外伝:10年後
これは竜人界のその後のお話。ナナカレイの後日談ですが、かなりダークエンドなので普通のエンドがお気に入りの人は十六匹目で終わったと思っていてください
竜人界の祭儀の間。
『竜の巫女よ、頼みます』
竜の重鎮の言葉に、一人の女性が頷く。
その女性が複雑な呪文を唱えると、空中にスパークが発生し、一つの穴が生まれ、その穴から、黒髪の女性が出てくる。
人も竜も、その女性のきゃしゃな姿に落胆の息を漏らすが、竜の巫女だけは驚きの表情を浮かべる。
「本当に召喚してくれたんだね」
その女性の言葉に、竜の巫女、レインが頷く。
「……はい」
そして、竜の重鎮が言う。
『女、お前が本当に邪悪な竜を滅ぼすものか?』
その言葉に黒髪の女性が言う。
「召喚しておいて疑るって訳?」
『今の我等に無駄な事をしている時間はないのだ』
竜の重鎮の言葉に黒髪の女性は、腕に巻きついていたアクセサリーを振って右手で握る。
『血の盟約の元、七華が求める、戦いの牙をここに表せ、竜牙刀』
手に生まれた刀の一振りで、その竜の装備を断ち切る。
「あなたの首を切り裂く位、簡単だよ」
その迫力に言葉を無くす竜と人の重鎮達。
その中、レインが言う。
「詳細は私が、別室で話します。こちらへ」
そして黒髪の女性もそれについていく。
「十年ぶりだね、レインさん」
個室に入り、黒髪の女性が言うとレインが答える。
「そうですね、七華さん。お元気そうでなによりです」
黒髪の女性、二十四歳になった七華が答える。
「二年前に出産したけど全然平気。三年前の結婚式には招待したかったんだけど、一度完全に道が閉じちゃうと中々道を作れなくって、ごめんね」
そんな十年前の雰囲気を残す七華に対して、髪の毛が全て白髪で、顔にもう皺があるレインが答える。
「構いません。三年前でしたら、とてもこの世界を離れられる状況ではありませんでしたから」
その言葉に七華が言う。
「つまり、その問題があちきを召喚した理由って訳だね?」
レインが頷く。
「はい。五年前から、一部の竜が、竜の平等を求めて反政活動を行っています。三年前の時はもう、互いへの攻撃が開始されていました」
「ふーん、まーこっちの竜って血統主義の塊みたいだから、仕方ないね。それで議会に属する竜の巫女のレインさんがあちきを呼ぶって事は、そうとう相手側の竜が強いって事だよね?」
七華の言葉にレインは少し躊躇してから頷く。
「でも失敗しました。竜を滅ぼす者を召喚しようとしたら七華さんが来る可能性もある事を、考慮に入れていませんでした」
その言葉に七華が言う。
「何それ? あちきが実力信用できない? 十年前とは一味も二味も違うって所見せてあげるよ」
胸を張る七華。
それに対してレインが首を横に振るのを見て首を傾げる七華。
「どうしたの? 本当に変だよ?」
レインが暫く躊躇してから告げる。
「倒して欲しい竜は、レインボードラゴンです」
反政組織のリーダーレインボードラゴンのレイが住む洞窟。
レイの周りには無数の竜と人の死体があった。
その洞窟に、新たな侵入者の気配が伝わってきた。
『また、くだらない戦いをしなければいけないのか』
疲れ果てたその声を出すレイを、奥で見守るゴールデンスカイドラゴンのゼロ。
そして、侵入者がレイの前に立った。
その姿を見て苦笑するレイ。
『何時かは霧流の人間が召喚されると思っていたが、まさかお前が召喚されるとはな』
そんなレイを七華が辛そうに見て言う。
「どうしてこんな事に成ったの?」
レイは真っ直ぐ七華を見て答える。
『俺達が帰ってからも事態は変らなかった。逆に悪化した。挙句の果てに出てのが、あの時送り返された竜を探し出して、処刑するなんてふざけた政令だった。お前はそれに納得できるか?』
七華が首を横に振る。
『だから、俺はエースと一緒に戦う事を決意した』
その言葉に七華が言う。
「エンペラードラゴンのエースも死んだよ。逃げ遅れた幼竜を庇ってね」
悲しげに苦笑してレイが言う。
『本当にあいつらしい最後だ』
二人の間に悲しい沈黙が出来る。
「レイ、この戦いが負け戦だって気付いてるよね?」
七華の言葉にレイが頷く。
『当たり前だ、どんなに強くても、数匹の竜が力技で世界を変えられる訳が無い。例えこの世界の竜に負けなくても、お前みたいな存在が召喚されたら終わりだ』
七華が搾り出す様に言う。
「負けるために、血統だけが全てじゃないって事を示す為に命を捨てるの?」
レイは小さく頷く。
『今だったら十斗の気持ちも解る。俺も最初は自分の力だったら世界を変えられると考えていた。だがそれ自体が間違いだ。血統主義の連中に血統が高い俺が勝っても全く意味が無い。血統こそ全てだという事を証明するだけにしかならない』
七華は竜牙刀を握り締めて言う。
「それがレイの出した答えなんだね?」
今度ははっきりとレイは頷いた。
『最後の勝負だ! 思いっきり行くぞ! ファイアーブレス』
