポイントデルタ4を通過する時、下から光り輝く槍が飛来し、竜騎機兵ワイバーンを貫く。
それは一撃で竜騎機兵ワイバーンの意識を刈り取った。
「しかし、槍の形にもなるんだねー」
バハムートの喫茶店で、七華と一緒にジュースを奢って貰っている三美が、アクセサリー状態の竜牙刀を弄る。
「大きさが変えられて、形が変えられないって訳無いよ」
七華はそう言いながらジュースをすする。
「今回はお前の総取りだな」
五郎の言葉に、七華は後を指差す。
「レインさんも、色々頑張ったみたいだよ」
七華が指差した所からレインが入ってきて言う。
「あのワイバーンの娘さんの治療が成功したそうです。今は父娘一緒に治療施設に居ます」
本当に嬉しそうに言うレイン、五郎は少し考えてから言う。
「聞いた。あの父親は娘の治療費の為に半ば非合法とされてる今回の竜騎機兵化を行ったって」
レインは少し悲しそうな顔で言う。
「はい。竜の治療は、高位の竜の手助けが必要なのですが、それを行って貰うには、大金が必要に成るんです」
「娘の治療費を稼ぐ為に無茶したのはお前の所為じゃないな」
意外な五郎の言葉に皆が驚く。
「しかし、勘違いするなよ、あのワイバーンがそうじゃなかっただけだ。現にヒドラ達は食うに困るしまつだったらしいじゃないか」
「はい。その通りです」
レインは何かを堪える様に五郎の言葉を聞いていた。
「だからお前は、今まで以上に頑張れ。今の様な辛い思いをしたくなかったらな」
そういってその場を離れる五郎。
不似合いな言葉にみんな笑いを堪えている。
一人レインだけは嬉しそうに涙を流していた。