炎の息が七華に迫る。
『ドラゴンエアー』
竜牙刀を元に発生した風の壁が、ファイアーブレスを防ぐ。
『これからが本番だ! ドラゴンサンダー』
七華は竜牙刀を前に突き出して魔法を放つ。
『ドラゴンスプラッシュ』
水が前方に放出されて、それが、ドラゴンサンダーの方向を変化させる。
その間に七華は間合いを詰める。
『腕を上げたな!』
レイが本当に嬉しそうに言いながら、尻尾を振るう。
七華はそれを紙一重でかわし、その尻尾を乗って、レインボードラゴンの体を駆け上がっていく。
『まだだ! ドラゴンフラッシュ』
レイの全身から攻撃的な光が放たれる。
しかしその一瞬前、七華は飛び上がっていた。
『ドラゴンフィニッシュ!』
七華の必殺の一撃が、レイの体を大きく切り裂く。
『自分が放っている時は、回復されるのに気絶する竜を情けないと思っていたが、結構痛いものだ。普通の竜だったら意識を失っても当然だな』
倒れて、動けないレイの横で七華が無言で立っていた。
『最初に言っておく、ゼロは夫の俺が参加してたから仕方なく付き合っていただけだ。レインにはそう説明してくれ』
レイの言葉にゆっくり頷く七華の頬から涙が流れ落ちる。
『召喚された竜殺師がお前で本当に良かった。汚れた俺も、一番輝いていた頃の思いに包まれて死んで行けるのだからな』
目を瞑るレイ。
『お前に付き合ってした、学校帰りの買い食いは本当に美味しかった』
そして命の炎が消えるレイ。
暫くした後、奥でじっとしていたゼロに近づき七華が言う。
「レイからも頼まれてるからレインの所に行こう。もしも駄目だったらあちき達の世界に来れば良いよ」
ゼロはゆっくりと首を横に振る。
『私は、レイと一緒にここで永遠の眠りにつきます』
その言葉に何か言いかけた七華にゼロが、七華達の世界にいた時の自分達の様な竜、まだ生まれたばかりの幼竜を七華に手渡す。
『この子の事をよろしくお願いします。今のこの世界では暮らしていけません。いつか竜人界がレイやエースの望むような世界になった時、連れて来てください』
七華は手の中に居る幼竜を見る。
『そのこは、レインボードラゴンでもゴールデンスカイドラゴンでもありません。全くの新種、私はシャイニング(輝ける)ドラゴンと呼んでいます』
その時、レインが駆けて来た。
「もう直ぐ討伐隊が来ます。逃がすのでしたら早く」
そう言ったレインはレイを見てその場で呆然とする。
七華は振り返らず言う。
「ゼロもここに残ってレイと一緒に行くそうだよ」
レインはゼロの方を向く。
「お願いです! 生きて下さい!」
首を横に振りゼロが言う。
『私たちの死を無駄にしないで下さい。ゴールデンドラゴンフレア』
自分自身の体を燃やすゼロ。
そこにすがり付こうとするレインを七華が押し止める。
「レインさんまで死んでどうするの! こっからの事は唯一政に携わっていた貴女にしか出来ない事だよ」
涙を流すレイン。
「しかし私は無力です。私一人の力では何も!」
そう涙を流すレインの頬を七華が叩く。
「その台詞、両親をなくしたこの子の前でもう一度言ってみなよ!』
七華はそう言って、託された幼竜を見せつける。
「レイもゼロもレインさんを信じられたから死を選べた。レインさんだったらきっと竜人界を正しい方向に導けるって信じたからだよ。それなのに、貴女がそれを否定して良いの!」
レインは涙を拭い、入り口の方を向いて言う。
「七華さんはもう帰ってください。その子が残っていたら、また余計な争いが続きます」
七華は無言で頷いて、空間転移し、自分の世界に帰って行く。
そしてレインは独り、死んでいった竜の思いを胸に自分の戦いの場に向かう。
「レイ達の死は絶対無駄にしません」
霧流家の庭で七華はシャイニングドラゴンと戯れる自分の娘、一華を見ていた。
そこに、霧流家に婿養子として入った異世界人、ブンが来て言う。
「辛かったのだね」
頷き、ブンに抱きつき泣きじゃくる七華。
「レイは一番辛い戦いを戦った大切なパートナーだったんだよ! 辛くない訳無い!」
ブンはそんな七華を抱きしめながら言う。
「でも解ってやれ。人だろうが竜だろうが自分の命を捨ててでもやり遂げなければいけない事があるって事を」
「それでも生きていて欲しかった! ゼロと子供自慢し合いたかった!」
七華の言葉にブンは頷き、シャイニングドラゴンを指さす。
「それじゃあ、あの子は立派に育てないといけないね」
頷く七華にブンが問いかける。
「名前は決まったかい?」
七華がシャイニングドラゴンを見て言う。
「ワン。レイ達の犠牲で、零まで戻った竜人界の新しい一歩になって欲しいから」
「いい名前だね」
七華とブンの前では若き希望にあふれた二つの若さが無邪気に戯れ続けていた。
ワンと名づけられたシャイニングドラゴンが、竜人界の危機を救い、竜と人との統一王に成るのはこれより千年先の話である。




